30◇謎のローブの男、何かする(前)
二百四十九位パーティーのメンバー構成は【勇者】【戦士】【戦士】【聖騎士】【狩人】となっている。
二人いる【戦士】は一人が少年で一人が少女。男をA、女をBと脳内で分類。
どうやら【勇者】は風精霊の分霊と契約しているらしい。
かつて魔王軍と争っていた時代に人間の味方をしてくれた精霊を四大精霊と呼び、それぞれ本体が【炎の勇者】【嵐の勇者】【湖の勇者】【泥の勇者】と契約してくれていた。
だが一騎当千と言えど、たった四人では戦争に勝てない。
精霊達は自分の存在を小さく切り分け、それもまた精霊とすることが出来るようだった。
そういった小さな欠片達は分霊と呼ばれ、格はかなり落ちるが本体と同種の力を契約者に与える。
そうして精霊持ちの【勇者】が一気に増えたという歴史がある。
平和になってからも【勇者】となった者は『精霊の祠』に赴き、かつての貢献に感謝を捧げるのだ。
という建前で、冒険者稼業の手伝いをしてくれるよう精霊に頼み込む。
そういえばフェニクスは祠で何を言ったんだろう。何回訊いても照れくさそうに笑うだけで教えてくれないんだよな。
今回の勇者は風の分霊から電撃魔法の加護を受けているようだ。
先行した【黒妖犬】数頭がやられてしまう。
敵に『気持ちよく戦えている』という意識を持ってもらう為の犠牲にしてしまった。
事前に説明してあるし、【黒妖犬】は群れの勝利の為に動くことに躊躇いはないそうだが、それでも心が痛む。
勝利の後でたっぷりと労うとしよう。
今回僕が力を借りるのは【黒妖犬】の群れと、【不可視の殺戮者】グラシャラボラスさん。
後使うのは、僕の魔法と身体だ。
彼らは荒野からほぼ一直線に、フロアボスのいるハリボテ魔王城へ向かっている。
視聴者的には荒野は第一層というより第一関門という感じだろう。
ほぼ一直線、というのは荒野にはバカでかい岩がそこら中に転がっているからだ。
僕は今、グラシャラボラスさん――長いので脳内ではグラさんと呼ぼう――の魔法で透明になっている。
これは詳しく聞くと『攻撃の瞬間、透明化が解除される』のではなく『相手に近づき過ぎると、透明化が解除される』というものらしい。
魔法には適用出来ないので、魔法使いを透明化して遠距離攻撃した場合、魔法が遠くからやってくる、となってしまう。術者が見えなくとも、これならば対応されてしまうだろう。透明化が解除されるギリギリの距離ならば効果はあるだろうが、敵を全滅させられないと反撃されて落とされてしまう。
その点で言うと、黒魔法との相性は抜群だ。
黒魔法は別に黒い靄が相手を襲うとかないからね。最初から透明な魔法だから、術者も透明になるとかなり良いのではないか。
「ハッ、難攻不落だかなんだか知らねぇけど、結構余裕じゃん」
電撃の【勇者】くんが言う。彼の通り名は【雷轟の勇者】だったかな。
「第一層だからってのもあるんじゃねぇの? 一応徘徊型の能力は厄介だし、そこだけ気をつけとけばいけるっしょ」
「ワンちゃん凶悪な顔で良かったよ~。これ可愛かったらあたし攻撃出来なかった」
【戦士】ABが応じる。
「私達は後発だ。『フェニクスパーティーが攻略済み』の階層に挑戦するのだから、最低限どこかで上回らなければならないと思うが」
【狩人】はマッチョな男性だった。他の者より年上で、発言や動きは慎重。
「だね。攻略速度とか、徘徊型を鮮やかに倒すだとか、なんか違うぞってとこ見せられないとキツイと思う。僕らの動画だけの見所がないと叩かれて終わりだよ」
背の高いメガネの少年が【聖騎士】。
【狩人】と【聖騎士】の発言は正しいだろう。
ただの劣化コピーでは、本家を楽しめばいいではないかとなる。
似たことをしても、『ここが違う』というウリがあると評価は変わるものだ。
「ばーか。クソカス【黒魔導士】がいない分、オレらの方が華があんだろうが」
クソカスは酷いんじゃないかな。アルバみたいなことを言う【勇者】くんだった。
「けどさ、【戦士】二枚ってだけじゃインパクトが弱いっしょ」
「分かる~。こっちは魔法剣もないしね」
魔法剣や僕の指輪を含む、不思議な能力を搭載した道具は魔法具と呼ばれる。由来はそれぞれだが、かつてある種族に創られたものというのが共通していた。
今の時代、新しい魔法具を創れる者はいるのか。一応いない、とされているが……。
というのも、その種族というのが既に絶えてしまっているのだ。公的には絶滅している。
なもんだから、魔法具はとにかく高価だ。
アルバは親父さんから貰ったのだったか。
参謀待遇とはいえ、指輪をポンと寄越した魔王様は相当な太っ腹だ。
僕が祖父……師匠の弟子ってことも関係してるのかな。
とにかく、お客様方の思考は僕の読み通り。これならばプランAでいけるだろう。一応三通りくらい考えていたのだ。
「やはりスピード攻略だろうか」
「うーん。【聖騎士】的に全力ダッシュとかは厳しいけどね」
【聖騎士】や【重戦士】は鎧を纏う。防御力や攻撃力で頼りになる分、敏捷を犠牲にする形だ。
パーティーは最も足の遅い者にスピードを合わせて移動するのが基本。
彼らのことを少し離れたところから観察していた僕は、配置につく。
大きな岩の陰に隠れ、透明化中のグラさんに僕の透明化を解除して貰う。ありがたいことに、グラさんの効果で透明になっている者同士は互いを認識出来る。
僕は岩陰から姿を現した。
足許には数体の【黒妖犬】。
「あッ!? おい見ろ!」
「……魔人、か? でもこの層の人型はフロアボスだけって話じゃ」
「あんなのいたら四位だって配信に使うよね? ってことは――」
「……フェニクスパーティーと遭遇しなかった、人型の魔物」
「いやいや待ってよ。あれ絶対誘ってるって」
【聖騎士】くん、正解。
だが彼らは全員がこのまま地味にフェニクスパーティーの攻略をなぞっても無意味だと思っている。
速さで勝とうという案で挑んでいるようだが、そこにもっと分かりやすい要素が出現したらどうする?
第四位も遭遇しなかった、【黒妖犬】使いと思しき魔人だ。もしかするとグラシャラボラスと合わせて、二体の徘徊型レア魔物を打倒出来るかもしれない。
透明化されて距離を取られたら、見つけ出して倒すのは困難。
どうする?
「おい、急ぐぞ!」
【勇者】というのは特別な存在。人間の規格を外れた強さを持つ者。選ばれし強者。
一部の例外を除いて、誰もが自分こそ世界一位に相応しいと思っている。
二百四十九位なんて物足りないよね。分かるよ。
本当なら他人の真似なんて屈辱だろうね。でも世界には沢山のパーティーがあって、半端な活動じゃ見ても貰えない。
彼らにとってこれはチャンス。
そして、決定的にフェニクスパーティーと違う攻略映像を作れるタイミングがやってきた。
追いかけるよね、そりゃあ。




