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難攻不落の魔王城へようこそ~デバフは不要と勇者パーティーを追い出された黒魔導士、魔王軍の最高幹部に迎えられる~【Web版】  作者: 御鷹穂積
第二章◇レメゲトンとして恐れられ、レメとして認められ始める話? と、○○な勇者

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83◇ぶちかませ白銀の一撃

 



 このトーナメントは元々が試験的なもの。


 勇者(ヒーロー)ショーと同じで、こういう魅せ方もあるのだ、こういう見世物もあるのだと示す為のもの。


 一応観客席やフィールドの壁などにカメラがあるが、放送でどれくらい使われることか。


 メインはあくまで本戦。

 ここで躓くわけにはいかない。


『レメ選手を撃破した方が本戦に駒を進めた場合、試合前の紹介映像でそのあたりのお話を聞かせていただきたいですね』


 フェローさん……。

 娘の手先を排除したい……というわけではないだろう。


 邪魔するなら審査で適当な理由をつけて弾けばいいのだから。


 フェニクスと話した時に、こうも聞いていた。

 彼は角の継承に気づいているようだ、と。

 自分が継ぐかもしれなかった角を移植された【黒魔導士】。


 その実力を試そうというのか?

 あるいは僕を――。


「は? マジ?」「テレビに長く映るチャンス!」「ありがと元四位!」「悪いけど再起とか無理っすよ、ここで倒しちゃうんで!」


 続々と選手たちが僕を見る。

 そうでなくても楽に落とせそうということで狙われているようだったが、フェローさんの発言で視線の数は増大。


 丁度いい。

 本来ならば、サポートメンバーというのは目立たないものだ。【勇者】や他の仲間を支援するものが仕事なのだから。周りを目立たせる存在なのだから。


 だがこの場においては、元四位パーティーというのが効いている。

 フェローさんの言葉もあり、僕に意識が集まっている。

 僕のパートナーに気を払う者は、いない。


 親友にも愛想を尽かされた寄生虫がなんとか捕まえてきた亜人。どうせ取るに足らない雑魚だろうと。

 それでいい。その方がいい。


 見る(、、)

 僕ら以外は十五組。

 その中にフルカスさんとケイさんはいない。


 六組ほどが僕を狙い、内二組が突出気味。

 フィールドでは既に戦闘中の者たちもおり、それが計七組。

 残る二組は様子見を選択し、幸いにも誰にも狙われていない。


 【勇者】【戦士】ペアと【勇者】【聖騎士】ペアの突出した四人に速度低下を掛ける。【勇者】二人に断絶を意識させぬ『空白』を挟むことで片方が躓き、片方が体勢を崩す。もちろん、タイミングはズラして発動。


 パートナー達は【勇者】と動きを合わせて戦おうと、遅れを待つ。

 そうして四組に追いつかれる。

 半円を描くように並んだ彼らが、一斉に僕に襲いかかる。


「これは、タッグトーナメントだろ。どうして分からないんだ」


 その声は、普段の彼女と比べると低い。魔力体(アバター)の声帯を弄って、出せる声の幅を広げてある。


 壁だ。半円を描くように屹立するは――白銀の壁。

 それが【勇者】【戦士】【聖騎士】【重戦士】――選手たちの剣を槍を斧を弾き、または受け止める。


「二人で一組なんだよ。片方を無視していいわけないだろう」 


 彼女をなんと表現すればいいだろう。

 蟲人と呼ばれる種族がある。そのまま蟲の特性を持った亜人なのだが、蟲はとにかく種類が豊富だ。多様という方がいいか。


 蟲人と括っても、例えば上半身が人間で下半身が蜘蛛の者もいれば、ほとんど人だが臀部、背中、頭部に蜂の特徴を持った者もいる。


 殻種というのは、甲虫のような外骨格を持った蟲人を指す。


 彼女の目元には甲虫の頭部を連想させる仮面が装着され、その体は女性的なフォルムを残しつつも、ところどころが外骨格に覆われている。


「な、なんだ……!」「土魔法だろっ、でもこの硬さはっ!」「あの蟲人がやったのか!」「他に誰がいんだよ!」「いやでもっ、レメのツレだぞ!? こんなレベルの魔法、使えるわけ――!?」


 たとえば鳥人は、飛翔に風魔法の後押しを必要とする。

 どうやら、人に翼が生えたところで、鳥のように羽ばたくことは出来ないらしい。


 また人魚は海中で望む方向に進めるよう水魔法が得意で、それを上手に使うことによって深海での活動も可能とするらしい。


 ミラさんを含む吸血鬼だって、血を操る能力が標準装備だ。


 人間をノーマルと呼ぶことがあるのは、種族としての個性がないからというのもあるだろう。

 その分多様性に富み、結果として数を増やしたわけだが。


「行こうか、レメ」


「そうだね、ベリト」


 とにかく、蟲人にも種族柄備わる魔法がある。

 それが土魔法。森で暮らす彼らが獲得した力。


 土の分霊と契約したニコラさんが擬態するのに最適な種族といえた。


 ちなみに、エルフは風魔法や土魔法が得意な者がそれなりにいる。

 リリーはそういった才能に恵まれなかった分、弓の練習を積んだらしい。


「ちっ、壊せねぇっ。なぁ魔法はま……だ……え?」


 突出組の【戦士】、そのパートナーである勇者の顔に、杖が突き刺さっている。

 彼の体がそのまま弾け、退場。


「え? は?」


 僕がこの大会で新調したのは、杖。

 元々、杖を持つ魔法使いは多い。杖には魔人の角と似た機能があり、込められた魔力を高密化かつ純化するのだ。


 ただし、溜めておくことは出来ない。

 体から杖へ魔力を流し、精製された魔力で魔法を使うという道具だ。その工程を経ることで魔法効力が増大する。


 ただどうしてもワンテンポ動きが遅れるので、冒険者時代も持ってはいたが実際に使用することは少なかった。


 今回新しく買ったのは、ある機構を備えているもの。

 今のところ、先端の尖った杖。それで充分。


 ベリトが阻んだ敵の攻撃。

 僕は敵の位置を把握していた。

 僕の突きのタイミングに合わせ、ベリトが壁に穴を開ける。

 後は不意を打たれた勇者の顔に尖った杖の先端が突き刺さって終わりだ。


 呆然とする【聖騎士】も隙だらけなので心臓の位置を貫き退場させる。

 残る五組が僕の不意打ちを警戒し、下がった。


「行けるかい?」


「ばっちりだよ。残りを、倒しても?」


「もちろん、派手に行こう」


「そのつもりさ」


 対フィリップさん用と、対フルカスさん用の作戦をここで使うつもりはない。


 これは何も手抜きではない。

 予選が全てならここで手の内の全てを晒してもいいだろう。


 けれど僕らは『大会優勝』という一つの目的に向かっている。

 だからこの場合の全力は、どこでどう力を使うかまで考えることを言う。


 出せる力の全てを常に注いでいては、優勝出来ない。

 ならば出すべきではない。

 その時々で、勝利に必要なことをする。これでいい。


 壁が崩れる。


「……なんだ、あれ」


 誰かが言った。


 ちょっとした馬車ほどまでに肥大した右腕を見れば、そうも言いたくなるか。

 ベリトの右腕は、白銀に覆われていた。


「は、ハッタリだ! あんなもん纏ってて、どう当てるってんだよ!」


 【勇者】の一人が叫ぶ。

 じゃあ、彼にしようか。

 僕はわざとらしく彼に杖を向ける。


「――っ? 体が……黒魔法か? これ」


 杖を使って速度低下を発動。黒魔法の範疇でありながら効力は常識を凌ぐ。

 ギリギリ、世界四位パーティー相当の実力者だったのか……と後で解釈出来る程度。


 少し残念なのは、【黒魔導士】を前にして魔力を纏っていなかったこと。黒魔法を防ぐつもりがないのだ。レメ程度、恐るるに足りぬというわけか。


「おい、動き出したぞ! お前なんで下がらないんだ!」


「違う、体が重いんだよ!」


 パートナーの【聖騎士】と言い争う【勇者】の許へ、ベリトがたどり着く。

 いや、拳の圏内に入ったというべきか。


「はぁっ!? あぁもう! 俺がこの一撃を防ぐ、さっさと抵抗(レジスト)し――」


 彼の言葉を最後まで聞くことは出来なかった。


 凄まじい勢いで後方に吹き飛び、フィールドの壁面で弾けたからだ。


 もちろん、退場しただけで散ったのは魔力体(アバター)を構成していた魔力だが。


 被害は【聖騎士】と背後にいた【勇者】。吹き飛ぶ彼らに体が掠って腕が飛んだり腹や足がえぐれたりした冒険者複数。


 ベリトの振り抜いた拳の威力は、すぐさまみなに伝わったことだろう。


「うん、いいね」


 僕が杖を構えると、目に見えて選手たちが警戒の色を露わにした。


 ……レメとして同業者に警戒されるなんて、ほとんど初めての経験だな。


 近づけば壁。黒魔法は想像より効力が高そう。黒魔法で遅くされては、蟲人の拳を避けられない。直撃すれば退場。


「どうしたんだい? レメを倒すんだろう? 指一本、触れさせるつもりはないけどね」


 じりじりと後退する選手たち。

 彼らに、ベリトを倒す術はなかった。

 そうして僕らは危なげなく予選を突破。

 本戦への出場権を獲得した。




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