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難攻不落の魔王城へようこそ~デバフは不要と勇者パーティーを追い出された黒魔導士、魔王軍の最高幹部に迎えられる~【Web版】  作者: 御鷹穂積
第一章◇勇者に憧れた黒魔道士が魔王軍参謀になる話

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25◇勇者様の添い寝フレンド(前)

 



「放っておく。普通なら、あんな失礼なこと言う女……」


 レメさんは感謝も口にしない失礼な私に、やはり機嫌を悪くすることなく、力無げに微笑んだ。


「うぅん、もちろん単に僕が嫌いで悪口を言う人はいて、そういうのは傷つくけど。仕方ないとも思うんですよね。嫌いな人は嫌いでしょうし。ただ、貴女は違うと分かりました。言われ慣れてるので、すぐに分かるんですよ。僕が嫌いなのか、それとも違う何かに苛立ってるのか、とかね」


 図星だった。

 私はレメさんが嫌いだったのではない。

 レメさんの環境を羨んで、ひどいことを言ってしまった。

 単に好き嫌いで彼を嫌いな人の方がまだいい。私は最低だ。


「嫌なことがあったり苦しいことがあると、人は周囲に吐き出します。家族や友人や恋人、大切な人にね。でも、そういうことが出来ない人もいる。孤独じゃなくても、自立心が高くて弱みを晒せない人。そういう人は黒い感情を心に溜め込んでしまう。壊れない為には、発散するしかない。自分の周りの人には出来ないから、無関係で丁度いい位置にいる他人に」


 ……。

 彼の言葉は、スッと胸に入ってきた。

 私のモヤモヤを上手く言語化してくれていた。


「そりゃあよくないことですけど、だからって襲われるかもしれないところを見捨てたりはしませんよ。僕はこれでも、勇者パーティーなんだから」


 そう言って、彼は自分の胸に手を当てて笑った。少しだけ誇るようなその顔が、とても印象に残っている。

 私は途端に自分が恥ずかしくなって、胸にこみ上げてきた気持ちを即座に言葉にした。


「ご、ごめんなさい……! ごめんなさい、ひどっ、ひどいこと言って。貴方は、悪くないのに。私、ごめんなさい……!」


「はい、許します」


 少年は優しく頷いた。それで終わりとばかりに、許しをくれた。


「あなたは、どうしてっ、その、そんな力があるのに、あんな好き勝手言われて黙ってるんですか。評価は正当じゃないとダメだと思います。【黒魔導士】だとか、女だからとか、若いからとか、馬鹿な理由で認めてもらえないなんて、そんなの、間違ってるでしょう」


 彼と自分を重ねて言ってしまったが、レメさんは私に事情を尋ねることは無かった。

 それをすれば、本来私が人に話したくないと思っている傷口を晒させることになるから。

 だから彼は何も訊かず、答えだけをくれた。


「でも、間違っている仕組みの中に入って行ったのは自分だ」


「――――」


「諦めるのは簡単だけど、貴女は諦めなかったから苦しんだんですよね。じゃあなんで諦めなかったんでしょう。僕の場合は、夢があったから。自分の決めた目標があるから、頑張れる。周りの声は痛いし、正直悔しい思いもしてます。でも、夢が叶った時のことを思えば些細なことだ」


 なんで? なんでって……なんでだろう。

 自分の【役職(ジョブ)】は変えられないのだから、その範囲で出来ることをして生きていくしかないと思った。

 自分ならばそれが出来ると思ったし、その為の努力は惜しまなかった。

 言ってしまえば、プライドなのだろうか。


「僕は、挑戦をやめない人を格好いいと思います。でもあなたがそこに限界を感じているなら、やり方を変えてもいいのかも」


「やり方……」


 彼は酔っ払いだからと適当にあしらわず、聞き取りやすい声で丁寧に対応してくれた。


「例えば、若さや性別で人を判断しない、そういう雇い主を探すとか。嫌なことからは逃れていいんです。それは逃走じゃなくて撤退だ。きっと貴女なら、次に挑戦すべき場所を見つけられる。……なんて、よく知りもしないのに勝手なことを言ってしまいました」


 励ますにしても無責任な言い方だと思ったのか、少年が申し訳なさそうな顔をした。

 自分の道は閉ざされたと、勝手に思っていた。

 だが、撤退。たとえば、この街から遠く離れた街で働き口を探すとかはどうだろう。

 あるいはダンジョンマスターが女性のところでもあれば、話を聞いてくれるかもしれない。


「取り敢えず、ここから離れましょうか? ただ彼らを放っておくのもな……」


 レメさんは、この男達を放置することで次なる被害者が生まれることを憂いているようだった。

 だからといって男達と私を同じ空間に置いておくわけにも、フラつく私を一人で帰らせるわけにもいかない。

 優しい少年がそのことで悩んでいるのが、私には分かった。

 驚きと恐怖が薄れたこともあり、先程までよりは余裕を取り戻していた私は、自分の能力を発動する。

 長い時間を掛けて私の血を体に混ぜた蝙蝠の亜獣が、私の呼びかけに応じてやってくる。


「蝙蝠……亜獣ですか?」


「はい。吸血鬼は血と魔力を吸います。では、魔力とはなんでしょうか」


「この世の全ての、元となるものって言われてますよね。だから魔力を形成して水や炎を生み出せるし、人の調子をよくする何かや、悪くする何かを生じさせることが出来る」


「そうですね。貴方はこんな話を聞いたことがありませんか? あまりに大きな魔法を使った者が、その後にミイラのように干からびていた、という話です」


 まだ頭は痛いが、話せない程ではない。

 決して自分を傷つけない誰かが側にいる、という状況が精神を良い状態に保ってくれているのだと思う。


「そりゃあ、ありますけど。実際に自分の腕が干からびた時は死ぬかと……あぁいえ、昔話とかで語られる話ですよね。本来自分の『生命力』になった筈の魔力まで魔法に注ぎ込んでしまった結果、死んでしまうっていう」


「はい。中途半端に吸血鬼に血を吸われた美女が、助かったものの老婆のようになってしまった……という話も理由は同じです」


「生命力が体内から失われたから……?」


「そうです。本来絶対にやってはいけないことですが、私はこれから……彼らが二度と悪さを出来ないようにします」


「彼らは許されないことをしました。でも……」


「大丈夫です。若さを奪いはしません……罪には罰。罪に対して、適切な罰。これが大事ですものね」


 レメさんはそこで何かに気付いたようだった。

 悩ましげな顔をしたが、やがて俯く。


「……僕もかなりお酒を呑んでいるので、ここであったことは明日には忘れていると思います」


 見て見ぬ振りをしてくれる、ということ。

 私は蝙蝠達を、彼らを犯罪に駆り立てた罪深き器官へと差し向けた。

 生命力を奪わせる。

 これでもう、彼らが女性を襲うことは出来ないだろう。

 その後レメさんは、私を家まで送ってくれた。

 返し損ねたローブは、今でも持っている。

 私は知ったのだ。

 レメさんは詳しく話してくれなかったが、彼はすごい【黒魔導士】だ。でも何か事情があって、それを隠して生きている。



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