ジスランさんの別荘
馬車に揺られ、俺とマリーはジスランさんの別荘にやってきた。
その初日はなんとも落ち着かないものだった。
大貴族になると、家を三つ四つ持っているのは当たり前らしいが、別荘までそんな大きな物だとは思っていなかった。
小ぶりな建物を予想していたのに、着いてみたらアルフォンスの屋敷よりも二倍ぐらいの大きさがあった。
そして、中に入っても調度品が豪華で驚いた。
バロメッシュ家は家風なのかお金に余裕がないのか分からないが、無印良品的な皿を普段使いしていて、壁に気の利いた絵も飾られていない。
しかし、この別荘では俺たちが客と言うこともあるだろうが金箔で形取られた高そうな皿を使っているし、壁にはちゃんと風景画や人物画が掛かっている。
そして、メイドも執事もいて、教育が行き届いていることがよく分かった。
荷物を豪華なベッドとタンスがある客間に荷物を運び込んでから、早速昼食を振る舞われた。
部屋に戻ってから、マリーと二人きりになってから、ようやく少し気が抜けてため息を吐き出した。
俺が椅子に座り込むと、マリーも向かいの椅子に座って少し浮かない顔をした。
「なんか……すごいところに来ちゃったかんじ」
俺がぽつりと言うと、マリーが頷いた。
「そうよね。ここのメイドたち、みんな行儀作法が完璧でちょっと衝撃を受けちゃうよね」
マリーが自信なさげに言う。
どうやらマリーは同業として劣等感を感じて居るみたいだ。
それで浮かない顔をしていたのか。
「さすがに大貴族の屋敷だね。教育もすごいんだろうね。うちとか特に教育とか無いもんね」
「そうね……。あの人たちの前でメイド服を着ているのが恥ずかしくなっちゃった」
と、マリーがぼやく。
俺は私服だが、マリーはメイド服なので、メイドなのは一見してすぐに分かる。
「いやいや、あの人たちは給料とか絶対に高いし、一般メイドの俺やマリーが気にすることないって」
「そうなんだけどね。なんだかなー」
「俺としては、調度品が豪華で驚いたけどね。そりゃクロエの屋敷だって豪華だったけど、あそこは普段住んでいる場所だからまだ分かる。ここは別荘でめったに来ないのにこれだけ豪華なんて、どれだけお金があるんだろうね」
「そうね。本当に格の違いを感じるなぁ……」
マリーが目をつむって言った。
マリーって意外とそういうこと気にするタイプだったんだ。
「本当は私がいろいろ買い集めたりアリスのお世話をしたりしないといけないかなと思ってたんだけど……ここだと本当に至れり尽くせりね。私のやることなさそう」
マリーが苦笑いで肩をすくめた。
「いいじゃん。楽しんじゃえば」
「そうね~。でも、ちょっと慣れないかな。もてなされたことはあまりないし」
マリーが軽く笑ってから、立ち上がった。
「とにかく、荷物を片付けようか」
「そうだね」
俺も立ち上がって、残りの荷物を片付けだした。
その後も慣れない屋敷で慣れない一日を過ごし、豪華な晩餐と大浴場で一日が締めくくられた。
夜になってマリーがなにか言いたそうな顔をしていたが、自分は疲れてしまってそのままぐっすりと寝てしまったのだった。




