クロエとの再会
ある日のこと、食堂で優雅に紅茶をキメていると入り口の方でなにか音がするのが聞こえた。
どうも誰か来たらしい。
部屋に戻ってまた呼んでもらうのも申し訳ないので、紅茶とお菓子を優雅に満喫しながら待つことにした。
メイドさんの声となにか人の声が聞こえて誰かが来ていることは間違いない。
しかし、なかなか来ない。
「ん? もしかして俺以外の来客?」
ここではメイドさんも執事も働いているので、彼らに対する来客という可能性もある。
しかし、そんなことを思っているうちに食堂にメイドさんが入ってきた。
「お客様がお越しになっています」
「あ、やっぱり私への来客なんですね」
とっさに女言葉に直して応対すると、そのメイドさんの陰に隠れるように遠慮がちに女の子が入ってきた。
クロエだ。
チェック柄のチュニックのような物の上から黒いカーディガンを羽織って、全体的にすごくシックな雰囲気だ。
化粧も抑えめながらしっかりとしていて、とても大人な雰囲気を醸し出している。
どこかのパーティに出るのだろうか、と思うほど全身きっちりコーディネートしているのが一目で分かる。
「え、クロエ!?」
めっちゃ久しぶりだったので、大声を出して思わずお菓子をこぼしそうになった。
そのまま口に放り込んで流し込んでしまおうかと思ったが、なんか粗暴に見えそうだからお菓子を一度皿に置く。
「あ、そっか。マリーがクロエにも住所を伝えたのか……」
「ご、ごめんなさい。迷惑だったでしょうか」
クロエが下を向いて緊張した面持ちで言った。
緊張というか、絶望と不安でいっぱいに見える。
あ、あれ? な、なんだ一体?
クロエってこんな人だっけ?
「そ、そんなことないけど……ひ、久しぶり」
割とクロエの事を忘れがちだったので、罪悪感で言葉が濁る。
あんな思わせぶりなキスをしておいて、全然連絡取ってなかったしなぁ。
怒ってるのかなぁ……
ぎこちない対応をすると、クロエがますます硬い表情になった。
ん? 怒っている?
いや、なんか怒ってるのとも違うみたいだな。
「マ、マリーはどうしたのかしら?」
気まずさに耐えられないようにクロエが俺の目を見ずに言った。
先ほどから一度も目が合っていない。
「マ、マリー? 今日は見ないね……あ、そういえば、なにか買い物に行くって聞いたけど」
「そ、そう……」
クロエが神経質に自分の髪に触って、そわそわする。
クロエの髪は俺と同じ銀髪だ。
銀髪は珍しいので、改めて考えてみると不思議な気分になる。
って、今は髪とかどうでもいいんだ。
「クロエ、ど、どうしたの?」
思い切って聞いてみると、クロエが他人行儀な感じで顔を合わせずに視線をさまよわせた。
「お、お元気にされているかと思って様子を見に来た……」
なんか言葉遣いがおかしい。
ん? ん?
「え……?」
困っていると、クロエもうつむいて黙り込んだ。
気まずい時間が流れる。
「お茶を持って参りますね」
俺とクロエの挨拶を見守っていたメイドさんが部屋を出て行った。
メイドさんは表情を変えないようにしていたが、気まずくなったから逃げ出したことに間違いはない。
俺もすごく気まずい。
「え、えーとー……」
何を言おうかと悩んでいると、クロエがカバンから何かを取り出した。
「あの、も、もしよろしければ、この手紙を読んでいただけないでしょうか……」
それは封筒のようだった。
は?
な、何事?
クロエが俺から距離を取った位置から、ものすごく遠慮がちに手だけを突き出すように封筒を差し出してきた。
しかも、その手が細かく震えている。
「で、出来れば他の部屋で読んでいただけませんか……。だ、ダメでしょうか」
クロエがうつむいたまま、緊張で震えているような声で言う。
「え? だ、ダメじゃないけど……」
クロエの手から手紙を受け取ると、クロエは手をさっと引っ込めて黙ったまま椅子に座ってしまった。
「じゃあ……よ、読んでくるね」
俺は気まずい雰囲気から逃げるように部屋を出た。




