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難攻不落の魔王城へようこそ~デバフは不要と勇者パーティーを追い出された黒魔導士、魔王軍の最高幹部に迎えられる~【Web版】  作者: 御鷹穂積
第一章◇勇者に憧れた黒魔道士が魔王軍参謀になる話

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29◇魔物レメゲトン、初防衛に赴く

 



 登録証は加工された記録石だ。その中には冒険者なら冒険者としての、魔物なら魔物としての情報が記録されている。

 魔力体(アバター)情報もその一つだ。

 ただ魔力体(アバター)は情報量が膨大かつそれを顕現させる魔力まで内蔵しなければならないとの理由で、それだけで登録証一枚分の記録石が必要になる。

 なので登録証は二枚組が基本だ。片方が個人情報、片方が魔力体(アバター)情報と魔力。


 魔力体(アバター)へ精神を接続する装置は、繭に似ている。

 白くて丸っこい大きな繭が二つ、幾つもの管によって繋がれている。

 片方は自分が入るもので、個人情報の登録証を。

 もう片方は無人のまま、魔力体(アバター)の登録証を。

 それぞれ専用の挿入口に押し込む。

 後は片方の繭に入り、寝台のようになっているので寝転ぶだけ。


 するとすぐに目覚める。

 出る時に使うのは、先程まで無人だった繭だ。そう、もう移動完了だ。

 魔力体(アバター)は絶えず登録証と同期しており、退場した時点でそこまでの記憶を本体に流し込む。

 セーフルームに入ってダンジョンから出る時も同じだ。


 僕は職員専用のリンクルーム――生身から魔力体(アバター)に精神を移す部屋――で、魔物になってから初めて繭を使用していた。

 衣装は基本的には黒いローブだが、前にも増して怪しげだ。フードを深く被ると、鼻のあたりまで覆うことが出来る。

 魔力体(アバター)は装備込みなので、後は顔を隠す為の仮面もある。

 一番の変化はやはり角だろう。

 魔王様や師匠と同じ、黒い角。

 ただしその数は側頭部からの二本ではなく――。


「レメゲトンよ。それでよかったのか? 要望通りにしてやったが」


 魔王様だった。

 彼女の身長程もある髪は、今日は一つに結われている。髪型のおかげで髪を引きずることはない。

 深紅の魔王は不思議そうに僕――レメゲトンを見ていた。


「えぇ。魔物になるって決めてから、これがいいって思ってたので。しっかり作って頂いてありがとうございます」


 最初の一体は、魔王城が費用を全額負担してくれた。以降は半額負担になるらしい。

 魔力体(アバター)はその生成や修復に金が掛かるが、魔物は基本的にやられ役。

 攻略の度にやられる第一層の魔物達などは普通なら金が幾らあっても足りない。そこでダンジョン側が費用を一部負担してくれるところが多いのだとか。

 それと、基本的に魔力体(アバター)は自分の分身なので、自分の魔力量や肉体の大きさ・構造、特殊技能によって生成費用が増減する。

 一口に魔力体(アバター)と言っても、【勇者】や【魔王】とそれ以外では費用は段違い。

 逆に言えば、低層に配置される魔物さんなら倒されても【勇者】ほどには金は掛からない。


 僕の場合は少々事情が特殊で、実はフェニクス並に費用が嵩む。

 冒険者時代は極力魔力体(アバター)にダメージを負わないように立ち回った。実際は僕とリリーの後衛二人へ敵が到達する前に、前三人に魔物を倒して貰えるよう黒魔法を使ったわけだが。


「妙な奴よな。知っておるか? 魔人で角が一本というのはな――」


「はい、分かっています」


 魔王様の言葉を遮り、僕は頷く。

 そう、僕の角は左側頭部から生えている一本だけだった。

 右には生やしていない。


「むっ……そうか。お祖父様に何か言われたのか? 確かダンジョンネームにも要望を出していたな」


「あはは……魔王様が決めるものだとは知っているんですけど」



 魔王様は呆れるように笑って、ひらひらと手を振った。


「いや、いい。お祖父様も魔王には違いないからの。指定のない部分は余のセンスで付けさせてもらった。だがまだ名乗るな? 今日の貴様はあくまで『謎のローブの男』だ」


「えぇ、分かってます」


 フェニクス達が十層に届くまでの僕の仕事、それは――他のパーティーの撃退。

 フェニクスパーティーは、なんといっても世界ランク四位の人気者。魔王城の攻略放送は多くの人々が目にし、また熱狂した。

 そうなってくると現れるのが、「俺らにも出来るんじゃね?」と考える冒険者である。

 フェニクスパーティーが一度攻略しているわけだから、完全とはいかなくともやり方を真似出来る。

 彼らが攻略した魔王城の第一層を、自分達も攻略しようというのだ。

 話題に便乗しようという魂胆。

 第一層の時点で『攻略推奨レベル4』なので、誰でも入ってこられるわけではないが、予約は殺到。


 今日から僕はそれらをある程度処理する。

 毎回でなくともいいらしい。きっと十層の準備も並行して進められるようにとの配慮なのだろう。

 第一層は番犬の領域。

 既に作戦は考え、伝えてある。

 今日のお客様は二百四十九位パーティー。結構な実力者だ。当たり前のように【黒魔導士】はいないが、代わりに戦士がもう一人。

 攻撃力でガンガン押していくタイプ。

 フェニクスパーティーとやり方が似ている、と本人達は思っているのだろう。

 だから同じ方法で突破出来ると考えている。

 『難攻不落の魔王城』を甘く見られるわけにはいかない。ルーシーさんの代でこれまでの評価に傷を付けさせるわけにはいかないのだ。


「雇ってもらったからには、結果を出してみせますよ」 


「頼もしいではないか。冒険者時代とは印象がまったく違うな」


 能力を全開というわけにはいかないが、少なくとも好きなように使えるのはありがたい。

 他のみんなは既に荒野で待っている。

 室内に設けられた記録石に向かう。

 冒険者は個人情報の方の登録証を魔力体(アバター)で再現するが、魔物の場合はその機能を体内に組み込むらしい。

 だから記録石に触れるだけで転移可能。ちょっと不思議な感覚だが、すぐに慣れるだろう。


「さ、さんぼーっ!」


 ふと声がしたので振り返ると、カシュがいた。

 部屋の入口からひょこっと顔を出している。

 自然と僕の顔に笑みが浮かんだ。


「がんばってくださいっ!」


「うん、頑張るよ」


「貴様はあれだな、レメゲトンとしての口調を考えておけ」


 魔王様の言葉に、頷く。


「あー……ですね。このままだと迫力が無いかなぁ、とは自分でも思うんですけど」


「カーミラほど極端で無くともよいが、間違っても【黒魔導士】レメだとバレたくないのだろう?」


「ですね。考えておきます」


 カシュに手を振り、今度こそ記録石へ。

 薄暗く狭い空間に移動した。

 すぐ近くの壁を触って確かめ、特定の箇所を押す。

 するとゴゴゴ、と音を立てながら壁の一部が横へズレた。

 光が強くなる。

 ズレた壁の向こうに足を進めると、すぐに荒野に出た。

 記録石は、大きな岩の塊の中に隠されていたのだ。

 僕が出ると、すぐに岩肌が出入り口を覆い隠す。

 一匹の【黒妖犬】が僕を待っていてくれた。

 その頭を撫でる。


「よろしくね。……いや、えぇと――よろしく頼む」


 少し声を低くしてみた。うーん、レメゲトンとしてのキャラを固めるのには少し時間が掛かりそうだ。

 僕は尻尾を振る【黒妖犬】をもう一度撫で、取り敢えず声は戻す。


「【勇者】パーティーを撃退するのは君達だ。僕は力を貸すだけ。でも大丈夫、一緒なら――絶対に勝てるよ」




第一章において、72の仲間枠を全て埋めることはありません。

エピソードの主題が仲間集めではないので、そのあたりご期待くださっている方がいたら申し訳ありませんがご容赦ください。

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― 新着の感想 ―
[一言] 楽しく読ませていただいてます。 全ての力を解放した主人公がデバフだけでなく極悪な黒なる攻撃魔法ないし魔術を行使したら最高だなーと、想いを馳せながらこれからも読ませていただいてます。
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