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〇〇テイマー冒険記 ~最弱と最強のトリニティ~   作者: 紫燐
第3章『光と影』~剣の王国篇~
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D級テイマー、今後の方針を決める




剣の王国『ビセクトブルク』


大きな城と街並み全体を覆い、強固な城壁は例え敵が侵攻して来たとしても、容易にはその侵入を許さないだろう。

それは、街のあちこちに点在する城の兵達が、日夜交代で見張りに立ち、街の安全を護り続けているのが理由の一つである。




「よ、漸く着きましたね。レンさん…!」

「ディーネ、やったね…!」

「はいっ!!」




陽もとっぷりと暮れた頃。

ビセクトブルクの街明かりがレン達を照らしている。


街は光に溢れ、彼方此方からは人の声や音楽が響き渡り、夜の賑わいを見せている。

その温かくも安心する光景に、レンとディーネは互いに顔を見合わせた。

少し、いやかなり疲れた顔をしているのは、きっと自分も同じなのだろう。


最期の休憩から力を振り絞って歩き続け、仲間達の応援に支えられながらも、街の入り口に到着するレン達の姿があった。




「隣街から歩いて来たのですかっ!? はぁ…それはご苦労な事で…」




城門の出入り口では、王国兵士が検問としてこの街を出入りする人々のチェックを行っている。

己の身分を証明する『冒険者証』または『職人証』を提示する必要があり、レン達も例に漏れず各々のカードを提示した。




「ん? 貴方はこの前のテイマーですね。またご夫婦で観光に?」

「えっ」


「「夫婦っ!?」」


「…そう言えば、そう言う設定だったな」




検問に立つ兵士は、レンが初めてこの王国を訪れた際に対応した人だと言う事に、其処で初めて気づく。

あの時はマオを二人の子どだと早々に勘違いされ、『夫婦』だなんだと言っていた気がする。

しかし、まさか自分でも忘れていた『設定』を覚えられているとは思いもしない。


その事を聞いたディーネとフウマは、酷く驚いた顔をしていた。




「お、お二人はいつの間にそんな中に…!?」

「おっさんって、意外と手が速いんだな…」

「ち、違うっ! あの時も今も、彼が居るからで――」

「君も長旅ご苦労様だね。今日はベッドでゆっくり休むんだよ」

「おうっ!」




笑顔で話しかける兵士に、マオもまた笑顔で頷いた。




「お帰りなさい。どうぞごゆっくり。以前訪れた時よりも、この街はずっと賑やかになっていると思いますよ」


「賑やか?」

「えぇ。近々、国を大々的に上げた大きな式典が挙げられる予定なのです」




ビセクトブルクの街では、兵士が交代で検問や警備に当たっていた。

だが、彼らはピリッとしており、緊張感に包まれているような気がしなくもない。

『冒険者証』の提示一つにしても、ジロジロと顔を見比べられ、本当に記載内容があっているのか、何の為にこの街に来たのかと深く詮索された。


前は確かに、此処まで物々しい雰囲気ではなかったと思う。

この王国には城があり、中には国を統治する王族やそれに連なる要人たちが多く居る。

その為、警備にも力が入っていると思われるのだが、どうにも様子がおかしい気がする――とレンは思っていた。


目の前の兵士の男も、最初こそ警戒と緊張の色を隠せなかったが、レン達の素性を事細かに知ると、少しだけ表情を和らげる一面もあった。




「…とはいえ、まだまだ問題はある様ですが」




そんな兵士の男は困った表情を見せるものの、直ぐにはっとした様に姿勢を正す。




「すみません。全員の確認が取れましたので、お入り頂いて結構ですよ。改めて――ビセクトブルクの街へようこそ」


「さて…漸く街に着いたな。お疲れ様」

「此処まで、本当に遠かったですね」

「次からは絶対に、馬車を使う事にしようね…」




疲れた声でレン達が顔を見合わせる。

そんな中、フウマが言った。




「お前らは宿を取るんだろ?」

「あぁ。お前は?」

「俺は自分の家があるから帰るよ」




ビセクトブルクにも『シーサイドハウス』の様な居住区域があり、その中でフウマは一人暮らしをしていた。




「そうか。一緒に飯でもと思ったんだが…」

「誘いは嬉しいけど遠慮しとくよ。チビ達をもう数日放置してるから、顔も見に行ってやりてぇんだ」


「此処までありがとうございます、フウマさん!」

「本当にありがとう。フウマが居てくれて助かったよ」




レン達が素直に謝辞を述べると、彼は何処か照れ臭そうにして笑う。




「お前らは魔法王国に行くんだったな。道中大変だろうけど頑張れよ」




フウマは手を振り、レン達の前からふっと姿を消す。


言葉の最後に忽然と居なくなったのは、彼が皆との別れを惜しんだから――だと思いたい。




「いい奴だったな」

「えぇ、本当に…」

「ちょっと憎まれ口は多かったけどね」

「レンっ。オレは腹が減ったぞ!」

「では、宿屋へ向かうか」




旅の疲れを癒す為、レン達は宿屋に向かう。





ウォルターが一人一部屋を手配してくれた為、夕食を取った後は、疲れきった身体をゆったりと癒す事が出来た。

レンの部屋にはスライムとマオも一緒に入っており、久しぶりのふかふかのベッドに皆が大喜びしている。




『わーい、わーい!』

「宿屋に泊まるのも久しぶりだなっ」

「家を買ってからはそうだね」




外で食事をする事はあっても、宿屋に泊まる事なんて、こうして旅をしてなければまた経験も出来ないだろう。

ベッドはシングルサイズが二つと、家よりは大分手狭だが、宿に泊まれる事はとても有り難い。


しかし、またマオがベッドから落ちないように、レンは気を付けなければならなかった。

多分、いやきっと、絶対にマオは落ちるだろう。




「…今日は三人で、こっちのベッドを使おうか」

『うんー!』

「おー!」

「じゃあ、先にマオちゃんとスライム、お風呂に入っておいで」

「レンは一緒に入らないのか?」

「お先にどうぞ、魔王様!」




一緒に眠る事は可能でも、お風呂は流石にノーセンキュー。





その夜、レンはスライムとマオを両脇に抱き締め、心地よい眠りに落ちた。


テントと違い、柔らかいベッドが心から有り難く感じる。

レンは長い旅路の中で、思いの他、疲労が溜まっている事を知るのだった。






◇◆◇





翌朝。


レンは目を覚ますと、早速関所に向かう準備を整える。

ウォルター、ディーネと合流し、関所までの道のりは、街で馬車を手配しようと言う流れになった。


昨日の今日だ。

一晩をゆっくりベッドで過ごしたとは言え、流石にまた歩いて移動するのはレンも辛い。

それはディーネも同じで、馬車を使う事にほっと安堵の表情を浮かべた。


そんな二人の様子にウォルターも苦笑する。

どうやら彼もまた、徒歩での移動には願い下げの様だ。




「俺は御者に話をしてみるから、二人はもう少し此処に居てくれ」

「解った」

「レン、アイス!」

「あぁ、そうだった」




昨夜は早々に宿を取り、夕食後は直ぐに眠ってしまった為に、彼がご所望のアイスクリームを買ってあげられる事が出来なかった。

一応、昨夜はデザートにプリンを食していたのだが、やはり冷たいあの味が忘れられないのだろう。




「ちょっと行って買ってくる。いいかな?」

「あぁ、大丈夫だ」

「それならわたしも行きたいです。この街にどんなお店があるのか気になりますから」




ディーネはこのビセクトブルクに訪れるのが、初めてだった。

街はラ・マーレしか知らず、近辺を散策する事はあっても、この街に来たことはないらしい。

幼い頃はずっと祖母であるルーナと一緒に居て、僧侶の修行に励んでいたそうで、殆どその行動範囲は限られている。


そんなディーネと一緒に、レンはほんの少しだけ観光をする事にした。





「アイス! アイス!」

『パチパチ! しゅわわ!』

「マオさんとスライムさん、そんなにアイスが楽しみなんですね?」

「一度食べた味が忘れられないのかも」




石畳の道には人々が行き交い、商店や露店がずらりと並んでいる。

ラ・マーレの街では見かけないようなお店や品物も多く、各店のショーウィンドウには輝く宝飾品や、色鮮やかな織物、香ばしい匂いを漂わせる焼き菓子など、見ているだけで楽しい品々が揃っていた。




「あの店なんだろう? 凄く美味しそうな匂いがする」

「レンさん! 彼方にはパフェがずらっと並んでますよっ!?」

「お、おぉ…これはまたゴージャスな」




レンとディーネは、アイスを買いに行く途中という事をすっかり忘れ、興味津々で立ち止まりながら眺めていた。

ビセクトブルクの特色が色濃い街並みに、すっかり心を奪われてしまっている。




「見て下さい。あのペンダント、すごく綺麗!」

「本当だっ! あ、こっちには香水が売ってるのね」




そんな訳だから、彼方此方に気を取られ、足を止める回数もまた多くなっていた。

その様子を見ていたマオと、その頭に乗るスライムは、何処か困った顔で振り返る。




「まだかー?」




何度も二人を振り返り、待ちくたびれた様子で声を掛ける。

ウォルターと別れてからほんの少しの距離でもう、マオ達はその姿を何度も見ていた。


目的のアイスクリームは、もう目と鼻の先だと言うのに。




「レンもディーネも子供だな?」

『うんー。でも、二人共とっても楽しそう!』




スライムの言う鳥だった。


その姿はどちらが本当の子供なのか解らないほどで、思わずマオは微笑んでいる。

二人とも女子会気分でこの街歩きを楽しんでおり、まるで束の間の休暇のようだった




やがて、漸く目的だったアイス屋に辿り着き、それぞれが好きなフレーバーのアイスを手にする。

レンは爽やかなチョコミント、ディーネは甘いバニラ。

マオは今回、鮮やかなベリーの味を選び、スライムはまたしてもしゅわしゅわのポッピングシャワーを選択。


涼やかな甘さが口いっぱいに広がり、レンは思わず笑顔になった。




「アイスだけじゃなく、クレープやケーキまで…この街は本当に素敵です…!」




特にディーネは、この街のスイーツに関心を示していた。

やはりそこは女の子。

顔も可愛ければ、食べる者もまた可愛らしい。




「ラ・マーレの街にもこんなお店はないの?」

「同じようにスイーツのお店はありますが、こんなにも種類豊富な訳ではないですね!」

「そうなんだ」

「これを知ってしまったら、スイーツを求めてこの街に来るのもありかも知れません…!」




そう言って、美味しそうにアイスを頬張るディーネ。

彼女なら、旅に不慣れ並みであったとしても本当にそうしてしまいそうだ。

気持ちは解る、うん。



楽しいおしゃべりをしながら、レン達は再び交渉をしているウォルターの元へと戻る。


ところが、ウォルターの姿を見つけた時だった。




「あれ? ウォルターさんが居ませんね?」

「本当だ」

『あ! あっちに居るよー?』




スライムの声に其方へ目を向けると、ウォルターは別の御者と真剣な顔で交渉を続けている姿があった。




「馬車の手配に難航しているのでしょうか?」




ディーネが少し不安そうな声で言うと、レン達に気付いたウォルターは振り返る。

彼は、何処か困った様に溜息を吐いていた。




「どうやら、関所まで行く事が出来ても、その先は進む事が出来ないらしい」




ウォルターが御者から聞いた話によると、魔法王国側の関所は厳重に封鎖されており、例え行けたとしても、誰もその門を通過する事が出来ないとの事。

何度か関所を訪れた者たちも戻ってくるばかりで、無駄足に終わっているらしい。

その理由を関所の衛兵に問い合わせても『国の判断だ』と一点張り。

どうやら、それ以上の事は衛兵たちも聞かされていないのだろうと言う見解だった。




「それでは、関所まで行っても同じと言う事ですか?」

「そうなんだ」




ディーネが不安そうに尋ねると、ウォルターは肩を落として答えた。




「別のルートも考えたが、今度はその道を剣の王国が封鎖しているんだ。其処には誰も立っていないから封鎖理由も聞けない」

「そんなの、こっそり入っちゃうとかは…駄目なんだよね?」

「国王が直々に直々に封鎖命令を出してるんだ。見つかりでもしたら即刻打ち首だな」

「何それ怖い」

『ひぇぇ…っ』




スライムがぷるぷると震えた。




「要するに、今は何処にも行けないと言う事だな」

「他に道があれば、とっくに教えてるよ」




悔しそうに説明するウォルターに、傍に居た御者の男は、少し気の毒そうな顔で話してくれた。



結局、馬車を使って関所まで行ったとしても、それは単なる無駄足に過ぎず、戻って来るだけの無駄な旅になる可能性が高い。

そうなると、今此処で馬車を手配しても全く意味がなかった。




「ラ・マーレへの道が通行を解除されたと思ったら、今度は魔法王国側がそうなったんだ。行商人たちの間でも、気軽に行き来が出来なくて困ってるのさ」


「剣の王国が封鎖していると言うところは、いつまで…?」

「『継承式』の日までは封鎖されるって話だぜ」

「継承式?」




御者の男は頷く。




「今、このビセクトブルクは次期国王の座を狙い、二人の皇子が争っているんだ。所謂『王位継承問題』って奴だな。そんなゴタゴタもあって、殆どの人間が『継承式』の準備で忙しい。何せ国を大々的に上げる大きな式典だからな」


「王位継承問題…」

「何だか複雑そうなお話ですね」




その言葉を聞いたレン達は、少し暗い顔になりつつも、御者が続けて話す情報に耳を傾ける。

彼の話では、別ルートが封鎖されているのもその理由。

加えて城門付近での検問も、怪しい人物が潜り込まない為の厳重警備の一つだそうだ。




「街の中は殆どが『王位継承問題』と『継承式』の話で持ち切りさ。そんな訳だから行った所で何の意味もない」


「そうか…貴重な情報をすまないな」

「いいって事よ」




ウォルターは少し肩を落としつつ、懐から金貨数枚を御者に手渡した。

どうやら『情報量』と言う事らしい。




「そう言う訳で、今はどのルートも通る事が出来ないそうだ」

「フィオナさんの言ってた通りだね」

「あぁ。まさかこれほど厳重だとはお思わなかったがな」



関所へ行く事が叶わず、更には別ルートさえも封鎖されている。

その為、これ以上先へ進む手段が尽きた事を、早くもレン達は感じ取っていた。


せっかく長い道のりを此処まで来たと言うのに。




「どうするの? とりあえず別ルートは、継承式が原因で通れないって事は解ったけど…」

「俺達の目的は『魔法王国の関所の封鎖理由を知る』だからな」

「継承式が終わる日まで待ってから、もう一度この街に来ますか?」




腕を組み、ウォルターは顔を顰めた。




「とりあえずフィオナに連絡は入れるが――簡単に街へ戻れるとは思わない方がいいぞ」

「え?」

「どういう事でしょう?」




レンとディーネは顔を見合わせ、不思議そうに首を傾げた。




「あいつは『やれ』と言った事は必ずさせる。そう言う奴だ…」





お読み頂きありがとうございました。

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