速達
それから乗合馬車に乗って屋敷に戻ると、ジャンは丁寧にお礼を言って帰って行った。
俺はジャンから受け取ったエロ本が詰め込まれた袋を下げて、屋敷に入った。
「あれ、早かったね」
珍しく玄関でほうきを掃いていたマリーと出くわした。
「あ、うん。あんまり張り切るとまた体調壊すからね」
「そっか。繊細だもんね」
マリーが機嫌の良さそうに笑う。
ジャンとデートしたことで機嫌悪いかと思ったけど、そうでもない。
よかった。
でも、なんとなくこの袋を持ってマリーの前に居るのが落ち着かない。
さりげなく袋をマリーから隠す。
「えっと……荷物が重いから、部屋に戻るよ」
「なにか買ったの?」
マリーが悪気無く聞いてきた。
「え?」
しまった。
ここでうっかり「本を買った」とか言ったら、「後で見せて」となるに決まっている。
「え、えーと……いや、買ったんじゃ無くて……」
「もらい物? まさか、ジャンからプレゼントでももらったの?」
マリーが顔をしかめる。
「ち、違うよ。ただの……忘れ物! ジャンのやつ、あわてて帰って自分で買った物を忘れてったんだよ。明日返すつもり」
我ながらうまい嘘をついた。
心の中でガッツポーズをした。
「なんだ」
マリーが納得したように頷いた。
「あ、そうだ。ご主人様が用事があるらしいわよ」
「え、まじ?」
一体何だろうか。
とりあえずマリーの検閲はうまく免れて、部屋に戻ることが出来た。
自分の下着やメイド服が入っている引き出しに買ってきた本を詰める。
開けられたら一発でばれるが、マリーたちも勝手に人の荷物をあさったりしないので大丈夫なはずだ。
大丈夫……だよな?
うーん、まぁカモフラージュはそのうち考えよう。
本をしまい込んでから、ささっとメイド服に着替える。
それにしても、用事ってなんだろうか。
俺はこれから人目を忍びながら、この本たちに目を通そうと思っていたのに。
そんな不満を感じながら書斎に行くと、男がそわそわした様子で部屋の中を歩いていた。
「ただいま帰りました。なにかご用ですか?」
「帰ってきたか。今、ダニエルから速達があったんだ」
男が落ち着かない様子で俺を見た。
「ダニエルから?」
あれ、ダニエルが連絡してくるようなことがあったっけ?
「腕のいい技師が見つかったから、お前の世界にあった物を作るための相談に来るそうだ」
男がなぜか心配そうな顔をしながら言った。
「ああ!」
思い出した。
そういえば、映画を実現するために技師を探すと言っていたっけ。
それにしても、なんでアルフォンスがそんなに心配そうな顔をするのか。
「なるほど……。で、いつ来るんですか?」
「それが急でな……。明日来るそうだ」
アルフォンスが当惑したように言った。
「明日!?」
本当に急だった。




