66◇白銀王子が今話題の初級ダンジョンを華麗に踏破してみた【隠し要素アリ】※ボツ
ボクのパーティーの構成。
【銀嶺の勇者】ニコラこと、ボク。またの名を……はぁ、『白銀王子』。
【金剛の勇者】フィリップ。性格の悪い兄。
【盗賊】レイラ。親しみやすく、ボクとの絡みから世間では『盗賊姫』なんて呼ばれることも。
【清白騎士】マルク。寡黙なマッチョ。剣と白魔法を使える。
【魔法使い】ルリ。種族は妖精。羽根の生えた小人。身体はグラスの中に収まるくらいに小さいが、周囲の魔力を集めて魔法を使うので、ダンジョン内だと魔力切れを起こさない。女の子。
挑むのは初級・始まりのダンジョン。
「では行こうか、みんな」
「あぁ」
「よしきたー!」
「……」
「ふふん。今日もルリ様の強大な力を見せてあげるわっ」
始まりのダンジョンは全三層。
ゴブリンの森、コボルドの洞窟、オークの村で構成されている。
ボクらは今、ゴブリンの森にいた。
何組かの攻略映像を観たので、下層へ続く扉までの道のりは分かっている。
「マルク」
「……承知した」
名を呼ぶだけで、マルクは反応。
彼の白魔法で、全員の防御力が上がる。
【清白騎士】は、【聖騎士】に【白魔導士】を加えたような【役職】だ。
ただ、【聖騎士】には耐久で及ばず、【白魔導士】には白魔法で及ばない。
マルクを引き入れたのは兄。彼が優秀というのは前提だが、おそらくボクと並んだ時の収まりの良さが大きな採用理由だろう。
純白の鎧に、同じく真っ白な剣と盾。王子に対し、騎士。
「ゴブリンなんて何体来ても余裕だもんね~」
「珍しくレイラに同意ね。ルリ様の相手には相応しくないわ」
「珍しくってなにさ」
「そのまんまの意味だけど?」
「なにおぅ。手のひらで包んでカメラに映らないようにしちゃうぞ」
「ふっ、出来るものなら――危ないわね! ほんとに捕まえようとするなんて!」
妖精は小さいが、ダンジョンのカメラは高性能。拡大するとルリの姿がばっちり見える。仮に本人が見えなくとも、彼女の魔法は派手なので視聴者は楽しめる。
「油断するな。俺の予想が正しければ此処は『全レベル――」
周囲の草むらや木陰から、ゴブリンの群れが飛び出してきた。
緑色の肌に子供程度の身長。耳が長く尖っており、棍棒や錆びた剣、木製の弓などを持っている。
飛んで来た一本の矢が、兄の胴体に直撃する。
が、兄は無傷。矢は弾かれた。
「俺を知らないのか? この【金剛の勇者】を」
兄とボクは、互いに土精霊の分霊に気に入られた。
フィリップに与えられたのは、硬化。
有用なのだが、あまりに地味。彼自身、売れずに苦しんだ時期がある。
だが、銀嶺を守る金剛、妹を守る兄としてのキャラを確立してからは、高い防御性能は視聴者に受け入れられた。
ボクを庇って強者の攻撃に耐える彼の姿に、人々は興奮し時に感動する。
「んん? なんか動きがいい……!?」
ゴブリンによる錆剣での連続攻撃を低い姿勢で弾き続けながら、レイラが叫んだ。彼女の短剣捌きは見事だ。
「杖持ちがいるわね。白使ってるか、黒使うかも。気をつけなさい」
「……動画では、未確認」
複数体を一手に引き受けたマルクが呟く。
全レベル対応説が、濃厚になってきた。いや、もう一押しほしいかな。
ボクはゴブリンに狙いを定めようとするが、ギリギリのところで予想位置とズレる。
――動きが俊敏だ。というより、一所に留まらないよう指示されているのか。ボクの魔法で像にされないようにってワケだ。
どうやら予習済みの様子。
「火にする~? 水にする~? そうだ、風にしましょう。全員、風刃で叩き切ってあげるから覚悟なさい」
ダンジョン内に満ちる魔力がルリに吸い寄せられ、風刃となる。
これが殺し合いなら不可視が好ましいが、ダンジョン攻略はエンターテインメント。
彼女の魔法は、本来無色の魔力粒子が淡く輝くのと同様に、着色されていた。
緑色の半月が無数に生まれ、それらがゴブリンに襲いかかる。
だが、退場したのはたった一体だった。あとは二体ほど、手足を失っただけ。
「…………フ……ス……のしごきに比べれば、この程度!」
「……ル……カ……のスパルタ指導の方が余程堪えたわ!」
「あの人の剣よりおそーいッ!」
「我らがお礼に失った膨大な食事代の成果を見よ!」
なにやら叫んでいるが、よく分からない。編集の際に音声はカットされるだろう。
「は、はぁ!? よっ、避けっ、ゴブリンが、このルリ様の超美麗魔法を、回避ぃ!?」
ルリは余程ショックだったのか、目を見開いている。
「何を呆けているのだルリ! すぐに次の魔法……を」
兄の声が途中で止まる。
ルリの小さな身体を、一本の矢が貫いていた。
「人を見た目で判断してはなりませんよ、妖精さん」
どこからか声がするが、姿が見えない。
矢の飛んできた方向に目を遣るが、やはり射手は確認出来なかった。
――こちらから確認できない位置から、ルリの身体を射抜いた?
凄腕だ。確実に初級レベルではない。
「この……ッ」
ルリの身体が掻き消え、粒子が散り、矢が落ちる。
兄はまだ大丈夫だが、レイラとマルクが辛そうだ。
ゴブリンの動きは徐々によくなってきている。
「……兄さん」
「あぁ」
それだけで充分。
「銀世界」
ボクらの周囲に、白銀の粒子が散る。
それらは仲間を、草木を、地面を避けながら拡散。
そして少しずつ、だが急速に、ゴブリンの皮膚に付着し、粘膜から体内に侵入する。
傍目にはゆっくり、だが実際には短時間で、敵の動きは鈍くなり、やがて停止した。
白銀の像となって。
地面から液状で湧き出させるよりも魔力の扱いが難しいが、これも見栄えがいい。
吹雪ではなく静かな雪のようなのに、敵が凍るように固まるのだ。
「まだ杖持ちと、姿を見せない射手が残ってい――チッ」
兄がボクの前に立ち、ボクの頭部があった位置に矢が飛んできた。
兄のおかげで、弾かれて終わり。
「助かったよ」
兄から返事はない。
どうしたのだろうと思うと、兄が前のめりに倒れるところだった。
咄嗟に支えて、ボクは目を逸らしそうになる。
彼の両目に矢が突き刺さっていた。
「眼球までは硬化されないようですね」
また聞こえる、射手の声。
消える寸前、兄が何事か呟いた。
「棄権しろ」
「な、何を言っているんだい、兄さん」
「射手の腕だけじゃない。俺も、おそらくルリも……これは、黒ま――」
兄の身体が崩れて消えた。




