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難攻不落の魔王城へようこそ~デバフは不要と勇者パーティーを追い出された黒魔導士、魔王軍の最高幹部に迎えられる~【Web版】  作者: 御鷹穂積
第二章◇レメゲトンとして恐れられ、レメとして認められ始める話? と、○○な勇者

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69◇シスコン(?)勇者のお迎えと次回の約束と、火精霊使い

 



「兄さん……なんで此処が」


「お前の行きそうなところくらい想像がつく」


 彼はつまらなそうに言っているが、僅かに息が上がっているしうっすらと汗を掻いている。

 常人を遥かに凌ぐ身体能力を持つ【勇者】がこうなるということは、相当走り回って探したんだろうな。

 『様子が変だった』というだけでそこまでするあたり、相当心配性なのか、妹思いなのか。


「素直に気持ち悪いんだけど」


「黙れ。誰だこいつらは……亜人の童女と、『男』? どういう知り合いだ?」


「と、友達だよ。ボクが誰と何しようが勝手だろ」


「勝手じゃあない。万が一にも正体がバレてみろ。男と食事だと? 騒がれるに決まっている。そんなことも分からないのか」


「……二人きりじゃないし、カシュちゃんもいるし」


 いきなり現れたフィリップさんに、カシュが不安げな顔をしていた。

 フィリップさんはこれまでの冷たい表情から一転、優しげな笑みを浮かべる。


「あぁ、いや済まないねお嬢さん。俺は怪しい者ではないよ。このお姉さんの兄だ」


「ニコさんの、おにーさん、ですか?」


「そうなんだ。心配で探しに来たんだが、君と一緒に御飯を食べていたんだね。妹の相手をしてくれてありがとう……そして、そちらの方だが、妹との関係をお聞きしても?」


 フィリップさんにはしっかりと『混乱』が効いている。

 僕を『どこにでもいそうな男』としか認識出来ないし、その認識に違和感を持つこともない。

 カシュへ向けた笑顔はどこへやら、僕を睨んでいた。


「彼女の言っていたように、友人ですよ」


「どこで知り合った? どんな知り合いかな?」


「に、兄さん、失礼だろっ」


 兄に僕の正体がバレていないことに気づいているだろうが、彼女もそこには触れない。


「申し訳ないが、妹には近づかないで頂きたい。――おい、帰るぞ」


「ボクのプライベートまで、兄さんに干渉されたくない」


「そういうのは、普通の兄妹が話すことだ。お前は誰だ、ニコ? 何者で、何を目指し、何が起きたらまずい?」


 彼女は【銀嶺の勇者】ニコラ。冒険者で、高みを目指している。王子キャラで売り、美しさと紳士的な振る舞い、スマートな魔法が人気を集めている。盗賊姫との絡みでファンは沸き、数多くの女性が彼女に憧れている。


 だから、普通の人みたいに普通に恋人を作るなんてことも、一大事になり得る。

 それも僕みたいな冴えない男となんて、噂が立っただけで面倒なことになるだろう。


 フィリップさんの言っていることが、僕には理解出来た。

 理解出来ることと共感することは別だけど、理解は出来た。


「……兄さん、嫌いだ」


 反論出来ないのか、感情を口にするニコラさん。お兄さんの前だからだろうか、ほんの少し幼さが出ている気もする。


「そうか。愛してるぞ妹よ」


 フィリップさんは鼻で笑い、それから僕らを見た。


「店には話を通しておきました。どうぞ心ゆくまで食事を楽しんでください。お嬢さん、よければまた妹と逢ってやってくれ。そこの殿方は抜きでね」


 カシュに笑顔を、僕に鋭い視線をくれた彼は、そのまま店外へ向かう。


「あの」

 

 僕は彼を呼び止めた。


「なんでしょう」


「様子が変だったと言いましたよね。心配なら、話を聞いてみては?」


「……そうですね」


 僕に言われたのが嫌だったのか、彼は一瞬不快そうな顔をしたが、結局は頷いて背を向けた。


「ご、ごめん二人共。兄さんは性格がアレなんだ」


「君を心配しているように見えたけど」


「……どうかな。『白銀王子』って商品に傷がつくのが嫌なんだよ、兄さんは。これ(、、)は兄さんが作り上げたものだから。……まぁ確かに、嫌な奴だけど悪い人間ではないかな」


 『白銀王子』というキャラクターは、彼の兄が考案したものらしかった。


 冒険者は人気商売。メンバー脱退やスキャンダル、不祥事などでランクが下がることはよくある。

 そういう意味でも、不動の上位三パーティーは凄いのだ。


「あ、あのさ、レメさん」


 席から立ち上がったニコラさんが、僕の近くに寄ってくる。

 そのまま耳許に顔を寄せてきた。

 ふわりと漂う、爽やかな匂い。近くに感じる体温。

 一瞬ドキリとしてしまう。


「また逢えるかな、その……今日、話せなかったこともあるし、さ」


「そうだね、分かった」


 僕は宿の名前と場所を彼女に伝える。


「その時もカシュと一緒になると思うけど、いいかな」


 ニコラさんと逢う為に宿で留守番させるとか、保護者失格もいいところ。

 決してメモが怖いとかではない。これは責任の問題だ。


「もちろんだよ。カシュはいいかな、またボクと逢ってくれるかい?」


「は、はいっ」


「嬉しいな。ボクは職業柄、亜人の友達が少ないんだ」


 友達、という言葉にカシュが嬉しそうな顔をする。

 ミラさんやシトリーさんとも仲のいいカシュだけど、どちらかというと二人は同僚。

 カシュは幼いながらに苦労人なので、お仕事抜きにしての友達となると少ないのかもしれない。


「わたしも、うれしいです」


「甘いものが好きなんだよね。オススメの店があるから、そこにお連れするよ」


 ぱぁっとカシュの表情が明るくなる。


「それじゃあ二人共、またの機会に」


 そうして、ニコラさんは店を後にした。

 カシュは彼女が店を出るまで、手を振っていた。

 ニコラさんも時折振り返って、応じてくれた。


「仲良くなれたみたいだね」


「ニコさん、良い方です」


「だね」


「ほーこくしょにもそう書いておきますっ」


「……そっか。ところでカシュ、僕はお腹いっぱいだから、このケーキ食べるかい?」


「っ。いいんですかっ」


「うん、今日もカシュは頑張ってくれたしね」


 すすす、とカシュの前に僕のケーキを差し出す。

 賄賂ではない。


 ◇


 組合施設地下に設けられた、訓練場。

 円状の空間の中心で、私は火精霊と交信していた。


「精霊よ、応えてくれ……」


 全ての【勇者】は、【役職(ジョブ)】判明後に『精霊の祠』を訪ねる。

 そこで自分を気に入る精霊がいれば、契約してもらい精霊術を行使出来るようになる。


 つまりそう、精霊には精神がある。ものを考え、人の好悪を判断することが出来る。

 だが普段、私達は精霊と言葉を交わさない。


 彼ら彼女らは気に入った人間の人生を『観る』のが趣味らしく、加護を与えた後は非干渉が基本なのだとか。

 どうしても話したい時は、こうして精神を研ぎ澄ませ、呼びかけるしかない。


「君に頼みたいことがあるのだ――サラ」


 彼女は自分の名前が嫌いなので、この愛称で呼ぶことにしている。


『……どうしたの、負け鳥』


 声がした。どこから発せられているのかは分からないが、声が耳に届く。


「負け鳥……? いや、確かにレメには負けたが」


 応えがあったことに安堵しつつ、応じる。


『神々の焔を貸したげたのに、どうして負けられるの? 神々の焔なんだけど? かっこつけで神々とか付けてるわけじゃないんだけど?』


「相手がそれを上回る強者だったんだ、悔しいけれどね」


『……魔王の角にだってね、劣るものじゃないんだけど。君の使い方が悪いよ、君の戦い方が悪いよ。ヘボ鳥。私の契約者なのに負けるな』


 あの時の敗北を、彼女も気にしているようだ。


「済まない。君の焔は本当に素晴らしかった。負けたのは私の力不足によるものだ」


『……ふん。それが分かってるならいいケド。それで? 何の用?』


「君に魔法……精霊術を教わった時、一つだけ教えてもらえなかった術があっただろう」


『当時の君には扱えなかったからね』


「今の私ならばどうだ?」


『どうかな。でも、習得に失敗したら……君は灰になるよ』


 サラの深刻そうな声。


「訓練は魔力体(アバター)でするつもりだ」


『うわー現代っ子。確かにそれなら灰になってもいっか』


 よくはない。私の魔力体(アバター)生成にはかなりの金が掛かる。


『でもね、身体はよくても精神が保つかなぁ。こう、自分の身体の仕組みを変える術だから、人間の心は耐えられないかも』


「先々代は耐えたのだろう? 伝説に残っている」


 火精霊と同化したという、勇者の伝説があった。


『あの時は戦争中だったしね。なにがなんでも勝たねばって状態だったから。そういう時の人間って強いでしょ?』


「人類の為ではないが、私も気持ちは同じだ」


『なにがなんでも勝たねば?』


「あぁ」


『魔王の角を人間が継承するのと同じくらい、厳しいよ』


「素晴らしい。レメが耐えたんだ。私も同じくらいのことが出来なければ、勝利は得られまい」


『あはは、その理屈は分かんないけど、君らしいね。精霊の祠でもさ、神や精霊に怒ってたよね。レメこそが勇者だ~って、そんなにあの子が好きなの?』


「憧れだ。幼い頃からの」


『その感情はよく分からないけど、でもそうか。憧れとやらの対象が、いつまで経っても落ちぶれない。変わらず憧れた頃のままを維持しているなら、憧憬の念も消えなくて当然なのかな』


 サラは何やら納得したような声を出した。


『でも、面白いよね。憧れた存在に、人間は近付こうとする。時に上回ろうとする。遥か高みに置いておきたいわけじゃあないんだね』


「他の人は分からないが、私達は友達だから」


『だから?』


「対等でいたいじゃないか」


『ふぅん』


「協力してくれるかい」


『いいよ、イケ鳥くん。この術を使えるようになった時、君は不死鳥と呼ばれるだろうさ』


 いずれくるレメとの再戦の為に、私は強くなる。

 精霊術に頼らない戦い方を鍛え、その上で――精霊術の奥義を習得する。




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◇『魔女と魔性と魔宝の楽園』◇

・書籍版①発売中(サーガフォレスト)大判小説
・コミック版、企画も進行中

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◇『骨骸の剣聖が死を遂げる』◇

・書籍版発売中(DREノベルス)大判小説
・コミック版、企画進行中
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◇『難攻不落の魔王城へようこそ』◇

・書籍版①~③発売中(GAノベル)大判小説
・コミック版①~⑧発売中(ガンガンコミックスUP!)
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◇『復讐完遂者の人生二周目異世界譚』シリーズ◇

・書籍版①~④発売中(GCノベルズ)大判小説
・コミック版①~⑦発売中(ライドコミックス)
i793341/
― 新着の感想 ―
カシュにも賄賂・・・ではない、さり気ない気遣い(笑)。 さんぼーどのはたいへんなのです。
[良い点] フェニクスが真のフェニックスに……!
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