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難攻不落の魔王城へようこそ~デバフは不要と勇者パーティーを追い出された黒魔導士、魔王軍の最高幹部に迎えられる~【Web版】  作者: 御鷹穂積
第一章◇勇者に憧れた黒魔道士が魔王軍参謀になる話

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37◇友と笑い合う(上)

 



「あぁ……」


 そうだよな。

 僕は彼の言葉に納得する。

 今更確かめもしないけれど、僕らは親友で。

 二人でパーティーを組んだところが冒険者としての始まり。

 一緒に一位になろうとフェニクスが言って、僕は応じた。


 あれ以上僕がパーティーに残ろうとしても、もっとこじれるだけ。

 それでも、相談無しにパーティーを抜けるのは、ある意味裏切りだ。

 約束を反故にしたようなもの。


 ただフェニクスは、僕を責めようというわけではない。

 今から行われるのは、確認作業。

 理屈を通し、感情の落とし所を探るもの。


「アルバもラークもリリーも……当然ベーラも、大事な仲間だ。だがレメ、私の、私達の出発点は、幼い頃の約束だったじゃあないか」



 ――『レメとなら一番になれる。百三十年ぶりの【炎の勇者】と最強の【黒魔導士】で、一番になろう』



「でも、僕が残るのは無理だっただろ。力は明かせない、もし仲間にだけ明かしても、アルバあたりは隠せないし隠そうとしない。アピールに使えるからね。それが出来ないなら、やっぱり僕は視聴者から見てお荷物の【黒魔導士】だ。そして――【役職(ジョブ)】は変えられない」


 神様が決めた適職。それが【役職(ジョブ)】。

 もちろん逆らう人生を送ることは出来る。困難だが、出来る。

 しかし、冒険者だけは例外。【役職(ジョブ)】以外での登録は不可能という規程だ。


「だが、四位まで来たじゃないか。あと少しだったのに……」


 そう。四位と言えば世界トップクラスだ。

 僕らだって最初は最下位だった。新人は一番下から。

 それでも僕らはランクを凄まじいスピードで駆け上がった。


 ミラさんと初めて会ったのが二年前で、その時は十三位。だがその直後に四位にまで上昇していた。

 四位になった後、僕らは一度のランク更新を経ている。

 結果は、順位維持。

 功績だけで言えば三位以上に劣らない僕らが、停滞した理由は?


「だからだろ。四位で足踏みしたから、アルバの不満が爆発したんだ」


 フェニクスは人類最強に相応しい【勇者】だ。

 一位でもおかしくないと、仲間はみんな思っている。いや、一位になるべきだと。

 実績は十分。


 フェニクスは容姿も体格も自身の能力も契約精霊も優れている。

 映像板(テレビ)への露出も多く、配信動画の再生回数だってトップクラス。

 では何故、三位以内に入れない?


 三位以上はもう何年も顔ぶれが変わっていない。

 だがフェニクスは【炎の勇者】だ。魔法剣持ちの【戦士】、目にも留まらぬ『神速』の射掛けを放つ【狩人】、攻防共に優れた【聖騎士】と戦力も揃っている。


「だが、次の更新で三位以内に上がれれば、評価も変わったかもしれない」


 不動の人気を誇る上位三パーティーに食い込めれば、風向きは変わったかもしれない。

 【白魔導士】パナケアさんのように、例えばダメージを受けた仲間の魔力体(アバター)を修復するような視覚的アピールはないけれど。

 それでも、上位三位というのはそれだけ価値の大きいものだった。


 今いる上位三組を越えるということは、足手まとい込みで出来ることではない。

 三位以内に入ったということはすなわち、全員が超一流であるということ。

 もちろん、仮に入っても『【炎の勇者】の人気で食い込んだだけ』とか否定的な意見は出るだろう。だがそれを、きっと多くの冒険者ファンが諌める。

 その程度で上れる場所ではないと、分かっている人の方が多いから。


「そうだけど、それが無理だったって話だ」


 僕もフェニクスも一番を目指していた。

 一番になれば、それまで否定してきた人も僕を認めてくれる。

 だってそうだろう。

 エアリアルさんのパーティーを越えた者達の中に、無能が入っているなど考えられるか?

 そんな思考そのものが、彼らへの侮辱だ。


 ならば、一位のパーティーに【黒魔導士】がいるなら、その【黒魔導士】は優秀なのだ。

 エアリアルさんの誘いを受けても、きっと同じ結果は得られただろう。より伝わりやすいかもしれない。

 パナケアさんが抜けてもパーティーの総力が落ちないと示せれば、それでいい。

 『あれ? 分かりにくいけど、彼がいるおかげでスムーズに攻略出来ているのか?』なんて、そんな風に認識を改める視聴者が徐々に増えていった筈だ。


「それは……だが」


「実績や【勇者】人気以外で、三位に届かない何かがある。それは何かって考えた時、僕の存在が思い浮かぶのは仕方がない」


「だが実際は君がいたからこのスピードで四位まで上がれた」


「僕だけの力じゃあないだろ。それに新しく入ったベーラさん、彼女もすごく優秀だ」


「私達の攻略を観ているか?」


「あぁ、画面に齧りついてね」


 配信でカットされるところまで余すことなく。


「なら分かるだろう。ベーラの加入で画面映えはよくなったかもしれない。だが……」


 フェニクスが言い淀む。


「それも、思えば僕の所為だよなぁ」


 アルバ達は一流の冒険者だが、【勇者】のように劇的に成長するわけでも、僕のように魔王に鍛えられたわけでもない。

 僕らは同じ年代で、だからこそ努力にも限度がある。若いから伸びしろがあるが、若いから未熟な面もあるわけだ。


 僕は師匠のおかげで鍛えられたし、それに加えて二十四時間魔力を消費し続けることで限界値や技術を伸ばしている。

 だがそれは【黒魔導士】だから出来ること。


 僕はフェニクスと一位になりたかった。なるべく早く。自分の能力は当然、バレないように。

 だから、仲間を強く見せる方向で魔法を使った。

 結果として仲間達は実力以上の力を発揮することになったが、本来ならば一歩ずつ成長していくところを、僕の魔法によって阻んでしまった。

 『まったく問題なく常に最高の結果を出せる』状態が続いた為に、『ミスをして、問題に目を向け、地道に努力し、それを修正。結果、成長する』という道を歩めなかったわけだ。


「その点に関しては私も同罪だ」


 僕が抜けたことで、彼らの動きは年齢とこれまで積んだ努力相応になった。その状態で実際よりも自分達の力を高めに認識しているので、現実との差異に苦労しただろう。


「でも、七層から動きが少し変わったよな?」


「あぁ、それはベーラのおかげだな」


 フェニクスが言うには、新人のベーラが僕の黒魔法が有用であったという仮定で攻略に臨もうと提案したのだという。


「……へぇ。アルバもそれを認めたのか? 想像出来ないんだけど」


「あぁ、私が言ったら聞き入れてもらえなかっただろう」


 フェニクスは苦笑。


「だな。でも確かに、今のままだと……」


「あぁ、ベーラは優秀だが、あくまで【勇者】だ」


 戦う者、ということ。


「まぁ、今まで以上に退場が多くなってるなぁとは思うけど」


 第五層ではベーラさん。第六層ではラークとリリー。第七層では【勇者】以外の三人が、それぞれ退場している。

 彼らの動きは変わったし、僕が抜けた直後と比べると、良くなった。

 それはつまり、本来の実力で戦うことになったということ。

 そして、彼らの本来の実力では魔王城の圧倒的攻略は無理だと分かった。

 歯が立たないという程ではないが、【勇者】がフェニクスでなかったら第十層まで辿り着けはしなかっただろう。


「ラークとリリーは、レメへの認識を改めたようだ。アルバも分かってはいるようだが……彼だから」


「分かるよ。でも困ったな……」


「一応、誤魔化してはおいたが」


 レメはパナケアさんのように突然変異型の【黒魔導士】。

 だが古来より、優れた【白魔導士】が聖女や賢者などと呼ばれるのに対し、優れた【黒魔導士】は魔族側に多かったので魔女と呼ばれた。しかも最上級の遣い手は【魔王】で、都市を一夜にして死都へと変えた歴史もある。


 黒魔術師だと疑われるだけでも厄介だし、国に付き纏われればすぐに噂が流れ、結局はパーティーに迷惑が掛かる。

 だから隠していた。

 まったくの嘘ではないし、パナケアさんのような前例がいるので受け入れやすい。


「そっか」


「レメ、私は……」


「フェニクス、それ以上は言うなよ」


 料理が運ばれてくる。

 僕は早速食べ始めるが、フェニクスは食器に手を伸ばさない。

 もぐもぐ。もぐもぐ。もぐ……も。

 あー、だめだな。

 話さなければダメなようだ。


「僕がお前に相談しなかった理由、分かるだろ。相談して、お前にそれ(、、)を言わせたく無かったからだよ」


 こいつが弱虫泣き虫意気地なしだった頃から知っている。

 昔の約束を今も大事に抱えていることも。

 まぁ、そこは僕も同じだし。


「仮に……仮に、僕を追い出すくらいならお前らが出て行けって、アルバ達に言ったって無意味だ。いや無意味どころか最悪だな。一位になれなくなる」



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