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難攻不落の魔王城へようこそ~デバフは不要と勇者パーティーを追い出された黒魔導士、魔王軍の最高幹部に迎えられる~【Web版】  作者: 御鷹穂積
第二章◇レメゲトンとして恐れられ、レメとして認められ始める話? と、○○な勇者

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66◇白銀王子が今話題の初級ダンジョンを華麗に踏破してみた【隠し要素アリ】※ボツ

 



 ボクのパーティーの構成。


 【銀嶺の勇者】ニコラこと、ボク。またの名を……はぁ、『白銀王子』。


 【金剛の勇者】フィリップ。性格の悪い兄。


 【盗賊】レイラ。親しみやすく、ボクとの絡みから世間では『盗賊姫』なんて呼ばれることも。


 【清白騎士】マルク。寡黙なマッチョ。剣と白魔法を使える。


 【魔法使い】ルリ。種族は妖精。羽根の生えた小人。身体はグラスの中に収まるくらいに小さいが、周囲の魔力を集めて魔法を使うので、ダンジョン内だと魔力切れを起こさない。女の子。


 挑むのは初級・始まりのダンジョン。


「では行こうか、みんな」


「あぁ」


「よしきたー!」


「……」


「ふふん。今日もルリ様の強大な力を見せてあげるわっ」


 始まりのダンジョンは全三層。


 ゴブリンの森、コボルドの洞窟、オークの村で構成されている。


 ボクらは今、ゴブリンの森にいた。

 何組かの攻略映像を観たので、下層へ続く扉までの道のりは分かっている。 


「マルク」


「……承知した」


 名を呼ぶだけで、マルクは反応。


 彼の白魔法で、全員の防御力が上がる。

 【清白騎士】は、【聖騎士】に【白魔導士】を加えたような【役職(ジョブ)】だ。

 ただ、【聖騎士】には耐久で及ばず、【白魔導士】には白魔法で及ばない。


 マルクを引き入れたのは兄。彼が優秀というのは前提だが、おそらくボクと並んだ時の収まりの良さが大きな採用理由だろう。

 純白の鎧に、同じく真っ白な剣と盾。王子に対し、騎士。


「ゴブリンなんて何体来ても余裕だもんね~」


「珍しくレイラに同意ね。ルリ様の相手には相応しくないわ」


「珍しくってなにさ」


「そのまんまの意味だけど?」


「なにおぅ。手のひらで包んでカメラに映らないようにしちゃうぞ」


「ふっ、出来るものなら――危ないわね! ほんとに捕まえようとするなんて!」


 妖精は小さいが、ダンジョンのカメラは高性能。拡大するとルリの姿がばっちり見える。仮に本人が見えなくとも、彼女の魔法は派手なので視聴者は楽しめる。


「油断するな。俺の予想が正しければ此処は『全レベル――」


 周囲の草むらや木陰から、ゴブリンの群れが飛び出してきた。

 緑色の肌に子供程度の身長。耳が長く尖っており、棍棒や錆びた剣、木製の弓などを持っている。


 飛んで来た一本の矢が、兄の胴体に直撃する。

 が、兄は無傷。矢は弾かれた。


「俺を知らないのか? この【金剛の勇者】を」


 兄とボクは、互いに土精霊の分霊に気に入られた。

 フィリップに与えられたのは、硬化。

 有用なのだが、あまりに地味。彼自身、売れずに苦しんだ時期がある。


 だが、銀嶺を守る金剛、妹を守る兄としてのキャラを確立してからは、高い防御性能は視聴者に受け入れられた。

 ボクを庇って強者の攻撃に耐える彼の姿に、人々は興奮し時に感動する。


「んん? なんか動きがいい……!?」


 ゴブリンによる錆剣での連続攻撃を低い姿勢で弾き続けながら、レイラが叫んだ。彼女の短剣捌きは見事だ。


「杖持ちがいるわね。白使ってるか、黒使うかも。気をつけなさい」


「……動画では、未確認」


 複数体を一手に引き受けたマルクが呟く。

 全レベル対応説が、濃厚になってきた。いや、もう一押しほしいかな。


 ボクはゴブリンに狙いを定めようとするが、ギリギリのところで予想位置とズレる。


 ――動きが俊敏だ。というより、一所に留まらないよう指示されているのか。ボクの魔法で像にされないようにってワケだ。


 どうやら予習済みの様子。


「火にする~? 水にする~? そうだ、風にしましょう。全員、風刃で叩き切ってあげるから覚悟なさい」


 ダンジョン内に満ちる魔力がルリに吸い寄せられ、風刃となる。

 これが殺し合いなら不可視が好ましいが、ダンジョン攻略はエンターテインメント。

 彼女の魔法は、本来無色の魔力粒子が淡く輝くのと同様に、着色されていた。


 緑色の半月が無数に生まれ、それらがゴブリンに襲いかかる。

 だが、退場したのはたった一体だった。あとは二体ほど、手足を失っただけ。


「…………フ……ス……のしごきに比べれば、この程度!」


「……ル……カ……のスパルタ指導の方が余程堪えたわ!」


「あの人の剣よりおそーいッ!」


「我らがお礼に失った膨大な食事代の成果を見よ!」


 なにやら叫んでいるが、よく分からない。編集の際に音声はカットされるだろう。


「は、はぁ!? よっ、避けっ、ゴブリンが、このルリ様の超美麗魔法を、回避ぃ!?」


 ルリは余程ショックだったのか、目を見開いている。


「何を呆けているのだルリ! すぐに次の魔法……を」


 兄の声が途中で止まる。

 ルリの小さな身体を、一本の矢が貫いていた。


「人を見た目で判断してはなりませんよ、妖精さん」


 どこからか声がするが、姿が見えない。

 矢の飛んできた方向に目を遣るが、やはり射手は確認出来なかった。


 ――こちらから確認できない位置から、ルリの身体を射抜いた?


 凄腕だ。確実に初級レベルではない。


「この……ッ」


 ルリの身体が掻き消え、粒子が散り、矢が落ちる。

 兄はまだ大丈夫だが、レイラとマルクが辛そうだ。

 ゴブリンの動きは徐々によくなってきている。


「……兄さん」


「あぁ」


 それだけで充分。


銀世界(、、、)


 ボクらの周囲に、白銀の粒子が散る。

 それらは仲間を、草木を、地面を避けながら拡散。


 そして少しずつ、だが急速に、ゴブリンの皮膚に付着し、粘膜から体内に侵入する。

 傍目にはゆっくり、だが実際には短時間で、敵の動きは鈍くなり、やがて停止した。


 白銀の像となって。


 地面から液状で湧き出させるよりも魔力の扱いが難しいが、これも見栄えがいい。

 吹雪ではなく静かな雪のようなのに、敵が凍るように固まるのだ。


「まだ杖持ちと、姿を見せない射手が残ってい――チッ」


 兄がボクの前に立ち、ボクの頭部があった位置に矢が飛んできた。

 兄のおかげで、弾かれて終わり。


「助かったよ」


 兄から返事はない。

 どうしたのだろうと思うと、兄が前のめりに倒れるところだった。


 咄嗟に支えて、ボクは目を逸らしそうになる。

 彼の両目に矢が突き刺さっていた。


「眼球までは硬化されないようですね」


 また聞こえる、射手の声。

 消える寸前、兄が何事か呟いた。


「棄権しろ」


「な、何を言っているんだい、兄さん」


「射手の腕だけじゃない。俺も、おそらくルリも……これは、黒ま――」


 兄の身体が崩れて消えた。




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