表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界でTSしてメイドやってます  作者: 唯乃なない
第5章 バロメッシュ家を離れて
188/216

怒ったふりをしようとする

 変なプレイが終わってから、中庭を散歩したりエミリーさんの針仕事を手伝ったりしていた。

 しかし、さっきの出来事のせいで、頭の中で縛られて酷いことをされる妄想が止まらない。


「ああ、もう何を考えて……って今更だ」


 人気の無い廊下を歩きながら独り言を呟いた。

 少し前までは「俺は本当は男なんだから変な事を考えるな!」と自分にツッコミを入れていたが、最近はもうツッコミを入れる気も薄れてきた。

 あえていうなら「まぁ、この身体の自分はそういう奴だから仕方が無い」といった感覚だ。


 変態なのもしょうがないし、ドMなのもしょうがないし、アルフォンスとマリーが好きなのも仕方が無い。


「ん……? あきらめたら、本当に終わりかも……。いかんいかん」


 そんなことを呟くが、ちょっと気をそらすと、妄想が次から次へと沸いてくる。

 さっきの縄はちょっとこの身体の性癖にドンピシャすぎた。

 特にアルフォンスに虐められる妄想はすごく盛り上がって……


「あー……アルフォンスに顔会わせられないわー……。でも、案外アルフォンスもそういう趣味もあったりして……」


 と、顔を赤くしながら歩く。

 あまり変な顔をしているとおかしいので、無駄に屋敷の中を何往復もして気を落ち着けて、それから自分の部屋に戻った。


 すると、マリーが硬い顔をして待っていた。


 あ、しまった。

 頭の中がエロい妄想でいっぱいでマリーを怒ることをすっかり忘れていた。

 しかし、ここでちゃんと怒らないと逆におかしい。


「マリー、さっきのは酷いんだけど」


 といいながら、足をもじもじさせる。

 何が酷いって、完全に目覚めちゃったことだ。

 縛られているときは怖くてそれどころじゃなかったけど、終わってみるとまた縛られたくなる……。

 この身体……エロすぎだろ。


「ご、ごめん。この機会を逃したらもう次は無いと思って……」


 マリーが伏し目がちに言う。

 でも、それって謝ってることになってない。


「だからって、嫌がっているのに続けるとか……。さすがに怒ってるんだから」


 本当は目覚めちゃってそれどころじゃないけど、そんなこと言うわけにはいかない。

 とにかく、怒っているフリをしないと。


「う、うん……。私……」


 マリーがせわしなく目を動かす。


「ん?」


「私……自分で思っている以上にアリスの事が好きみたい……」


 マリーがベッドに座ったまま、立っている俺を上目遣いで見た。

 その仕草、すごい扇情的。

 そして、「好き」という言葉。


「ん……ん゛ん゛ん゛!?」


 突然の刺激が脳天を突き抜けた。

 変な声も出てしまった。


「ご、ごめんね。でも、私もどうしたらいいかわかんなくて……。アリスはご主人様と結婚するべきだってわかるんだけど……理屈で分かってるんだけど……でもあきらめきれなくて……」


 マリーがいつになく気弱な顔をする。

 そんな顔をされると心臓を打ち抜かれてしまう。

 自分の胸まで苦しくなってしまう。


「お、俺がへ、変な風に気を持たせるようなことを言ったから……だよね? お、俺が悪いから」


 ぎこちなくそう言うと、マリーが首を振った。


「関係ないよ。たぶんどっちでも関係ない……」


 放っておいてあげた方がいいのかな、とも思ったが、なんとなくマリーが慰めて欲しそうな感じを察して、マリーの横に座った。

 すると、マリーがじっと俺の顔を見た。


「アリス、ほんとに優しすぎ」


「え? そ、そう?」


 想定外の言葉に、目をぱちくりさせて何も言えなかった。


「アリスって私が何をやっても怒らないし、怒ってもすぐ許してくれるし……。それで、そんなに可愛くてえっちで感度よくて声も可愛くて優しくて無防備でいじりやすくて撫でやすくてキスしやすくて抱き心地もよくていい匂いまでして性格よくて私のことを大好きなんて……」


「は、は、ははは、はい」


 あまりの言葉の羅列に脳内麻薬が一気に放出されて、変な返事をしてしまった。

 そ、そんな、可愛くてえっちとか、そんな性的な褒め言葉を使わないで欲しい。

 変に発情してるから、性的なセリフに怒るどころか悦んじゃうんだけど。


「アリスみたいな人に二度と会えるわけ無いじゃん!! ……諦められない」


 と、マリーが俺を見る。

 脳内麻薬に溺れながらも、襲われそうな気がしてちょっとだけ距離を取った。


「えっと……なんかこの前『もっと気楽に楽しんでくれればいいのに』とか言ってなかった?」


 俺はいろいろ先のことを考えて心配していたのに、マリーはそういうこと考えずにノリでやっていただけだって話を聞いた気がする。


「自分でもそのつもりだったけど……私の中の私が私が思っている以上に本気だったみたい」


「へ、へぇ……」


 そ、そうなんだ。


「えと……」


 何かを言おうとしたが、言葉が出てこない。

 マリーも黙り込む。

 気まずい時間が流れる。


「私が出て行った方がいい……かな?」


 マリーがマリーに似合っていない気弱そうな顔をした。


「……え? そ、それはないでしょ! それに、俺もマリーと離れ離れになるのは嫌だし……」


 そう言うと、マリーがちょっとだけ安心した顔をした。


「俺だってマリーのことは好きだって。ただ……その……なんか、自分でもよく分からないんだけど……時々ものすごく愛しくなったり逆に離れたくなったりいろいろするけど……」


「恋愛ってそんな感じじゃないの? 私はアリスから離れたいとか爪の先ほども思わないけど」


 と、マリーは真顔で言った。

 離れたいとか一瞬も思わないんだ。

 普通、好きでもたまには距離とりたいとか思うと思うんだけど。


「あ……そ、そう」


 なんか今日のマリーはいたずらっぽくなくて真剣で接しにくい。


「え、えっと……お、俺のことを好きって言ってくれるのは……す、すごくうれしいけど……その……マリーは俺とかじゃなくて男に興味ないの?」


 すると、マリーが変な顔をして、俺を見た。


「アリス……元男でしょ?」


 え?


「そ、そういえばそうだった! そ、そうだけど、そうじゃなくて見た目もちゃんとした男の……」


 そう言いかけると、マリーが顎に指を当てて首をかしげた。


「んー……私の本音を言うと、誰かに頼って欲しいのよね。だから、世話してあげられるような相手がいいの。何でもかんでも自分でテキパキできる人って私が居なくてもいいと思っちゃうから」


「いやいや、男ってだいたいだらしないから、そんな何でもテキパキできる男なんてめったに居ないよ」


「でも、年上ってやっぱり立ててあげないと気を悪くすると思うし、やりにくそう」


 と、マリーが渋い顔をする。

 一応、本当は俺は年上なんですが。


「そ、そっかー……。じゃあ、マリーって意外と年下が好きなんだ」


「かな……。私って相手に上に立たれるの好きじゃ無くて自分私が上に立ちたいのよね。だから、世話してあげられるような男の子がいいの」


「あ、えーと、それじゃあ例えば……」


 と、なにかマリーがいけそうな例を考えていると、マリーが俺が次の言葉を言う前にかぶせてきた。


「だから、アリスがいいの。アリスよりかわいい男の子とか居るわけないから」


「まぁ、そりゃこの見た目だけなら……」


「見た目だけじゃなくて性格も! だって、屋敷に来ていたシモンとか私より年下だけど、生意気なだけで可愛くないし」


 ジャンと一緒に屋敷に手伝いに来ていたシモンとエリク。

 シモンは生意気な方で、エリクがおとなしい方だ。


「まぁ……そりゃねぇ。シモンはマリーが好きなタイプじゃないかも」


「とにかくアリスがいいの!」


 マリーが頑なに言う。

 たしかにエミリーさんが言っていたように、こうやってみるとマリーもちょっと子供っぽい。


「そ、その……う、うれしいけど……えっと……あー……ま、まぁ、なんとかなるんじゃないのかな。今までもなんだかんだ言って、喧嘩はあったけどそれなりに仲良くしてきたし」


「そうね……。でも、アリスが結婚したらさすがにご主人様は浮気は許さないと思う」


 と、マリーが真面目な顔をする。


 結婚。

 心臓に悪い言葉が飛び込んできた。


「い、いや、アルフォンスと結婚する気はないよ!?」


「嘘?」


 マリーが顔を上げた。


「だ、だって俺、男だし。いくらなんでも結婚はできないって」


 手を振って否定するが、マリーが信じられないという顔をする。


「どうみても結婚する流れでしょ? それ、本気で言ってるの?」


「う、うん……。そ、その、勢いで変な感じになっちゃったりするけど、自分としては結婚だけは絶対に無いと思ってる。自分みたいなのが相手じゃアルフォンスにも悪いしさ」


 そう答えると、マリーが目を丸くしながらも眉をひそめた。


「ふーん……わっかんないなぁ……」


「そ、そうかな? だって、一応男だし……。つい勢いでアルフォンスとベタベタしちゃったりするし、正直アルフォンスのことは好き……だけど、それと結婚とはさぁ……違うじゃん?」


「ご主人様はする気でしょ?」


「そ、それはちゃんと断るよ」


 というと、マリーがあからさまに疑っている顔をした。


「う……と、とにかく、結婚とかしないから。だからマリーはそんな心配しなくていいよ」


「とりあえずはそういうことにしておくね。ごめん、ちょっと一人になってくる」


 と、マリーは部屋を出ていった。


 うー……

 マリーはそんなに俺のことが好きなのかー


 にへらーと自分の顔が笑っているのを感じて、誰かに顔を見られないようにそのまま布団をかぶった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ