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C級大剣使い、魔王に問い質す




「…」

「…」


『あめあめ、ぴっちぴっち、ちゃっぷちゃぷ~』




外で待つとは言ったものの、レンの居ないこのメンバーでは会話もままならない。

だが、このまま雨の中待つと言うのもどうかと思う。

自分はまだいいが、スライムや『彼』が寒さに震えないか、少し心配だった。


そう考えて、自分がナチュラルに『子ども』として心配してる事に、ウォルターは気付く。

見た目や雰囲気が子供だから、本当に調子が狂うな…なんて、彼はそっと息を吐いた。


テントは幾つも貼られていおり『占い』の他にも様々な露店が建ち並んでいる。

路地裏でひっそりと営業する姿は、表立って流せない商品や盗品なんかを扱っている所も少なくはない。

此処もそう言った類の店が集まった場所なのだろう。


そんな事を思い、余り長居はすべきではないなと考えた。

レンが占いを終えたら、早く立ち去るべきだ。




『まおー様、ここにすわろー!』


「おー、座るか―」




スライムの言葉は解らない…が、傍に在るベンチに腰掛けるのを見て、休憩するのかとウォルターは理解した。

あのベンチなら雨避けに屋根が付いているし、レンが出て来る姿もすぐに確認する事が出来る。


ぴょんっと飛び跳ねてベンチに上がり、よじよじと一生懸命に上る魔王の姿。

見ていて手助けをしたくなるが、此処は大人しく見守るべきだろう。


…しかしこれでは、何だか親の目線になった気分だ。




「ふぅ…あんたも座れば?」

「いや、遠慮しておこう」




相手は小さくとも『魔王』なのだ。

警戒するに越した事はない。




「別に襲ったりなんかしねぇよ…」




ぽつりと、何処か残念そうにそう言う姿に、ウォルターはまた顔を顰める。

魔王を一瞥し、彼の子供っぽい姿に戸惑いつつも、警戒の色を隠して――座った。


たったそれだけの事なのだが、魔王は途端にぱぁぁっとその表情を明るみにして笑う。




「…本当に魔王なのか?」




ウォルターは、思わずそんな事を口にしていた。

目の前にいる小さな子どもが、世界を震撼させる魔王だなんて信じがたかった。




「そうだぞ?」




しかし彼は、自身を『魔王』だと名乗っている。

小さな足をぷらぷらさせて、無邪気な顔でスライムを優しく撫でていた。

その姿は、とてもじゃないが危険な存在には思えない。


いや、そう言う『フリ』をしているのかも知れない。


再び警戒するように目を向ければ、魔王は唇を尖らせていた。




「信じてないのか?」


「いや、その姿になった瞬間を俺は目撃しているからな。俺が言っているのは、そうじゃなくて…」




ウォルターは魔王の反応を見て、肩を竦めた。




「センジュを倒した時と、小さくなってからのギャップが、どうにも激しくてな…姿だけじゃなく喋り方もだが」


「あー…」




そう言うと魔王は思い当たる節がある様だった。




「マモンが『魔王様らしく威厳たっぷりに!』なんて言うからな。何か練習もさせられた」

「練習…」




それはまるで『魔王』になりきる為に『演じている』ように聞こえる。

もしかすると、此方の姿の方が本来の姿なのでは?


ウォルターはふと思った。



そして、魔王は続ける。




「でも――真剣な時は、ちゃんと解ってる」




その言葉に、ウォルタ0の眉がピクリと動く。


その『真剣」というのが、センジュを倒した際に見た、あの『魔王』としての振る舞いなのだろうか。





『えへへ~』




スライムは撫でられて嬉しいのか、魔王の身体に擦り寄っていた。

レンにもだが魔王にも、このスライムはとても懐いている様子だった。




「魔王と聞いて、そのスライムは怖がったりしないのか?」


「まおーさまは怖くないよー?」


「…?」

「怖くないってさ!」

「…本当に?」


『本当だよー! 嘘つかないよー!』




ぷぅぅぅっと頬を膨らませて怒るスライムに、ウォルター少しだけぎょっとした。


言葉は解らずとも怒っている。

どうやら本当のようだ。




スライムは魔物だ。

魔物は街を襲い、人間を脅かす危険な存在。

そして魔王は、その魔物を統べる奴らの王だ。


しかし、世間一般的には恐れられている魔物の中には、こうして共に戦う魔物も居る。

『テイマー』と呼ばれる職に就く者がそれであり、ウォルターは噂話として聞き及んでいた。

何せ、本物に出会った事がなかったから。


レンに出会って『テイマー』の力を初めて知った。



魔物と心を通わせ、いとも簡単に『テイム』してしまう。

信じられないと思うが、実際に初めて会った時、彼女は最弱のスライムを連れていた。


そして、その後には最強の魔王をテイムしている――




レン自身もそれには驚いていたが、魔王をテイム出来たこと自体が『イレギュラー』なものだ。

その事を知っているのは自分とディーネ、そしてフィオナだけである。


そして今は、フィオナの命令を受け、レンとこの魔王を監視する立場にある。

レンは良き友人であるが『監視対象』として傍に居る事に、ウォルター自身が葛藤をしていた。


しかし、フィオナは自分の幼馴染であり上司だ。

更に言えば、命令を無視し続ければ機嫌を損ねることは間違いない。

また理不尽な書類整理だの、訓練だの、ありとあらゆる仕事を押し付けてくる。


監視を引き受けはしたものの、未だに二人の間で板挟み状態だった。



せめて、早い内にこの魔王が『危険な存在ではない』事が証明されればいいのだが――



どうしたものか…と、ウォルターは深い息を吐く。




「お前は危険な存在ではないのか?」

「自分が危険な存在じゃないかなんて、どうやって証明するんだ?」

「…難しいな」




まるでこちらの考えを呼んだ様な答えだった。

しかし、彼が言っている事は間違いがない。


自分で自分の証明するなんて、誰だって難しい。




「では教えてくれないか。何故人間を殺す理由がある? 何故世界を貶める? お前達は何を考えてるんだ?」


「質問が長~い」


『なが~い!』




ぶーぶーと講義をする魔王。

スライムも面白がって、ブーブーと口を尖らせた。



そして魔王は、その言葉を一つ一つ拾い上げ、考えるように腕を組んだ。

『うーん』と悩む姿は、此方の質問に真剣に考えてくれていると言う姿勢が窺える。




「人間を殺すのは、人間が俺を殺そうとするからだ」

「何?」

「命を狙われたら、身を護るのは当然の事だろ?」

「正当防衛とでも言いたいのか…っ」




ウォルターは、まるで苦虫を噛み潰したような顔をした。

だが、此処で怒りを見せるのは違うと、息を吐いて少しだけ冷静になる。




「お前は魔王だろう? 魔王が人間に害を成すから、人間はお前を討とうとするんじゃないのか」




魔王はその問いに眉を顰め、少しだけ困った顔をした。




「オレがいつ、お前達人間に害をなしたんだ?」

「…何だって?」


「オレはただ、城でのんびり暮らしていただけだ。オレの知る限り、最初に襲って来たのはお前達ニンゲンの方だ。もしかしたら、魔物達が最初に襲って来たのかも知れない。でもそれはオレの知らない話だ。前の魔王がどうかは知らないし、その前の事だって知らない」


「無責任な事を…」


「無責任? 命を奪おうとしている奴らが悪い。…どっちもな」


「なら、お前がいっその事、全員に『やめろ』と一言でも言えば済む話ではないのか」



「今のオレが言った所で、何の意味もねーよ。向こうじゃ跡目争いが起きてるし、その前からもうあいつらは手のかかる奴らだったしな。それに、少なくともオレの方から人間を襲った事は――…」




と、其処まで言いかけた魔王が、突然言葉を止める。

腕を組んだ姿勢のまま、真剣な顔で何かを考えこんでいるようだった。




「どうした」

「…いや」

「?」


「何でもない…あいつらは力を持っているから、調子に乗って勝手に人間を襲っているだけだ」


「…ならば、俺達は、今まで何のために戦って来たんだ…」




ウォルターはぎゅっと拳を握り締めた。


魔王と言う存在が、ただ暴力的では快適な理由で、人間を襲っている訳ではないと言う事に、戸惑いを感じていた。

魔王が全てを操り、人間の世界を脅かす強大な存在だと信じていた――信じて疑わなかった。


その真実や、ただ調子に乗った魔物が好き勝手やって暴れているだけと。

それを何も知らない人間側からすると、魔王が指示をしてやらせているのだとしか思わないだろう。



ウォルターは一瞬、魔王が実は被害者の様だと感じてしまった。




「勝手に襲って勝手に倒される。その繰り返しだ」




魔王は、少し寂しそうに目を伏せた。




「…俺達が思っていた様な、凶悪な存在とは全然違うじゃないか」




ぽつりと、ウォルターはそんな事を口にした。


『マニュアル』に書かれている『魔王』

悪逆非道を繰り返す、残虐で、残忍で、絶大な魔力を持つ、魔族の王。

強大な力を持つ悪魔や魔物を率いて、人間に害を与えては数多くの冒険者達を葬っている。


それは、世間一般の『魔王』に対するイメージだ。



すると。魔王はすっと目を細めてウォルターを見た。

そしてそれが、彼の『真剣』な表情だと言う事に、彼は気付いた。




「レンにも言った事だが――…オレは、ただ平和に過ごしたいだけだ。だが、人間がオレの命を奪おうとするのなら、オレだって戦うしかない」




その言葉を聞いたウォルターは、ますます混乱した。

魔王とは人類すべての敵であり、世界を滅亡、もしくは手中に収めようとする存在だと思い込んでいた

だが実際、眼の前に居る魔王は、ただ自分を護り、手下の魔物たちの暴走を止められないだけの存在に見えた。




「…お前が本当に魔王だって事は認める」

「だからそう言っているだろう?」

「とりあえず、今の話は聞けば聞くほど、俺の知っていた魔王像とは違い過ぎる」


「それは、俺が『今の魔王』だからだろうな。昔の事はよく解らん」




ウォルターは、魔王に対する見方が徐々に変わって来るのを感じながら、眼を細めた。

人間と魔王の関係、そしてその戦いの真実は、もっと複雑で深いものなのかも知れないと言う重いが、彼の胸の中で渦巻いていた。




「あっ、戻って来たぞ!」




その時、一際明るい笑顔で魔王がぴょんっと椅子を降りる。


其処には、威厳ある『魔王』の姿は、何処にもなかった。




そして――




「…レン?」




ウォルターがその様子が少しおかしいと気付いたのは、直ぐの事だった。






〇月×日 雨


お城を見た!

オレの城よりは小さいな!


ウォルターは面白い奴だ!

オレの話をちゃんと聞いてくれるいい奴だ!






お読み頂きありがとうございました。

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