番外編◇吸血鬼の女王の実家へようこそ1
※時系列は、本編完結から数年後。ふわっとしてる※
※レメとミラの進展を望む声を多く頂いていましたが、二人の進展はだいぶゆったりだというイメージが自分の中にはあるので、数年後にようやく進展の機会が訪れた、くらいに思ってください※
これは、ミラさんと知り合ってから数年が経った、ある日のこと。
「はぁ~~~~~~~~~~……」
ある日の夜。
夕食後の時間。
僕がお風呂から上がると、リビングで端末の画面を眺めていたミラさんが、大きな溜め息を吐いているところだった。
その表情も、随分とうんざりした様子。
『また相棒の動画にクソコメしてる愚か者を見つけたのかな。こっちで特定して罰でも与えようか』
――そんなことはやめなさい。
好き嫌いを表明する権利は誰にでもあるのだ。
法を逸脱するほどであれば、精霊が罰を与えずとも報いは受ける。
『懸命に努力する者を嘲笑する奴には、罰が下るべきだと思うけどね』
僕の頭の上でぶつぶつ言っている精霊は放っておいて、ミラさんに声を掛ける。
「ミラさん、どうかしたの?」
「えっ? あぁ、レメさん。お風呂から上がったんですね。お湯加減はいかがでした?」
僕に気づくや、彼女はふんわりとした微笑みを湛える。
「お湯加減はちょうどよかったけど……。何か言いづらいことなのかな?」
「言いづらいと言いますか……その。家族からメールがきていまして」
ミラさんが気まずそうな顔になる。
「へぇ。ミラさんからご家族の話って聞いたことがなかったけど」
僕の家族とは連絡をとっているようなのだが、僕はミラさんの家族について知らない。
これまでは、聞いてもはぐらかされてしまうことが多かった。
「あまり話したいことでもないですし……」
家族仲があまりよくないのだろうか。
「なるほど……。その、詳しくは分からないけどさ。もし僕に何か出来ることがあったら言ってくれると嬉しい。ミラさんにはいつもお世話になってるし――」
「本当ですか……!?」
シュンッ……! と椅子に座っていた筈の彼女の姿が掻き消えたかと思うと、次の瞬間には僕の眼前に立っていた。
鼻先が触れ合いそうな距離だ。
その瞳は希望に輝いている。
「う、うん……」
途端、ミラさんが照れた様子で指をもじもじ絡ませ始める。
「実は親の用件というのが、久々に実家に顔を見せろというものでして。そして、お付き合いしている殿方も連れてくるようにと言われていて、正直困っていたのですが」
「え?」
「分かってます……! 我々はまだ恋人ではありません! ですが、うちの家族が誤解していると言いますか? 少しばかり私がレメさんとの関係を誇張して伝えていた面もあるといいますか? なんやかんや結婚秒読みの彼氏がいると家族に思われていると言いますか?」
「え、えぇー……」
『相棒、放っておこう』
人間、親を安心させる為に、少々の嘘や見栄は張るものだと、僕も理解は出来るつもりだ。
フェニクスパーティー時代の不人気や、電脳でボロクソに言われていることに母から心配の連絡が届いても、『大丈夫』と返信したり……。
なので、ミラさんが『親しい男性がいる』を『恋人がいる』くらいに誇張してご家族に伝えたのだとしても、それを咎めようとは思わないのだが……。
「ちなみにレメさん以外に彼氏役は頼めないのです。私の心情だけでなく、その……」
彼女が言い淀む。
「ま、まさかミラさん……結婚秒読み設定の彼氏に……ぼ、僕の名前を?」
ミラさんは、えへ、と可愛らしく舌を出した。
大変可愛らしくはあったのだが、見とれている余裕はなかった。
「そ、それは……」
「うっう……そうですね。ダメですよね。レメさんと知り合って数年。最も親しい女性の友人にはなれても、添い寝フレンドにはなれても、血を吸わせて頂く仲にはなれても、一緒に暮らすことは出来ても、大事なイベントを二人で過ごすことは出来ても、私などでは恋人にはなれませんよね……うっう……」
そう言ってミラさんが涙を拭う仕草をする。
凄まじい罪悪感が押し寄せてきた。
僕だって、そろそろ決断しなければとは思っているのだが……。
どうしても、最後の一歩を踏み出せずにいた。
「私、正直に返信することにします。『恋人は全て妄想で自分は孤独な人生を歩んでます』と。『実家には一人寂しく顔を出すことに致します』と……。いいんです、独り身なのは悪ではないのですから。覚悟を決めて、一家の笑いものになってきますね……」
よろよろと、ミラさんがゾンビのような足取りで端末に戻っていく。
「そ、その……ミラさん」
「なんでしょう、独身貴族のレメさん」
「えぇとね、親御さんからのメールを受けて、急に婚約者にはなれないけれど……。その、ミラさんさえよければ、実家に一緒に行くことは、その、僕でよければ――」
「ありがとうございます……!!!! では母にはそのように返信しておきます!!!! ふっふっふ、私を嘘つき呼ばわりした姉と妹たちが吠え面をかく姿、今から楽しみです……」
『嘘つきなのは事実でしょ』
というかミラさん、姉妹もいるんだ……。
◇
そして、話はとんとん拍子に進み。
仕事の休みもばっちりととれたし、旅程はミラさんが完璧に組んでくれたし、移動手段の手筈まで整えていた。
急に用意したにしては迅速すぎるので、僕が引き受ける前提で準備していたのかもしれない……。
そんなこんなで一週間後。
僕らはようやく、ミラさんの地元へと到着した。
「随分と霧が濃いね」
馬車の車窓から外を覗きながら、僕は呟く。
「そうですね。吸血鬼にとって、暗さや視界の悪さは有利に働くので、そのような地域で繁栄した一族が多いです」
「な、なるほど……」
狩りをする上で、好条件ということなのだろう。
視界不良は人間にとって不利に働くが、吸血鬼の身体能力はそれをものともしないというのだから。
とはいえ、人間狩りや、逆に吸血鬼狩りが行われていたのも、遠い過去の出来事。
ミラさんの生家も、ただ先祖代々の土地に住んでいるというだけ。
「ミラさんのご家族は、何をされているのかな」
「仕事ですか? そうですね……母は、地域のまとめ役でしょうか。姉はその補佐ですね。妹はまだ学生で、遊び歩いているようです」
「なるほど」
お父さんの話題が出ていないが、これには触れない方がいいかもしれない。
カシュの家のように失踪していたり、そうでなくとも亡くなっていたりする可能性だってある。
「ちなみに父は妹が生まれる前に亡くなりましが、気を遣わなくて大丈夫ですよ」
僕の考えを察したのか、ミラさんが微笑みながら言った。
「そっか……その、お逢い出来ないのは残念だね」
「そうですね。まぁ父は穏やかな人でしたので、『お前なぞに娘はやらん!』という王道のセリフは聞けなかったかと思いますが」
そのような心配は特にしていなかったのだけど……。
「ただ、母は娘ながらに少々まともではないので、そこは本当に気をつけてくださいね」
『じゃあそれ遺伝でしょ』
僕がミラさんの帰省に同行すると決めてから、ダークは少々機嫌が悪いのだった。
やがて馬車が減速していき、ほどなくして停車する。
「到着したようです」
僕が先に下りて、ミラさんが下りるのを手伝う。
それから目に入ったのは、巨大は門扉だった。
霧の所為で家の全容はよく見えないが、豪邸についていそうな門である。
それがギギギ、と音を立てて開いていく。
「え? ここがミラさんの実家?」
「はい。では参りましょうか、レメさん」
ミラさんが僕の腕に絡みついてきて、引っ張るように進み出す。
敷地内に一歩踏み入れた瞬間。
「お勤めご苦労さまです、お嬢様ッ!」
という声が無数に重なって聞こえたきた。
よくよく目を凝らしてみると、スーツ姿の男性が通路の左右にズラリと並び、胸に手を当てているではないか。
「やかましいですよ」
「申し訳ございません……ッ!」
これまたピタリと声が合っているが、一体何十人いるのか。百に届いているやも。
「み、ミラさん……この人たちは?」
「母の豚……部下たちですね」
「ごめん。お母さんのご職業ってなんだっけ?」
「地域のまとめ役です。外から人間の血液を輸入したり、吸血鬼の派遣業務を一手に引き受けていたりと辣腕を振るっているようですが……詳しくは知りません。ご興味ありますか?」
「いや……その、お嬢様って呼ばれてるから、気になって」
あと、通り過ぎるタイミングでなんとか顔が見えるのだが、全員が全員、僕に殺意を向けているように見えるんだけど、これは気の所為だろうか。
「これが、お嬢の恋人?」「ひょろガキじゃねぇか……」「馬鹿ッ、魔王殺しだぞ!」「それにかなりの魔力量……」「お嬢様が認めたということは、きっと血も相当な味なんでしょうね」「あの可愛かったお嬢に、男が出来るなんて……!」「許せねぇ……たとえ相手が神でも許せねぇよ」
どうやら、ミラさんは随分と愛されているようだ。
「全員、うちの家系や母に敬意を抱いているだけですよ。私は自分だけの力で何かを築きたくて、家を出たのです。【操血師】では、魔物くらいしか道はなかったのですが。おかげでレメさん……ダーリンと逢えたので最良の選択でした……!」
ミラさんがすごく密着してきて、どぎまぎしてしまう。
そして、長い長い前庭の終着点につくと、目の前には古城とでも表すべき大豪邸が建っていた。
「ミラさんって……お姫様か何かなの?」
「レメさん……姫って呼んでくださるのは嬉しいですが、少し照れます」
「いや、そういう意味ではなくて」
恋人を姫扱いする彼氏のプレイではなく、彼女の実家を見ての感想なのだ。
扉が開くと、執事さんに迎えられる。
エントランスホールには沢山のメイドさんもいた。
シトリーさんが見たら喜びそうな光景だな……と現実逃避的に考える。
「お帰りなさいませ、ミラお嬢様。セラナ様がお待ちです」
執事さんが慇懃に一礼する。
「えぇ。今から向かうわ」
「ではこちらへ」
ミラさんに腕を組まれたまま、豪華な内装の廊下を進む。
そして案内されたのは、一つの扉の前だった。
執事さんが開いてくれた扉を、二人でくぐる。
パーティー会場などにも使えそうな広い空間。
奥に段差と、玉座のような椅子が配置されており、そこに金髪赤眼の――童女が腰掛けている。
吸血鬼の特徴である蝙蝠羽のような触覚もあるし、なによりミラさんに似ているので、ご家族なのは間違いないと思うのだが……。
「妹さん……?」
学生とは聞いていたが、遊び歩いているというので、てっきり十代半ばから二十代前半かと思っていた。
だがあの年頃ならば、遊ぶのも仕事のようなものではないだろうか。
ギリギリ、【役職】が判明しているかどうかくらいの年頃に見える。
九歳から十歳だろうか。
出逢った頃のカシュよりは年上、という見た目だ。
「あら嬉しい。若く見られるのは、いくつになっても嬉しいものよね」
童女が嬉しそうに笑う。
「若いとかの次元じゃないでしょう。幼いっていうんですよ――お母様みたいなのは」
「え、ええ……!?」
「いらっしゃい、レメくん。ミラの母の、セラナと言います。どうか気軽にママって呼んでね」
童女にしか見えない吸血鬼の女の子は、どうやら――三児の母らしい。
今年もありがとうございました!
なんとか書籍版の新刊が出せたり、コミック版の連載も2章完結まで届いたり
更には3章に続く……という形にもなったりと、魔王城関連でも嬉しいことがありました。
それ以外にも色々と作品を出させて頂きまして、
『骨骸の剣聖~』『魔女と魔性と魔宝~』などの新シリーズも刊行されております。
WEB版を覗いてもらえるだけでありがたいとは思いつつ、
商業作品もお手にとってもらえると、
続刊の可能性が高まったり、作家寿命が伸びたりしますので、
何卒……!
というわけで、来年もよろしくお願い致します!!!!!




