お着替え
買い物から帰って部屋に戻ると、マリーがぱぱっと物怖じせずに俺の前で服を着替えた。
いつもながら、その遠慮の無さはすごい。
体は同性とはいえ、もうちょっと気にしてもいいと思う。
そんなことを思っていると、着替え終わったマリーが俺をじーっと見た。
「な、なに?」
「アリスも着替えたら?」
「き、着替えるよ。後で」
うつむいて言うと、マリーが目を細めたのが視界の隅に入った。
「えー? 早く着替えたらー?」
マリーがふざけて煽ってきた。
「着替えるから、早く部屋を出て行ってよ」
「アリス、そういうところだよ。そうやって着替えるだけで恥ずかしがるところが本当にえっち」
そう言われて、焦ってちょっと大きい声で言い返した。
「な、なにがだよ! ってか、みんなその辺気にしなさすぎるんだよ! レベッカもアリスも……コレットも……。まるで俺がおかしいみたいじゃん」
「アリス、気にしすぎ。お姫様じゃないんだからメイドなんてやってたらそんなこと気にしないものよ」
「そ、そうなんだ」
たしかに、バロメッシュ家は比較的余裕があるが、忙しいところは本当に忙しいだろう。
着替えだとか下着がどうだとか、使用人がそんな細かいことを気にしている余裕はないというのも予想できる。
「わ、わかった……」
たしかに自分だけ気にしているのも変かも知れない。
マリーが見ている前で、胸元のボタンに手をかける。
だ、大丈夫。俺は気にしすぎなんだ。
この世界では気にしすぎる方がおかしいんだ。
これは全く普通のことなんだ。
そう言い聞かせるが、顔が赤くなってくるのを感じる。
「手が止まってるわよ」
マリーが真顔で言う。
「う、うん」
ボタンを二つ緩めると、下着の上に防寒のために来ている薄い生地のインナーがあらわになる。
素肌どころか下着でもないので、マリーどころか男に見られてもなんともないはずのものだ。
だが、伸縮性の生地で体の形がはっきり見えてしまうので、なにかそれだけで隠したい気分になる。
「ほら、早く」
マリーが真顔で促す。
「う、うん……」
分厚い生地のカーディガンを脱ぐと、上半身がインナーだけになる。
貧相な体の線があらわになって恥ずかしい。
思わず胸の辺りの輪郭線を見られないように、手で隠す。
「ちょっと、なに隠してるの?」
マリーの口角が上がった。
あ、あれ?
「まさか、楽しんでる……?」
「何言ってるの?」
マリーが真顔になる。
あれ、勘違い?
「次は下ね。スカートを外す前に、下のタイツを脱いで」
「そ、そう?」
スカートがめくれて下着が見えないように四苦八苦しながら、黒いタイツを脱ぐ。
「うわ、エロ……」
聞き捨てならないセリフが聞こえて、顔を上げると、マリーがニヤニヤしながら俺を見ていた。
「マ、マリー!?」
「服を脱ぐだけでこんなに興奮するって……アリスって本当にエッチ。ほんと、才能だよね」
マリーがぐふふという効果音がつきそうな顔をする。
「な、なに、そういう目で見ていたわけ!? あ、ありえないし!」
慌ててスカートを押さえながら大声を出すと、マリーがちょっと困った顔をした。
「言っておくけど、私だって驚いてるんだけど。なんでそんなにエッチな服の脱ぎ方するの?」
「な、なにが!?」
「だって、私の視線を気にしながら、顔を真っ赤にしながらゆっくりゆっくり服を脱ぐんだもん。この後私と一緒にベッドに入る気なのかな、って見えるんだけど」
マリーが半分困って半分喜んでいるような顔をしている。
「は、はぁ!? た、たしかに恥ずかしいけど、別にそんな誘ってるつもり無いから!」
「アリスが恥ずかしがると、女でも変な気分になるのよねー」
「も、もう、出てってよ!」
服がずり落ちないように押さえながら、マリーを部屋の外に押し出した。
「はいはい」
マリーが仕方なく部屋を出て行く。
着替えるだけで発情されるとか……
なんと感想を言えばいいのかすら分からない。
無心で服を着替えた。




