表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
難攻不落の魔王城へようこそ~デバフは不要と勇者パーティーを追い出された黒魔導士、魔王軍の最高幹部に迎えられる~【Web版】  作者: 御鷹穂積
第一章◇勇者に憧れた黒魔道士が魔王軍参謀になる話

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

40/318

39◇友と笑い合う(下)

 



 男と、その取り巻き――えぇと十三人――が立ち上がる。


「あぁ? なんだテメェら、オレ様を誰だと思ってる?」


 その男はフェニクスでも見上げる程の巨漢だった。

 だが僕もフェニクスも冷静そのもの。


「知りませんけど、冒険者なら百位より下でしょう」


 男の顔に青筋が立つ。既視感があるよ。ミラさんを襲った【重戦士】もこうだった。


「よっぽど死にてぇらしいな」


 ドスの利いた声。

 僕は首を傾げた。フェニクスを見る。


「そうなのか?」


 フェニクスも応じる。

 不思議そうな顔をする僕に、優しく教えてくれる。


「もしかすると彼らは、私達を打倒する力が自分達にはあるのだと考えているのかもしれないね」


「あはは、そりゃ笑えるな」

 

 大げさに肩を竦める僕。


「……頭沸いてんのかテメェら。いいか、オレ様は【勇者】なんだよッ!」


 あぁ、そう。

 【役職(ジョブ)】はそうかもね。

 でも――。

 

「お前みたいなのは勇者じゃないよ、ゴロツキの間違いだろ」


「後悔させてやるよ、クソガキ」


 酔っぱらい集団に囲まれる。

 無関係な客達は離れたり帰ったり、一部が静観したり煽ったりしていた。

 他の給仕や亭主が不安そうな顔でこちらを見ている。


「……俺も鬼じゃあねぇ。泣いて地面に這いつくばったら許してやるよ」


「ふざけたことを。貴様が女性に謝罪するのが筋だ」


 フェニクスの正論に、男は激怒。


「テメェにゃ関係ねぇだろうが!」


「このゴロツキは僕がやるよ」


「あぁ、任せた」


「テメェみたいなヒョロガリが、オレ様を? ハッハ! 面白ェ!」


 決着までは数分掛からなかった。


 『小柄な少年』にしか見えない僕の拳を、男は避けもしなかった。きっと殴られてもノーダメージってところを見せて、僕に絶望感を味わわせたかったのだろう。肉体自慢には結構多くて、まぁ上手くいくことが多いのかな? そのあたりは分からない。


 防御力を全力で下げて鳩尾を突けば、基本的に一撃で沈むからだ。


 ランク不明の【勇者】さんが「こひゅっ」みたいな声を上げて白目を向き、顔面から床に斃れる。

 一緒に倒れてしまわぬよう、フェニクスが咄嗟に女性を引き寄せた。


「どうして地面に這いつくばってるんですか? 許してほしいとか?」 


 返事はない。

 一瞬場の空気が凍るが、取り巻きの中では中心人物なのか、一人の男が叫んで飛びかかってきた。

 しかしその男性は近くにいた別の取り巻きに殴られて転倒する。

 ……面倒だから敵味方の認識を『混乱』させて、敵意を近くの者にぶつけるようにしたのだ。


 無関係な客もいるから、扱いが難しい。

 まぁフェニクスもいるし平気だろう。

 同士討ちを始めて戦力ダウンした酔っぱらい集団を、適宜殴って気絶させていく。


「よし、終わった」


「こちらもだよ」


 最後の一人が床に倒れる。

 さすが【炎の勇者】。僕が一人倒す頃には三人倒し終えるペースだった。

 僕は気絶しているランク不明【勇者】の登録証を探り、情報を記憶。


「私の方からも報告しておこう」


 その方がいいな。僕が報告するよりも真剣に聞いてくれるだろう。

 人数が多くなると問題児が含まれる確率も上がるんだろうけど、問題は僕の遭遇率だな。


「衛兵が来たぞ!」


 先程店外へ退避した客の誰かが呼んだらしい。

 まずい。

 捕まってしまうと色々と面倒だ。


「急ごう」


「あぁ」


 フェニクスは腰を抜かしてしまった件の給仕さんを優しく抱き起こしてから、その手に食事代にしては多めなお金を握らせる。


「ご迷惑をおかけした詫びのようなものです。大変美味しい食事をありがとうございました」


 フェニクスを『高身長の青年』としか認識出来ない筈の給仕さんが、ポッと頬を染めた。


「あ、あの、あっちに裏口があるので……。助けていただき、ありがとうございましたっ」


 ありがたい情報を得た。


「行くぞ女たらし」


「その言い方は酷いだろう」


 苦笑するフェニクスと共に、給仕さんの指さした方向へ急ぐ。

 店外に出た僕らは、しばらく街を走った。

 誰も追ってこないことを確認してから、目についた路地に入る。


「あははっ。【炎の勇者】が酒場で乱闘とか、スキャンダルだな」


「あんな所業は見過ごせない」


「そうだけど、僕一人で出来たのに」


「二人だからすぐに終わっただろう?」


「まぁなぁ」


「……やはりレメの魔法があると、戦いやすいよ」


「知ってる」


 友達に謙遜する必要もあるまい。


 どちらともなく、歩き出す。


 ぼそり、とフェニクスが話し始めた。


「明日、私達のパーティーは十層を攻略する」


「あぁ」


 知ってる。

 十一層に繋がる扉を守るのは、僕だし。


「その……勝つから、観て(、、)ほしい」


「あぁ、絶対に見る(、、)よ」


 大迫力の特等席で。

 お前を迎え撃つのが、僕なんだから。


「一足先に、一位へ行くよ」


「それはどうだろうなぁ」


「……私が負けると?」


「明日になれば分かるだろ」


「私は必ず勝つ。それが勇者なのだと、教えてもらったからね」


「……いつまで覚えてるんだよ、それ」


 嬉しいような、気恥ずかしいような。


「一生忘れないさ」


 僕の宿の近くまで来た。


「じゃ、またな。僕は近々宿を移すけど、今度は突き止めるなよ」


「君が消息を絶たない限りはね」


「分かったって。仕事のことはちゃんと話す。その時は僕の方から顔を出すよ」


「あと、素敵な恋人も紹介してもらわないと」


「しつこいぞ」


 顔を見合わせて、僕らは笑った。


 次の日、僕らはまた顔を合わせることになる。


 冒険者と魔物として。


 【勇者】と【魔人】として。


 そして、僕にとっては。


 人の勇者と、魔物の勇者として。


 親友と、戦うのだ。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

◇『魔女と魔性と魔宝の楽園』◇

・書籍版①発売中(サーガフォレスト)大判小説
・コミック版、企画も進行中

i798260/


◇『骨骸の剣聖が死を遂げる』◇

・書籍版発売中(DREノベルス)大判小説
・コミック版、企画進行中
i799587/


◇『難攻不落の魔王城へようこそ』◇

・書籍版①~③発売中(GAノベル)大判小説
・コミック版①~⑧発売中(ガンガンコミックスUP!)
i781730/


◇『復讐完遂者の人生二周目異世界譚』シリーズ◇

・書籍版①~④発売中(GCノベルズ)大判小説
・コミック版①~⑦発売中(ライドコミックス)
i793341/
― 新着の感想 ―
[良い点] 主人公と勇者(イケメン)が親友同士と言うのが良い。 パーティーを追放されたけど互いの夢の為に切磋琢磨する流れもなろうでは新鮮。 普通に良作。 [気になる点] ヒロイン?がやや重めで一般には…
[良い点] アッ、、アア、、(尊さが限界化した)
[良い点] ドッキドキとワックワクでもう……あああああああ!!?(絶叫(混乱
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ