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難攻不落の魔王城へようこそ~デバフは不要と勇者パーティーを追い出された黒魔導士、魔王軍の最高幹部に迎えられる~【Web版】  作者: 御鷹穂積
第一章◇勇者に憧れた黒魔道士が魔王軍参謀になる話

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16◇魔王軍参謀、第二の契約者を得る/【人狼】マルコシアス

 



「よろしくお願いします」


 僕は迷わず答えた。

 自分達を負かした相手に悔しさを感じながらもその実力は確かに認め、更には目の前に相手がいても真っ直ぐな称賛を向けられる。中々に得難い精神性だと思う。

 それに、彼は強い。

 基本的に【勇者】というものは、別枠で考えるべき。ちょっと規格外過ぎるのだ。

 中でも四大精霊に愛された【炎の勇者】【嵐の勇者】【湖の勇者】【泥の勇者】は伝説の存在だ。

 現代ではフェニクスが【炎の勇者】を、世界ランク一位パーティーのリーダーが【嵐の勇者】を名乗っているが、個人戦力としてはこの二人が最高峰。

 もちろん人間の中では、だ。

 弟子の欲目もあるかもしれないけど、師匠が誰かに負ける姿は想像出来ない。そうでなくとも対応する【役職(ジョブ)】として存在する【魔王】ならば、対抗出来る。

 とにかく、フェニクスはすごい奴ということだ。

 世界最強と言ってもいいくらいに。

 ……だからこそアルバは、四位で納得出来なかったのだ。


「おう! しかしオレが言うのもなんだが、えらく快諾してくれたものだな。七十二と聞けばそれなりの数だが、無駄には出来まい?」


 七十二枠もある。あるいは七十二枠しか無い。考え方は人によって変わるだろう。

 既にミラさんがいるので枠は七十一だが、僕の場合は深刻に捉えていなかった。

 強いて言うなら、色んな種類の仲間を集めたい。その方が色んな種族の亜人に希望を見せられるだろう。


「マルコシアスさんの戦いは間近で見たので強い方だというのは分かっていますし、部下の方々の練度も高かった」


「【炎の勇者】相手に一撃で退場させられたが?」


「マルコシアスさんがフェニクスのやり方に応じたからです。最後に一人でフロアボスに向かっていく。配下の方の邪魔はありましたが、貴方自身は動かなかった。辿り着いたなら迎え撃つと構えていた」


 マルコシアスさんの表情から笑みが消える。

 怒ったのではない。何かの確信を得たような、真剣な顔だ。


「……やはり(、、、)


 と、彼は呟く。


「やはりあれはわざとだったのだな。【黒魔導士】殿、貴殿はオレと【炎の勇者】が向かい合ったその瞬間、オレに掛けた黒魔法を解いただろう」


「はい」


「何故だ」


「貴方こそ、何故待っていてくれたんですか? あの日、僕はかなり魔力を消費していましたし、練度の高く動きの俊敏な集団に黒魔法を掛け続けるのは至難の技です。貴方がフェニクスを無視してこちらに向かってきたら、フェニクス以外は退場させることが出来たでしょう」


「どうだかな。そこまで甘くはなかろうし、仮にそうだとしてだ。他の三人はともかく、貴殿は底が見えん。そもそもオレの兄弟全員に複数の黒魔法を長時間掛ける魔力を、何故人間が生み出せる」


「それは……」


 生き物には魔力を生み出す器官があり、これは筋肉や肺活量のように鍛錬次第で強化出来る。方法は単純。

 使い続ければいい。

 そして魔法の効果や範囲は、使い続けることに加えて試行錯誤することで強化・拡大させることが可能。

 僕がどうやって今のレベルまで鍛えたか。答えはかなり単純だ。


 僕は二十四時間、魔力を練り続けている。


 僕は二十四時間、魔法を使い続けている。


 師匠の修行はまず体作りから始まった。体力筋力そして精神力を、とにかく過酷な修行で鍛える。基本的なトレーニングはもちろんのこと、獣のいる山に放置されたり、下に川があるから死なないという謎の理屈で崖から突き落とされ、しかもその崖を道具を使わずに上がってこいと言われたり、ひたすら師匠に挑んでボコボコにされたり。

 その上で、魔力を残して寝るなと言われた。可能な限り生み出し、作った先から魔法へ変えろと。そうすれば体は『魔力が不足している、危険』と判断し、なんとか生み出そうとする。その時に魔力器官が少しずつ強化される。一歩間違えれば命の危険があるが、その一歩は訪れなかった。僕が出来るようになるまで、師匠が付き合ってくれたからだ。

 魔法を掛ける相手はたまに師匠だったが、基本的には――自分だった。

 まず師匠がお手本を見せてくれる。速度低下で僕は亀のような鈍さになり、毒でのたうち回りながらゲロを吐き、混乱で全裸になって森の中を駆け回り、思考に空白を挟まれ何十分もぼうっとしていたり、闇で視界が閉ざされ怖くなって震えたりした。ちなみに攻撃力低下によって木の枝も折れなくなったり、防御力低下で小石をぶつけられて死にかけたりもした。

 自分の黒魔法観が根底から覆され、僕は知ることが出来た。

 魔法に限界はない。術者の想像力と技術に限界があるだけなのだと。


 僕はもう、ワクワクしかしなかった。


 フェニクスに約束した通り、三年で僕は並の【黒魔導士】を越える魔力と技術を手にした。

 同時に、師匠の監督がなくとも常時魔力生成と魔法展開が可能になった。

 僕は常に体に負荷を掛けている。物理・魔法共に攻防力低下、体・思考共に速度低下、混乱・暗闇状態だ。

 ダンジョン攻略は魔力体(アバター)で行うので、問題も無かった。生身で魔法を解いたことはない。

 睡眠中すらも行えるように、師匠の鬼しごきで鍛えられた。

 魔力生成と魔法展開をやめると殴り起こされるのだ。

 ちなみに僕は冒険者育成機関にフェニクスと一緒に通うと嘘をついて村を出て、師匠に世話になった。

 これが、本来不遇【役職(ジョブ)】である筈の【黒魔導士】になりながらも、強くなる方法。

 他の人が長くて日に数時間鍛える時、僕は二十四時間鍛えている。

 十年鍛えたと言う時、実際は全ての時間を鍛錬に使えるわけではない。

 だが僕に限っていえば、食事や睡眠、入浴中や娯楽に使う時間まで余すところなく修行の時。

 十年鍛えたと言う時、僕は十年まるごと鍛えている。

 戦闘系の【役職(ジョブ)】ではないからこそ出来る鍛錬。


 【黒魔導士】になったからこそ到れる境地。


 正直師匠がいなかったらこうはなれなかったし、だからこそ僕は絶対に師匠を裏切らない。

 夢を叶えるのに努力するのは当たり前。必要な努力を全て教えてくれる人に恵まれるかどうかは運だ。

 僕は人に恵まれた。

 僕と二人で一位を目指すとか言い出す親友と、僕を弟子にして一人前になるまで面倒を見てくれた師匠。

 そして今で言えば、魔物側の勇者という道を示してくれたミラさん、雇ってくれたルーシーさんに、新たな友人ブリッツさん、そして癒やしの存在である可憐秘書カシュ。

 どれだけ辛いことがあっても、ギリギリのところで僕は人に恵まれる。


「どうした、【黒魔導士】殿」


「あぁ、いえ……説明すると長くなるので」


「むぅ……そうか、ならばそれは別の機会にでも。だがもう一つは聞かせてもらうぞ」


 マルコシアスさんとフェニクスの一騎打ちで、僕は黒魔法を解いた。


「フェニクスが一対一を仕掛けて、マルコシアスさんは応じました」


「あぁ」


「なら、僕が何かするのは無粋というものでしょう」


「……漢として大変に好ましい意見だが、冒険者は勝利することをこそ求められる。貴殿の選択で万が一にも【炎の勇者】が退場したらどうするのだ」


 ……あぁ、そういうことか。


「一対一であいつが負けることはありません。だから選択肢は勝つか負けるかじゃなくて、あいつとの一騎打ちに応えたマルコシアスさんの意思に僕も応えるか、応えないかです」


 一瞬、彼だけでなくミラさんやカシュもぽかんとした。

 しばらくして、運動場を響かせるような笑い声がする。


「ふはははははッ! それはいい! 友の勝利を確信し、敵の矜持まで汲んでみせるか。そこまで気持ちよく言い切られてしまうと、怒りも湧かんよ! 実際完敗だったしなぁ!」


 彼はひとしきり笑うと、人間状態になった。

 銀の髪と赤い目をした高身長の男性で、精悍な顔立ち。体は狼化時よりも小さくなっているが、それでも大きい。

 彼は僕に向かって右手を差し出した。握手の形。


「だが【黒魔導士】殿、その【炎の勇者】を、貴殿は撃退するおつもりなのだろう?」


「はい。一緒に勝ちましょう」


「乗った」


 僕らは握手する。

 互いの魔力が指輪に流れる。


「オレ、【人狼】マルコシアスは貴殿の召喚に応じ、その敵を撃滅することを此処に誓おう」


 誓いの文言に決まりはないらしい。強いて言うなら、召喚に応じる意思を示すこと。


「よぉし! これでオレと貴殿は兄弟だな! がっはっは!」


 彼は仲間を兄弟と呼ぶようだ。馴染みのない感覚だが、そういうものだと思えば悪い気分ではない。


「では聞かせてくれるか兄弟。何故明らかに十にも満たない童女を連れている?」


 マルコシアスさんはカシュを見て言った。


・契約人数 2/72





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