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難攻不落の魔王城へようこそ~デバフは不要と勇者パーティーを追い出された黒魔導士、魔王軍の最高幹部に迎えられる~【Web版】  作者: 御鷹穂積
第二章◇レメゲトンとして恐れられ、レメとして認められ始める話? と、○○な勇者

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58◇炎の勇者の答え、魔王軍出張組のしゅっぱつしんこー

 



 まず、彼の話に対する意見を明確にしておく。


「バリエーションに富んだエンターテインメントを用意することで、これまで活躍の場に恵まれなかった者達にもスポットライトが当たる。これまで悪役を演じるしかなかった亜人も一選手として輝ける。そのアイディアは素晴らしいと感じました」


「ありがとうございます」


 フェロー殿は笑顔だ。


「私や仲間が個別に活躍出来る舞台も用意出来るとのことで、これまでとは異なった方法で観る者を沸かせることが出来るかもしれない。とても可能性に溢れている企画だ」


「そうでしょうとも」


「ですが、ご期待には添えません」


「……理由をお聞きしても?」


 笑顔は消えないが、目許がぴくりと動いた。

 私は一度四人を見回す。ベーラ以外の三人が同意するように頷いた。ベーラだけは「どうぞ」とばかりに手を振っていた。


「選択肢を増やすだけでなく、ダンジョン攻略を消すという目的に賛成出来ないのが一つ」


 彼ならば嘘を吐くことも出来た筈だ。それと気づかせずに欺くことだって出来ただろう。

 それをしなかったのは、きっとこちらを味方に引き込みたかったからだ。

 いざという時に、ダンジョン攻略廃止に私達が反対すれば実現は面倒になる。彼は、未来の一位を今の時点で仲間にしたかったのだろう。


「もう一つは、貴殿が思い違いをしているからだ」


「思い違い?」


「私が力を貸すことで、レメが活躍出来る未来が近づくと、貴殿は言った」


「えぇ、親友なのでしょう? 彼の為にも――」


「友の助けとなれるならば、なんでもしよう。だが、これは違う。成功までの道を整えてやるだなんて、そんな傲慢なことを考えるわけがないだろう」


 共に戦い、共に勝利を目指す過程で助け合うのとは違う。

 自分達が新しい仕事をとったからお前が活躍出来る競技も増えるぞ、そんなことを友に言えるわけがないし、言うつもりはない。

 少なくとも、それを理由にフェロー殿に協力することは有り得ない。


「あくまで対等な友人だから、『仕事を恵んでやる』だなんて言えないと? それは、気持ちの問題では?」


気持ち(それ)を無視したら、私は私ではなくなる」


 私の瞳を見据えたフェロー殿は、しばらくして肩を竦めた。


「……誘い方が違えば、結果も違いましたかな?」


「どうでしょうか。その場合は、目的が判明した時点で道を違えることとなったでしょう」


「やはりそうですか。ですが、公平な仕組みを作る為にも、ダンジョン攻略は廃止すべきだ。魔物は悪という考えが消えなければ、私の目的は叶わないのですから」


 どうやら、彼は魔物に対する世間の認識に強い嫌悪感があるようだ。

 以前レメと酒場で話した時、亜人の給仕に失礼な行為を働いた冒険者がいた。彼の取り巻きもそれを咎めなかった。

 魔物は悪、という設定によって不快な思いをする亜人がいるのは私も心苦しい。


「内側から変えようとしている者もいます。冒険者も魔物も対等な敵同士で、どちらが勝ってもいいのだと伝えようとしている者がいる」


「……気の遠くなるような話ですね」


「消すだけが道ではない、ということです」


「私は速やかに目的を達したいのです」


「貴殿の提示された選択肢には素晴らしいものも多い。ですが今回の誘いには乗れない」


「企画自体に興味を持ってもらえた、という部分を収穫と思いましょう。ただこれは申し上げておきますが、誘いを掛けているのは貴方がただけではありません」


 それはそうだろう。

 既にこの街でトーナメントを開くことが決定しているのだ。最低限、参加者も揃えている筈。

 最も影響力の強い協力者候補として、私達に声が掛かったというだけのこと。


「五位以下になってからでも、気が変わったら私にご連絡を」


 彼に協力する者達が、ランクを駆け上がることは当然想定されることだ。


「貴殿がダンジョン廃止を諦めるのであれば、誘いを受けることもあるでしょうな。その時には我々は一位になっているかもしれませんが」


 彼の微笑みに、微笑みを返す。


「ふっ……」


 と、溢した彼の笑い声は、これまでのような嘘っぽさが無かった。


「では、我々はこれで」


 今度こそ、立ち上がる。


「えぇ、本日はお時間を頂きありがとうございました」


 四人も席を立ち、その場を離れていく。私も続こうとしたが、背中に声が掛かった。


「そういえば、フェニクス殿。貴方の親友ですが、今は何をされているのですか? 探してはみたのですが、どういうわけか見つからなかったのです」


 わざとらしい言い方だった。


「……彼は自分の道を見つけています」


「そうですか。もう一つ。私は魔王城の職員を知っているのですが、貴方が敗北したレメゲトンだけ、情報がないのです。よろしければ、四大精霊の契約者がどう負けたか、教えては頂けませんか?」


「何故魔王城の職員をご存知なのですか?」


「分かりませんか?」


 ――やはり、勘付いているのか。


 私の想像している通りなら、彼はレメの師と関わりのある人物だ。血縁者だろう。息子か甥か、とにかく血の繋がっている者。髪や瞳、角や魔力から考えてほとんど間違いない。


 レメも心のどこかで気づいていただろうが、彼の師は明らかに【魔王】持ちだ。

 私は気になって調べたことがあるが、おそらく先々代の魔王城ボス。

 であれば、フェロー殿が魔王城の職員について知っていてもおかしくない。


 ただ、最新情報は得られていないようだ。レメゲトンの正体を知らず、戦いの内容を私に尋ねるということは、現在繋がりはないのだろう。

 ダンジョン攻略廃止は魔王城を潰すことにもなるので、繋がりが無いのも当然かもしれない。


 彼は自分の正体を積極的に明かしはしないが、私には気づかせようとしているようだった。

 理由はおそらく、それによる私の反応を確かめる為。

 彼の魔力を感じた時、それが既知のものであると態度に出てしまったか。


 つまりこうだ。

 魔王の魔力を見せ、私がそれに「知っている」という反応をしてしまった。

 魔力反応は人それぞれだが、血縁者だと似ることが多い。

 第十一層に辿り着けなかったのに、魔王城ボスの魔力を知っているとしたら。

 それは先々代に逢ったことがあるか、先々代の角を継いだ何者かと逢ったことがあるかだ。

 厳密には他の血縁者の可能性もあるが、そのあたりはどう判断したのか。

 私が黙っていると、彼は警戒の必要はないとばかりに諸手を上げた。


「何も企んでなどいませんよ。ただ……そうですね、もし貴方がレメゲトンと連絡をとれる関係ならば、忠告をするべきでしょう」


 ――レメゲトンがレメだと、半ば確信しているのか。


 彼は忠告とやらを口にする。


「角は使うべきではない。史上最高の魔王ルキフェルと同じく、不愉快な現実に絶望することになるでしょうから。世間は『悪』が強大な力を持つことを、良く思いませんからね」


 先々代魔王城ボス、ルキフェル。レメの師のダンジョンネーム。

 私はそこでようやく、彼の真の目的が何なんなのか、予想が立った。


「……まさか、貴殿が『公平』を求めるのは――」


「喋り過ぎましたね。伝言、頼みましたよ」


「……私は彼の仮面の下がどんな顔かも知らない」


「他言などしませんから。むしろ彼がこれから何をするか、大変興味がある」


 私は元々嘘が上手い方ではないが、それ以前の問題か。


「こちらとしては、彼は表でも輝いていい人間だと思いますがね」


 フェロー殿はそう言い残し、私の答えを待つことなく宿を出て行った。


 ◇


「そろそろ来る頃だと思うんだけど」


 僕の右横には、リュックを背負い興奮気味のカシュがいた。

 近くの街とはいえ、彼女にとっては何日も家を離れるのは初めてのこと。

 緊張もあるだろうし、ワクワクソワソワするのも分かる。


 左横には、十代前半の小柄な少女。表情に乏しいが造形は美しく、その白い髪は雪のよう。

 紫紺の瞳はどこを見るでもなくただ前方に向けられ、その手はもそもそと豆を口に運んでいる。

 【刈除騎士】フルカスさんだった。


 魔王様が童女で、参謀が人間の青年で、四天王が妙齢の吸血鬼、幼心の守護者を自認する魔人、性別を超越した変幻自在の豹、そして普段は大きな鎧に身を包む――少女。

 女性三、男性二、謎一でバランスは悪くないのか。個性も豊かだ。


 こう見ると人間の女の子だが、どうやら違う種族らしい。種族的特徴は見られないが……。


 馬車を予約していたので、移動手段は問題ない。

 今は門の近くで、馬車が来るのを待っているところだった。


「カシュ、忘れ物はないかい?」


「ばっちりですっ……!」


 元気よく、カシュが答える。


「よかった。荷物、僕が持とうか?」


「だいじょぶですっ……!」


 彼女の返事に、思わず笑みが漏れる僕。


「そっか。フルカスさんは荷物が少ないですね?」


 というか、紙袋に入った豆以外には腰に下げた革袋だけだ。


「鎧と槍とか、先に送っておいた。他は食べ物を買うお金だけあればいい」


 静かで抑揚のない声。

 フルカスさんの鎧は、身に着けるというより『入る』というのが正しいようだ。彼女の身体に明らかに合っていないが、実際に纏って動けているのだし。

 槍だけでなく、鎧も魔法具なのだろう。


 稽古をつけてもらっているので、僕はこの姿を知っていた。だからこれも知っているのだが、フルカスさんは鎧が無くともめちゃくちゃ強い。

 鎧で得ているのは身体の大きさと、耐久性。戦闘技術は彼女本来のもの。


「そうなんですね。改めて、今回はよろしくお願いします」


 カシュも「おねがいします……っ!」と続いた。


「ん」


 と小さく頷くフルカスさん。

 少ししてから、カシュに豆をあげていた。


「参謀も、いる?」


 彼女はそう言ってくれているが、手の動きが重いことから本当は自分で食べてしまいたいのだと察する。


「お気持ちだけで充分です」


「そ」


 ひょいパク、ひょいパク、と豆をどんどん口の中に入れていくフルカスさん。


「あ、馬車が来ましたね」


 これから僕らは、あるダンジョンの立て直しへと向かう。

 後で知ることになるのだが、その街ではなんだか面白い催しが開かれるようだった。

 なになに……『冒険者も亜人も関係なし! 二人で組んで頂点を目指せ! 地上で魔力体(アバター)を用いて戦うタッグトーナメント開催! まだまだ挑戦者募集!』か。


 へぇ、興味があるなぁ。

 仕事もあるし出場は出来ないだろうけど、時間が合えば観戦はしたいものだ。

 あれ、でもこれってもしかして、魔王様のお父さんが絡んでる企画なのだろうか。

 人と亜人も関係なしってところが、それっぽい気もする。

 

 

 

 

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