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トリスティアの怪しい魔法使い  作者: 安籐 巧
第二章:冒険者の仲間
20/22

第一話 親切な冒険者

 早くかけたので投稿しますね。

 誘拐事件から数日後、アレスが冒険者になる宣言をした翌日、彼とヴィヴィアンはトリスティアの街門に来ていた。

 まだ朝早いものの、あたりには出発の準備をする馬車がたくさんあり賑わっている。地球とは違い、この世界では基本的に人類は夜活動できない。魔具による明かりがあるために町のなかであれば完全な暗闇は少ないものの、外に出れば真っ暗である。そんな中を馬車で進めるわけがない。

 加えて魔物の中には夜行性のものもおり、仮に出会えば視界の不利から冒険者でも危ないとされている。

 ゆえに遠くを目指して移動する場合は朝早くから出発し、日が出ている間に次の町まで行くというのが基本なのだ。

 そんな馬車たちを見やりながらヴィヴィアンとアレスは目的地を探していた。


 「このあたりなのか?」


 「はい、このあたりにあるはずです。あれは必ず門のすぐそばにありますから、ああ見つけました。あれです」


 「へぇ、あれが冒険者ギルドの買取所か」


 「はい、これから何度もお世話になる場所です」


 冒険者ギルドは所属する冒険者から危険域でとれる様々な素材を買い取ることで成り立っている。その様々な素材の中には鉱石といった重くかさばるもの、さらには魔物の死骸といった街中で運ぶには問題があるものもある。

 そのため冒険者たちが持ち帰った素材を査定し買い取る場所は基本的に町の入口のすぐそばにある。ここトリスティアも同様である。

 少し見ていれば冒険者らしき武装した人が何人も入っていく。

 アレスとヴィヴィアンも続いて扉を開けて中に入った。


 「うわ……」


 「見られてるな」


 そんな二人を迎えたのは周囲から向けられるかなりの量の目線である。

 最初は扉の近くの数人であったが、最初の数人が目線を外さないうちにほかの人もヴィヴィアンに目を向け始め、最終的に見える範囲の人全員が彼女を見ているという状態になった。


 (やっぱりこの格好が悪いのか?)


 今のヴィヴィアンは隠者のローブを着ている。

 はた目から見れば怪しいことこの上ない。とはいえ最近は町の人も見慣れてきたのかそこまで視線を集めることはなくなっていたのだが、ここでは違うようである。

 これは想像以上に駄目なのかもしれない、しかしこれ以外に着られるのはあのドレスぐらいしかないし、とヴィヴィアンが悩んでいると――


 「おいおい、お前らいい加減にしろよ。新入りが怯えてるじゃないか」


 近くの席に座っていた男の一人が立ち上がってヴィヴィアン達の方へ歩いてきた。

 プレートメイルを身に着けた男は人当たりのよさそうな笑みを浮かべながら話しかけてきた。


 「いやー悪いなあんたら。あいつらもここのところ噂の魔法使いが来たってんで気になってしょうがないんだ、許してやってくれ」


 「ああ、別にそれはいいけど、噂って何だ?」


 嫌な予感がするものの尋ねてみる。

 男は意外な質問をされたといった顔をした後、にやにやしながら答える。


 「おいおい、今町中で噂の当人が知らないってのか。冒険者登録をして早々に単独で夜の森を走破した期待の新人、加えて長年続いた誘拐事件の解決に導いた魔法使いってことであんたは相当有名人だぞ」


 「そうなんですか、ヴィヴィアンさんすごいですね」


 (あんまり嬉しくない……)


 ちょっと嬉しそうなアレスと違いヴィヴィアンは少し嫌そうに顔を歪めた。

 なにせ周りからじろじろと探るような目が複数向けられたままである。別に犯罪者ではないので有名になったからといって問題はないが、この類の目を常に向けられるとしたら御免こうむる。ヴィヴィアンはあくまで一般人でしかないのだ。


 「この前あった時から素人じゃないとは思ってたが、それにしてもいきなり賞金首の捕縛だなんてやるじゃねえか」


 「この前?」


 「って、おいおい。まさか俺の事覚えてないってのか。武具屋でいろいろ教えてやったろうに」


 「武具屋で……? ああ、あの時の」


 言われてみればヴィヴィアンも男の顔を思い出す。

 アレスとわかれた後にいった武具屋でであったやたら親切な男が目の前にいる男だということにだ。


 「あの後いろいろあったから忘れていた。親切に説明してもらったのにすまない」


 「ああ、いやいや別にいいさ。あの時は自己紹介もしてなかったしな。改めて冒険者やってるグレゴリーだ」


 「ヴィヴィアンだ。よろしく」


 「アレスです。よろしくお願いします」


 「おう、こちらこそよろしくな。こうしてまたあったのも縁だ。二人ともここの事を知ってるわけじゃなさそうだし、いろいろ教えてやろうか?」


 グレゴリーはあたりをぐるっと見渡しながらそういった。

 ヴィヴィアンは今更ながらにこの男は親切すぎやしないかと思い始めた。ゲームでは初めて来た場所で説明してくれるNPCなど当たり前だが現実ではありえないだろう。仮にあるとすれば何かしらの相手に下心がある場合だ。


 (まさか、私の顔が見えてるとか? いや、ないな。考えすぎか……)


 ヴィヴィアンの素顔はまさに男の下心を燃え上がらせるにたるものであるが、現在のヴィヴィアンは魔具の効果でその素顔を覗かれることはない。ゆえに目の前の男が女目当てに声をかけたわけではないだろうと判断した。


 「どうします? 俺は一応聞いておいた方がいいと思うんですが……」


 「そうだな……」


 アレスは控え目に話を聞いてみようと提案する。

 相手が何を考えているかはわからないが、冒険者の先輩からいろいろ聞いておけるのはいいことだろうという理由からだ。


 (まあ話ぐらいは聞いておくか。無料(タダ)なんだし)


 結局相手が何を考えているかはわからないが、特に要求されている物があるわけでもないし話だけでも聞いておこうと結論を出す。

……グレゴリーはただで話すとは言っていないのだが。


 「それじゃあ頼めるかな。実はここ(買取所)のこともよく知らないんだ」


 「ふーん、やっぱり冒険者としては素人なんだな。それじゃあまずは買取所の使い方についてだな」


 そういってグレゴリーはこころなしか楽しそうに説明を始める

 単純に説明するのが好きなのかもしれない。


 「ここは名前の通りに冒険者たちが持ってきた物を買い取ってくれる場所だ。ただそれだけじゃなく仕事のためにいろいろと準備するための場所でもある」


 そういって建物の奥の方を指差す。

 男たちがたむろっているテーブルの奥には棚に瓶が並んでいる。


 「あっちにある棚にはギルド製の魔法薬がある。単純な傷薬からで即座に傷が癒える回復薬までいろいろそろっているぞ。安いものは普通に一般家庭でも使ってるようなものだが、高いものならどんな重傷でも一瞬で治るようなすさまじいものもあるぞ」


 言われてテーブルを抜けて棚によって見てみれば、ゲーム内でも見たような赤や緑の液体で満ちた薬瓶がたくさん並んでいる。

 ヴィヴィアンといっしょに薬を見てみたアレスはその色に見覚えがあった。


 (そういえばヴィヴィアンさんが飲ませてくれたやつもすぐに傷が治ったっけな。いくらぐらいするんだろ……!)


 少し前にヴィヴィアンに飲ませられた回復薬や解毒薬も同じものだとわかったアレスだったが、今度はその値段に驚くことになる。

 一般的にもつかわれる傷薬などは安いのだが、回復薬や解毒薬は安い物でも銀貨数十枚、高いものは金貨何枚という値段である。それだけあれば一般家庭なら一年は暮らしていける金額だ。

 商人の息子と言っても別に金持ちではないアレスにとっては信じられない金額である。そんなものを惜しげもなく使ったヴィヴィアンに驚きの目を向けてしまうのもしかたないことだった。

 そんなアレスをほっといてグレゴリーとヴィヴィアンは話を続けている。


 「まあとんでもなく高いが、万が一の時に命をつなげるからな。買えるようになったら一つは買っておくいい」


 「いいものだとはわかるが、なんでこんなに高いんだ?」


 「そりゃこれを作れる連中は少ないからな。材料があっても作れる数には限りがあるし、それに王族貴族がいざって時のために買いまくるからとにかく数が足りねえんだ」


 「解毒薬の方も人気があるのか? 毒をもった魔物が多いのか?」


 「そっちはなおさらお貴族様に人気だよ。人間同士で何やってるんだかとは思うんだがねえ。魔法で作られた解毒薬はほぼなんでも解毒できるからお貴族様は常に胸に一本は持っておきたいって腹なのさ。病気には効かないからいいが、そうじゃなかったら一本残らず買い占めてんじゃないかね」


 そんな値段にも特に反応せずにそのまま話を続けるヴィヴィアンに、アレスはこの人はやっぱりどこかの貴族なんだろうな、と疑念を確信に変えていっていた。

 単純にヴィヴィアンはまだこの世界の貨幣価値について疎いので高いという実感がわいていないだけなのだが。仮に彼女にわかりやすく『このお薬は一本百万円なんだ』とでもいえば目を見開いて固まるだろう。

ヴィヴィアンは旅行中に慣れない通貨を使ってるおかげで自分がどれだけ出費してるのか気づいていない無計画学生と同じなのだ。


 「それでそっちの掲示板みたいのは?」


 「ああ、そっちにはギルドの広報とか伝令とかだな。たとえば……」


 ヴィヴィアンとグレゴリーは既に薬棚から別の話に移っていたが、その話はアレスの耳に入っていなかった。

 先ほどの金銭感覚の違いから、彼は再び自分とヴィヴィアンの違いを思い知らされたからだ。高価な薬を惜しげもなく使い、加えて金銭価値など彼には計り知れないほどの魔具をいくつも持っている。更には本人もすさまじい魔法の使い手にしてとんでもない美女である。本来であれば顔を隠して冒険者なんてしてないでどこかの王族に仕えているか、あるいはその隣に妻として立っているべき存在、自分とは限りなく違う世界の人である。

 そんな人にわがままをいってついてきたことの無謀さを今更感じているのだった。


 (俺は別に剣を握ったことがあるわけでもないし、何かすごい特技があるわけでもない。実際アニーやリシアがさらわれた時も、どっちの時にも何にも役に立てなかった)


 リシアの時には一緒に攫われていたぐらいである。一応彼の行動の結果、アニーが異常にいち早く気付くことになりヴィヴィアンの助けに繋がったわけであるがそれを彼は知らない。


 (でも、もう二度とそんな風になりたくないから、だからそのために冒険者になろうと決めた。冒険者になって、魔物と戦う力を身につければあんな思いをまた味わうことはなくなるだろうから。そうしたら――)


 「アレス君?」


 「っ! はっ、はい!」


 「ああやっと返事した。とりあえず彼からこのあたりの倒しやすい魔物とかも聞けたし、これから行こうと思うんだけど。君の剣の慣らしもしたいしね。それでいいかな?」


 「は、はい、俺もそれでいいと思います!」


 自分の思考に没頭していたアレスはヴィヴィアンが何を言っているかよくわからないままに首を縦に振っていた。

 首をかくかく振るアレスを訝しげに見ながらもヴィヴィアンはまあいいやと思いグレゴリーにお礼をする。


 「この前の武具屋の時と言い親切にありがとうございます」


 「いいってことよ。まあ恩に感じてるなら貸一つってことで、儲けたときにでもここで一杯おごってくれ」


 「ええ、儲けたときには。それじゃあ私たちはこれで、行こうかアレス君」


 「はい。あ、グレゴリーさんありがとうございました」


 「おうどういたしまして。そいつがついてるなら心配ないとは思うが気を付けろよー」


 そういいひらひら手を振るグレゴリーに手を振りかえしながら、アレスとヴィヴィアンは扉を開けて初の冒険者仕事に出かけた。






 「ふーん、おもしろい奴だったな。実力の割に冒険者なら常識ってところのことも知らないようだし、やっぱり国立魔導研究所あたりの秘蔵っ子かねぇ……」


 「おい、グレゴリー。しみじみ呟いてんじゃねぇぞ!」


 「そうだそうだ!」


 立ち去って行ったヴィヴィアンたちの見送りながら推測するグレゴリーにまわりから野次が飛ぶ。彼らは当初入ってきたヴィヴィアンに声をかけようと思っていたもののグレゴリーに先を越されてしまって連中である。

 

 「おまえはいつもそうだよな! 見どころのある新入りに優しく声をかけて恩を売っていい目みやがって!」


 「そうだそうだ!!」


 「はっはっは! 早い者勝ちだ、ばかやろう共!」


 「なんだとぉ!」


 ヴィヴィアンも思っていたことだが、別にそういった役割をおっているわけでもないのに彼が丁寧に彼女たちに教えてくれたのは彼に利があるからだ。

 それは有望な新人に対して唾をつけ、さらには彼らに対して恩を売れるということである。冒険者という職に就き初めてのことに緊張する彼らに優しくのうはうを教えスタートダッシュをサポートする。すると彼らはグレゴリーに対して恩を感じるわけである。実際は教えられたことがある程度冒険者をやっていれば当たり前に知っていることでも。

 たかがその程度、と思うかもしれないが結構重要なことだ。

 冒険者という仕事は一人でするものではない。前回はヴィヴィアンは一人で森を駆け抜けたが、そんなことができる人間は少ないのである。

 普通は冒険者たちはチームを組むものだし、加えて複数のチームで組んで大がかりな仕事をすることもある。そうでなくてもいい狩場や実入りのいい魔物、優秀な魔具を買える場所などの情報を交換したりもする。

 つまり冒険者の横の繋がりというのはとても大切なのである。だからこそ、このバーのような冒険者同士で交流を行える場所をギルドが用意している。

そしてグレゴリーは新人を少し手助けすることで人脈を作り上げているという訳だ。

 とはいえ彼がこうして周りの連中に責められているのはそういった表向きな理由だけではない。


 「あら、なんだかいつもより騒がしいですわね」


 「……そうだな。何かあったのか?」


 ヴィヴィアン達が出て行ったばかりの扉を開けて年若い男と女が一人ずつ入ってくる。

 男がその騒がしさに顔をしかめる一方、女は騒がしいバーの中を見渡し、探していた顔を見つけると嬉しそうに駆け寄る。


 「グレゴリー、武器とってきたわよ。やっぱりあの鍛冶屋はいい仕事するわね」


 「おう、ありがとよシアニー! おまえもありがとうな、ウィル」


 「……別に、ただ一緒に行っただけだからな」


 入ってきた若い男女はグレゴリーのチームであるシアニーとウィルだ。

 シアニーは若草色の膝丈のローブを着た少女で、ウィルは獣の皮で出来た軽鎧に短剣を数本とショートソードを身に着けた青年だ。

 その二人を見た途端に周りの連中がさらにヒートアップする。


 「俺たちのアイドル、シアニーちゃんを持ってきやがって!」


 「そうだそうだ! 羨ましいんだよ!」


 「はっはっはっは! 言ってろばかども!」


 シアニーが冒険者になったときにもグレゴリーが指導し、その縁で同じチームになり、さらには恋人となったのである。

 つまりはグレゴリーは若くてかわいい女の子をひっかけてうまいことやった野郎というわけだ。加えて彼の広い人脈には貴重な女性な冒険者も含まれているので、周りの連中(彼女なし)共は彼に罵声を浴びせるのである。

 そんな罵声を浴びせる外野を無視してシアニーは恋人に問いかける。


 「ねえグレゴリー、なんでこんなにいつもより騒がしいの?」


 「……確かに、お前に対してのやっかみはいつもの事だがそれ以外にも何かあったのか?」


 「ん、ああ。お前らがくるついさっきまで最近噂の奴がいてな……」


 先ほどあったことをグレゴリーが話す。

 なかなか面白い二人組だったな、と楽しそうに話すグレゴリーにシアニーは少し咎めるよう話す。


 「もう! あなたの悪い癖ね。ほかの人だって縁を作りたい人だっているんだから、たまには譲ってあげなさいな」


 「はっはっは、悪いが癖なんだ。それに会ったこともある奴だったしな」


 「そうなの? それでもあんまり繋がりを広げ過ぎても駄目でしょうに。以前もそれで厄介ごとに巻き込まれたこともあるんですから、見境なく新人に声をかけるのはおやめなさいな」


 「いや~、だけどそうして声をかけたからこそお前に会えたわけで……、ってどうしたウィル。何いつもの倍ぐらいのしかめっ面してるんだ」


 「………………そいつ、その素人の子供一人しか連れてなかったのか?」


 ウィルが何を気にしているのかを悟り、グレゴリーは少し顔をしかめながらウィルをせいした。


 「本人もそういってたし間違いないだろうな。けど早合点はやめろよ。話した感じあいつはあいつらとは違う。それに噂通りなら実力もしっかりあるだろうからな、問題ないだろ」


 「………………わかってるさ。けど、そいつを好きにはなれそうにないな」


 そういいながらウィルは何かをこらえるように拳を強く握りしめていた。


 海外旅行をするときには一日に使う金額を決めておきましょう。していないといつの間にかすごい金額使ってしまいます。(実体験)

 海外では無料と思っても差し出された物に手を出すのはやめたほうが賢明です。試供品を配ってるかと思って手を出したら高いお金を請求されることがあります。(実体験)

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