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異世界でTSしてメイドやってます  作者: 唯乃なない
第5章 バロメッシュ家を離れて
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公園にて

 店を出た後、俺とマリーは焦った表情を浮かべて道を歩いていた。


「うわー……焦ったー……めっちゃ見られていたよ」


「そうみたいね。私、壁に向いていたから気が付かなかった。あんなに見られているとは私も思ってなかったから」


 マリーも少し恥ずかしそうな顔をしている。


「中途半端になっちゃったけど、帰る?」


 と聞かれたので首を振った。


「も、もうちょっと一緒に居たい。えっと、二人きりになれる静かな場所がいい……」


 そう言うと、マリーが俺の方を見ずに大きく息を吐き出した。


「そんなに私のことが好きなの? あーもー……ほんとかわいい……。そんなに可愛くされると、私も困るんだけど……」


 マリーがちょっと恥ずかしそうな顔をする。

 おおおお、その表情すごくいい!!


 目をキラキラさせていると、マリーが咳払いをして真顔になった。


「じゃ、公園に行こうか? あそこならあまり人いないから」


「うん」


 マリーが先に立って歩きだす。

 一度行ったことがあるらしく、今度は悩む様子もなく道を歩いて行く。

 遅れないように付いていくと、その公園にたどり着いた。

 中央に小さな池があり、水の上の落ち葉が風に煽られてゆっくりと動いている。

 俺たちに驚いた小さな鳥が飛び立って行く。

 なかなか広くて静かな公園だ。

 他に人影もなく、ここなら人目を気にする必要は無さそうだ。


 ただ、人が居ないだけあって、それほど整備されていないようだ。

 生け垣もかなり伸びているし、池の横にある2つの街灯はかなり汚れている。

 この世界には電気がないので街灯は人力で火を付けているはずだが、この汚れ具合からしてこの街灯はずっと使われていないのだろう。


「この前見つけたんだけど、この公園って全然人が居ないのよね~」


「みたいだね。えーと……座るところはないの?」


「そういえば、ベンチは見てないなぁ」


 マリーが不思議そうに公園を見回す。

 二人で並んでベンチを探して歩く。


「んー……無いねぇ。この世界の公園にもベンチってあるんだよね?」


「あると思うけどね。この公園にはないのかな? おっかしーなー」


 マリーがちょっと子供っぽい声を出す。

 そのまま小さな公園の中を歩き回ったが、ベンチは見当たらなかった。

 あまり手入れはされていない公園のようだから、ベンチも撤去されてしまったのかも知れない。

 あるいはボロボロになって、貧乏人に薪にされてしまった可能性もある。


「ま、いいじゃない。とりあえず誰にも聞かれないから」


 と、マリーが明るく言う。

 本当は座ってマリーとゆっくりお話をしたかったのだが、仕方が無い。

 マリーがゆっくりと所在なげに歩き出したので、その横を同じように歩く。

 マリーがちょんちょんと俺の頬を突っついてきた。

 避けようとしてもあんまりにも突っついてくるので、こっちからやり返そうとしたら脇をつつかれた。


「ふあっ! ああっ! あっ! ひっ!」


 しかも、連続で何度も。


 身体を硬くして離れようとしたら、マリーがニコニコ笑いながら突いてきた。


「や、止めてってば!」


「だってかわいいんだもん」


「脇はダメ! ダメ!」


「へぇ~」


 と、いたずらっぽい声が聞こえたと思ったら、後ろから手が伸びてきた。


 な!? なんと素早い動き!?


 と、思っているうちに後ろからしっかりと抱きしめられていた。


「ちょっ! マリー! やめ……」


 振りほどこうとしたけど、特にいたずらしてくる様子がないので抵抗を止めた。

 すると、マリーがぎゅっと力を込めて抱きしめてきた。

 後ろから抱きしめられるって、これも結構心地がいい。

 お腹に回されているマリーの腕を両腕で包んだ。

 一応、腕だけでも俺から抱きしめているつもり。


「アリス……いい匂い」


 耳元でマリーの声が聞こえた。


 ん、匂い!?


 慌ててマリーを振り払おうとしたが、マリーはさらにきつく抱きしめてきた。


「ご、ごめん! なんか臭い!?」


「あははっ、違うって。アリスってほんといい匂いだよー」


 匂いって言われても……自分で分からないし、不安だ。

 そういえば、一度マリーに匂いを嗅がれて恥ずかしくて逃げ出したことがあったな。

 大丈夫かな……変な匂いじゃないといいけど。


「あーもー……私が男ならよかったのに……」


 と、不穏な言葉が後ろから聞こえる。


「前も言ったけど、それだと性別が逆でしょ……」


「でも、アリスが男に戻ってもなんか違うのよね。私は今のアリスを思いっきり可愛がりたいのよね」


 と、マリーが言う。


 その気持ちは分かるが、なんだか微妙な気分だ。

 きっと自分が男のままだったら、マリーと仲良くなることもなかっただろう。

 マリーに後ろから抱きしめられているのは、なんだか落ち着かないと同時に妙な安心感もあって、なんか変な気分だ。

 マリーが無理矢理キスとかしてこなければ、恋人関係だったときももっと普通にできたのに。

 今はただの友達だし……


 ん、友達か!?

 友達ってこんなことするっけ!?

 いや、しないよね!?

 でも、このままずっと抱きしめていて欲しいし、指摘しないで黙っておこう。


「…………さむっ」


 風が吹いてきて身体が震えた。

 うー……気温はそこまで低くないけど冬が近いだけあって風がかなり冷たい。


「結構歩いたし、帰ろっか」


 マリーがぱっと俺を離して歩き出した。

 とっさに追いかけてマリーの手を握る。


「も、もっと抱きしめていて欲しい……かも……」


 そう言うと、マリーがなんとも言えない顔で天を見上げた。


「アリス……ちょっと乙女力が強すぎ。かわいすぎていい加減にして欲しいくらい。なんでそんなに可愛いのよ……」


 今度はマリーが前からしっかりと抱きしめてくれた。

 今までだと背中とかいじられるかもと緊張していたが、今はそういった不安がない。


「ぅぅ~~~!」


 無意識に甘えているような声が出る。

 

 すると、マリーが額にキスをした。

 額だからセーフ。

 セーフなはずだ。


 どっちにしろ、今の自分にはマリーから離れる気なんてさらさらない。

 マリーに力一杯抱きついていると、マリーが脇腹をぽんぽんと叩いた。

 そろそろ離れろってことらしい。


「ん……」


 不満そうな表情を浮かべながら離れると、マリーが本当に困った顔をしていた。


 ん、なんで困った顔してるの?

 やっぱり俺がうざい?

 嫌われた?

 前はマリーの方がガンガン俺に来ていたわけだし、そんなことはないよね。

 う、うー……


「アリス……ちょっとは抑えてよ。そんなに正面から好き好きされたら私だって……」


「え?」


 きょとんとしていると、マリーがさっと向きを変えて歩き出した。


「もう帰るよ」


 あわてて追いかけた。


 その後、屋敷に戻ると、ほとんど会話もしたことがない茶髪のメイドさんにものすごく変な目で見られた。

 俺とマリーでそんなに変な雰囲気を出していたのだろうか……


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