166◇第十層攻略直前インタビュー、再び
『いよいよ、レイド戦も終わりが近づいてきました! さて! ここまでを振り返って、どうでしょう――エアリアルさん!』
フェニクスパーティーの攻略時よりももっと大々的に行われるレイド戦。
なので、第十層戦前のインタビューも街の広場に設けられたステージで行われた。
ステージには、第十層戦に参加するメンバーのみが上がっている。
これから第十層を戦う者達へのインタビュー、だからだろうか。
僕は一般人に紛れて、それを見に来ていた。
あたりには大勢の見物人がいて、移動もままならないほど。
『そうですね、非常に巧みだな、という印象です』
エアリアルさんは顎に手を当て、考える仕草を見せてから言った。
『巧み、ですか? というと?』
司会者が首を傾げる。
『私がかつて挑んだ魔王城のレイド戦は、異様でした。なにせ魔王が最深部から第一層に出てきて、我々を全滅させてしまったわけですから』
『あぁ、今や伝説となっている回ですね。こんな魔王がいるのなら、決してこのダンジョンは完全攻略出来ないと、多くの冒険者が攻略を断念したことでも有名です』
師匠が若きエアリアルさんを含めた冒険者を第一層で全滅させた回だ。
『今回はありがたいことに、いきなり魔王という展開にはなりませんでしたね』
エアリアルさんが微笑むと、広場では笑いが起こった。
『魔王城には強力な魔物が数多くいます。この使い方が非常に上手い。特に今回は、レイド戦に参加する十七人、これを撃退する為の作戦と人員配置が光っていた。たとえば敵を一人倒すというのではなく、明確にエアリアルを罠に嵌める、といった具合に』
『なるほど……?』
『我々は視聴者の皆さんのおかげでランク上位にいられるわけですが、その分やはり取得出来る情報が多くなってしまう。沢山の攻略動画が公開されているので、相手からすれば研究し放題です。逆に、魔王城は深くなるほどに情報が少なくなる』
『あぁ……! 敵は、手に入る情報の差まで動きに組み込んでいるということですか?』
司会者がポンッと手を叩いて言った。
『その通りです。単なる戦力強化のみであれば、我々は全員揃って魔王と戦うことが出来たでしょう。ですが魔王城のレイド戦は、そこで終わらなかった』
『しかし、研究出来るとはいってもそう簡単にいくでしょうか? 攻略者候補は以前から調べていた、などは考えられますが』
魔物側も、自分達の腕を磨くだけではない。
冒険者はチェックしているし、予約が入った段階からより深く相手を調べる。
『えぇ、個人的には、優秀なブレインがついているのではないかな、と。個々の能力や性格、咄嗟の動きまで網羅するような、冒険者に詳しい人材が』
鋭い。
まぁ冒険者に詳しい人材で間違いないだろう。冒険者オタクだけど。
『ほほう! そうなると、レイスさんとフランさんが大活躍されたのは、情報が少なかったから……というのもあるのでしょうか?』
ちらり、と司会者がレイスくんを見る。
『実力だよ、って言いたいけどね。それはあると思うよ。俺とフランをピンポイントで狙う攻撃とか罠って、前半ほとんどなかったでしょ? 情報収集の様子見って部分はあっただろうね。だから他のみんなより、ちょっと派手で強引に動けたりした。後半になってくるとヒヤッとくる場面増えてきたしね。ま、それでも俺達は退場なしだけど』
レイスくんとフランさんの実力は未知数なところがあった。
解明しないことには、対策を講じることも出来ない。
ここまでの攻略で、二人についてもだいぶ分かってきた。
『あはは、実に頼もしいですね』
それから、唯一三人残ったスカハパーティーや、逆に一人だけになってしまったヘルさんに話を振りつつ、インタビューは進む。
そして、本題に入った。
『次の第十層はなんといっても、【炎の勇者】フェニクス率いる第四位パーティーが全滅した層となります』
まぁ、だからわざわざこのタイミングでインタビューを行ったのだろう。
『エアリアルさんは「天空の箱庭」を第九層で発動してしまいました。聞いたところによると、これは精霊の消耗も激しいのだとか』
『えぇ。とはいえ、普段は私自身の魔力で精霊術を使っていますから。あの規模となるとさすがに精霊の力を借りねばなりませんが、発動範囲も狭く時間も短かったこともあり、もう使えないということはありません。ご安心を』
これは視聴者へのアピール、と僕は受け取った。
あとは魔物達に、切り札は消えていないと伝えるためのものでもあるか。
とはいえ、もう使えないということはない、というのが本当だとしても、それがイコール最高の状態で使える、ということにはならない。
最大展開時間があったとして、アガレスさんのおかげでそれを削ることには成功した。
『しかし、実に二十数年ぶりとなる「深奥」の発動に驚かれた視聴者も多いかと思います。属性魔法の域を超えた精霊の権能、その再現。四大精霊本体の契約者のみに許された、まさに魔法を超えた術なわけですが。【時の悪魔】アガレスはそれほどの強敵だった、ということでしょうか』
精霊術の深奥と呼ばれる術は幾つかある。精霊本体につき、少なくとも各二種以上。
第十層戦後、フェニクスが習得に勤しんでいるのも深奥の一つだ。
いずれも属性魔法ではない。
フェニクスの『神々の焔』だって、あれは火属性魔法ではないし。
『万物を塵に還す』という奇跡を、焔を模した何かで再現しているに過ぎない。
『そうですね。魔法もそうですが、遣い手が実に厄介でした。我々と同じくらいに視聴者の皆さんも感じていることと思いますが、今回の魔王城は既存の形に新しさが加わっています。私はこれが……正直、楽しい』
プレゼントを前にした子供のような、期待に満ちた笑顔。
『……楽しい、ですか。エアリアルさんがそのようなことを言われるのは、珍しいですね』
『いくら年を重ねても、男はそう変わりません。相手と自分が互いに全力を出して、どちらが上かを決める。この高揚よりも心惹かれるものを、少なくとも私は知らない。忘れかけていたものを、このレイド戦が思い出させてくれました』
最強故に、全力を出す場が失われて久しい【嵐の勇者】の前に、レイド戦は転がり込んできた。
頂きに立ち、後進の育成に手を出し、技術も磨き抜いた。
自分を追い抜くかもしれない冒険者は育てられても、敵をどうこうすることは出来ない。
強敵を育てることだけは出来ない。望み、巡り合うのを待つしか出来ない。
今回のレイド戦に、エアリアルさんは期待している。
全力を出せる戦いの場が用意されることを、願っている。
『魔王との戦いが実に楽しみです』
おぉ……! と広場が沸く。
『それでは、第十層は攻略出来ると』
『尊敬する友人の言葉を借りれば、「最後に必ず勝つのが勇者」ですから』
それは【不屈の勇者】アルトリートさんの言葉だ。
エアリアルさんの友人で、レイスくんの父親で、僕の憧れの勇者。
そして、僕と共に育ったフェニクスにも、間接的に似たようなフレーズが引き継がれたりもした。
まだまだ盛り上がる会場を、僕はゆっくりと離れる。
僕の胸にも、その言葉は深く刻まれている。
だから、勝つのは僕らだ。
最強の冒険者達を撃退し、証明するのだ。
魔物が勝ってもいいのだと。やられ役ではないのだと。
ふと振り返った時、エアリアルさんと目が合った気がした。
『とはいえ、そう簡単にはいかないでしょう。魔王より先に、フェニクスを倒した参謀との戦いがあります。これもまた、実に楽しみだ』
彼の唇は、いずれ来る戦いの高揚に歪んでいた。
僕は胸中で呟く。
――僕もですよ、エアリアルさん。
いつだったか、彼のパーティーに誘われた時。
すごく嬉しかったし、光栄だったけど、断った。
一位は入れてもらうものではなく、至るものだと思ったから。
なによりも、その時既に僕は居場所を見つけていたから。
冒険者としての順位で彼を越えることは出来そうにないが、どちらが上かと決める機会は得られた。
レイド戦も終了間近。
必ず、第十層で敵の侵攻を食い止めてみせる。




