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BREVE NEW WORLD ―蒼色症候群(ブルーライトシンドローム)―  作者: PRN
Chapter.4 【エニシの異界&ルスラウス大陸 ―The Perfecty WORLD―】

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101話【VS.】大陸最強種族 母なる海龍 スードラ・ニール・ハルクレート 2

挿絵(By みてみん)

人の力

蒼き異能


足らぬ

あと1手


最強種族の


怒りを迎える

 明瞭なる蒼が流れ風を斬った。蒼をまとった足で硬い石畳を蹴りつける。

 それだけで身は人を凌駕する尋常ならざる速さを手にした。


「たーっ!」


 夢矢の手がスードラへと伸ばされる。

 しかしもうあと1歩のところでひらり、と。躱されてしまう。


「くっ!? これでも捉えきれないなんて!?」


 靴底で勢いを鳴らし再度の襲撃の体勢を整えた。

 そこへ別角度からのアプローチが割って入る。


「こっちにだっているんですよーだっ!」


 ヒカリによる背後からの強襲だっった。

 夢矢の攻撃に合わせ時間差で敵の意識外を狙う。

 ゆっくりとそちらへ振り返ったスードラは、軽めにとん、と地を踏む。

 すると小さな挙動からは想像できぬほどの跳躍と華麗な身躱しを披露する。


「うそっ!? 前動作なしであの跳躍力!?」


 もういない相手は捕まえることは出来ない。

 当然のようにヒカリの手は空を切った。前のめりとなった体勢で2歩ほどよろけながらもなんとか体勢を立て直す。

 消えた影はすでに彼女の背後で着地を終える。しかし夢矢も矢継ぎ早に再突撃を敢行していた。


「よし! おかげで距離が詰まって間合いに入れたぞ!」


「このまま押し切りましょう! ふたりならきっといけるはずです!」


 そして再襲撃にはテレノアも参戦している。

 しかも左右からスードラを挟む。完璧な陣形を組んでいた。

 ここからは先ほどまでの猪突猛進な単発ではなく、連撃。2人は両手の間合い内にスードラをおさめながら怒濤のラッシュを仕掛ける。


「はああああああ!」


「ふっ、やっ、たぁっ! ハアァ!」


 猛烈な打撃の乱射だった。

 夢矢の手が繰りだされるたび蒼き閃光がなびく。

 テレノアの動向にも種族的なキレがあってか蒼を帯びた彼に勝るとも劣らない。

 だが、次第に攻めている側である2人の表情に陰りが差しはじめる。


「くっ――なん、で!?」


「当たらない!? これだけやっているのにかすりもしない!?」


 なおも猛烈なラッシュがつづく。

 しかしつまるところ1撃とて獲物を捕らえられていないということに他ならない。

 2人が気を抜いているという可能性は皆無だ。なにせ相手が上位存在であることは痛いほど身に染みている。

 しかしそれでもあと1手が届かない。あまりに相手の挙動が桁違いだった。


「いいねいいねえ。この数でこの早さならさすがの僕もちゃんとしないとね」


 身躱しの技術は流れるかのよう。さながら流水の如し。

 スードラは迫りくる4本の手を迅速に受け、流していく。

 ときに重芯を踵に合わせくるりと回転してみせる。いなし、躱し、反らす。ことごとくそれらの襲撃をやり過ごした。


「つよっ!? ちがうっ!? 遠いんだ!?」


 獅子奮迅の猛襲がことごとく砕かれる。


「これだけ近くにいるはずなのに相手の存在が遠すぎます!?」


 2人の漠然としていた感情が焦りとまって滲みだす。

 そこへ体勢を立て直したヒカリが援軍となって割って入る。


「真打ち再登場! とーーーっ!」


 助走をつけた空中からの強襲だった。

 しかし到達する寸前の猶予に、スードラは再び隙を縫って地を蹴った。

 そのままあっという間に範囲外へと遠ざかっていく。軽やかな着地を決めて全員の手の届かぬ範囲に離れた。


「コレが終わったらいっぱい触らせて上げるよ。でもいまは、だぁめ」


 はじめと変わらぬ小癪な微笑にウィンクのセットだった。

 あれだけの攻めを繰りだされたというのにスードラは微塵も動じていない。

 ヒカリはよろめきを止めて頬に垂れる汗をぐい、と男勝りに拭う。


「わっ、たっ、たっ――……ふぅ。こりゃちょっと考えモンですなぁ~」


 隣の夢矢も若干ほど息を上げながら標的の位置を再補足する。


「フレックスを使っても対等になるとは思ってなかったけど、さすがにしんどいね」


「でもフォーメーション自体は形になってきてるわ。もう数回やればカチッとハマるかも」


「間合いを詰めるところまでは踏みこめました。もっと連携の練度を上げていくことに注力しましょう」


 おう、と。3人の声が重なることで揺れながらも闘志は折れず。

 しかも半刻ほどではじめのころとは比べものにならぬほど敵を追いこめていた。

 この10m×10mのフィールドは、3人の息が合うことでより狭く密になっていく。

 はじめはスードラに手さえ使用させることすら叶わなかった。だが仕切り直しを繰り返したいまとなってはチーム一丸だった。

 ひと通り呼吸を整え終えたテレノアは、たまらずといった感じで、まとう2つの蒼に銀燭の眼を輝かせる。


「おふたりともとってもすごいです! その蒼をまとった途端スピードも反応速度も格段に向上してます! エーテル族の身体能力と同等かそれ以上ですよ!」


 ぱちぱちぱち。しなやかな手を打ちながら上下に揺れる。

 毛先の軽いとスカートが一緒の挙動でふわりと踊った。

 夢矢とヒカリの頬がほんのり朱色を浮かべる。


「あ、あはは。通常状態で僕らの早さに着いてこられる聖女ちゃんのほうがすごいんだけどね」


「能力の発動はけっこう体力と精神を使うからうらやましい限りですなぁ」


 テレノアから屈託のない声援と尊敬を秘めたきらきらと眩い視線が降り注ぐ。

 薄蒼をまとう2人はもじもじと居心地悪そうに頬や頭を掻く。

 身には肌に沿って運動能力を補佐するパラダイムシフトスーツ。さらにはフレックス第1世代ファーストジェネレーションへの相転移(フェイズシフト)まで完了させている。

 体勢はおおよそ万全を整えていた。最強種族の龍を相手に人本来の実力を奮えている。


「……ふぅん。やっぱり使ってくるよね、その力……」


 スードラの滑らかな尾が虚空を泳ぐようにうねった。

 臀部の少し丈夫辺りから生えた尾っぽには滑らかな魚の如き鱗がみっちりと並ぶ。内側にも肉がたっぷり詰まっているためかむっちりと野太い。


蒼力(そうりょく)。またこの大陸にその力が現れるとはね……世はまさに巡る」


 スードラは遠間ではしゃぐ人々を眺めながらぽつりと呟いた。

 その表情からなにかを読むことや察すことはひどく難しい。

 笑っている。おそらく。含みがある。確実に。それなのに気持ちがまったく籠もっていない。

 いっぽうで夢矢、ヒカリ、テレノアの3人は、こんどこそという気合いで足並みを揃えにかかる。


「それじゃあそろそろつづきといこう! いまの僕たちならきっとやれるはずだよ!」


「この勝負で勝ったら美味しいもの食べに行きたいわね。この大陸の食品にも興味がありますなぁ」


「喜んで名店をご案内させていただきますよ! この都はたとえ人間さん相手であっても飽きさせることはありませんから!」


 先陣は夢矢、背後にヒカリがつづき、テレノアが彼女の影のようにピタリと寄り添う。

 三位一体となって攻勢を構成する。龍を1人を相手どるにはやり過ぎかというくらいの気勢に満ちていた。

 獅子奮迅のフォーメンション。対するスードラもややあってから僅かに眉の位置を下げ、口角を整える。


「おっと、これはちょっとがんばらないとだね」


 四方から襲いかかる手をふらり、ふらり、と捌いていく。

 不規則なリズムで襲いくる6本の腕から高速の身のこなしで逃げ回る。

 ときに膝を交差させ転回し、跳ねた。踊り子のようにしなやかな足どりで、受け、躱す。


「…………」


「…………」


 いまのところ決闘の行く末を見守るのは2人だけだった。

 ミナトと、それから龍を抱えとした謎めいたエルフの女性のみ。

 別々の陣営を応援する2人は隣り合って奮闘模様を遠巻きに見物している。


「よくあのセクシャル龍と一緒にいられるな? 本人は仲良しとかいってたけど、実は弱みとか握られてるんじゃないのかい?」


「…………」


 だが視線すら交差することはなかった。

 彼女からは返答すらない。

 ミナトはがっくりうな垂れながら横目でちらりと様子を探る。


「無視かぁ。ハイパー傷ついちゃうなぁ~」 


「…………」


 相手にすらされていなかった。

 そんな彼女は、ここに至るまで名無し、名すら語ろうとしない。

 どころか声すら聞かせてくれないのだ。


「…………っ」


 エルフ族の少女は、見守っていた。

 だいぶん余裕のあるぶかぶかの民族装束から僅かにわかる豊満な膨らみ、その胸部辺りに硬く祈り手を結びつづけている。


「っ……っ!」


 スードラの挙動に合わせ、フード部分の影で微かに潤みを帯びた濡れ若葉色の瞳が揺れた。

 熱のある視線は決闘――というか彼から逸らされることはない。少女は唇を引き結び固唾を呑みながら戦いの行方を追っていった。

 ミナトが少女との接触に四苦八苦していると、不意に音ならざる声が脳裏を横切る。


『やっぱりなんかあの動きかたに違和感があるね。龍の動き、回避動作、あれらは予測というより予知に近しいかな。とっても柔軟でいてフザケた避けかたをしている』


 声の主は、先日とり憑いた幽霊少女のもので間違いなかった。

 どうやらミナトの指示通りに決闘をきっちり観察してくれているらしい。


『あれは間違いなくなにかやってるね。もしかしたらあのままだと延々に勝てないかも』


 いわれて見れば、と。ミナトも助言通り、スードラの挙動に違和感を覚える。

 スードラは行動を起こす前に踏みこみを行っているのだ。まるで夢矢たちの動作を前もって知っているかの如く。身体の開きと足の向き時間よりも先に変更している。

 ミナトは不快感を隠そうともせず眉根を寄せ、喉を唸らせた。


「この世界の魔法ってヤツに未来予知みたいなチート魔法ってあるのか?」


『ないわけではないだろうけど、きっと別だね。世界に影響を与えるレベルの魔法を使用するのならもっと膨大なマナを所有しているはず。なのにあの龍のマナは……』


 ふわり、と。昼の都に似つかわしくない黒い霧状のものが立ちこめていく。

 そして粒子はじょじょに形となって姿を現す。現れた霧は集合するようにして1人の可憐な少女を形作っていく。

 可視化された少女は目を細め『控え目にいって並みだね』言い終えて、猫のように頬を拭った。


「ならもっと別のところに仕掛けがあるってことか。それがわかっただけでも十分な成果だよ」


『お役に立てたのならなにより。もしこれで勝てたらあんころ餅を報酬に貰おうかな』


 お安いご用さ。ミナトは、テキトーに返事を返し、決闘に意識集中した。

 目と目の間、鼻筋と平行に指を立てる。視界の中央に指で線を作る。こうして右脳と左脳どちらもを強制的に回転させる。


――心を読むってことはひょっとしてアイツ……誰かさんと似た特性でももってるのかね?


 真剣な眼差しは瞬きを忘れ、深く深く集中に沈む。

 敵がどのようにこちらの動きを呼んでいるのかをくまなく探る。


「フレックスの第1世代能力だけでワンチャンなんとかなってくれたら上出来だったんだけどな」


『そのためにキミがここで監査役になってるんでしょ。まさか聖女ちゃんのパンツだけを観察してるわけじゃないよね』


 ときおりミナトの真剣な眼差しの向こう側には、ちらちら白い弧が出現することがあった。

 それはテレノアが激しく動いた際に、良く覗く。

 長くしなやかな足の根元にふっくら膨れた豊かな臀部だった。

 当然短尺のスカートでは隠しきれず激しい動作によってめくれ上がりを繰り返す。

 ミナトとて1人前の男。視界にそんなものがあっては集中がそちらに吸われることも多々あって当然だろう。


「あ、あれはもう見えてるというより強制的に視界に入ってくるだけだろ! 別に意識して見てるわけじゃないから! セーフだから!」


『キミ……誤魔化すのびっくりするくらい下手だね。あとなんかごめん』


 そこうしている間も夢矢たちは連携をとってとても良く奮戦している。

 だがそれは決して戦いの風向きがよくなっているというわけではなかった。


「くっ!? この、どうしてあと少しが詰められない!?」


 これで幾度目かわからない。

 夢矢は手が空を切ると、忌々しげに奥歯を噛み締める。

 あとほんの僅か、それも数mmほどの距離が、どうしても詰まらないのだ。

 3人で結託してもスードラはその動きを予測し躱してしまう。幾度繰り返しても、洗練されていっても、仕込まれたかのように届かない。

 そしてここではじめてスードラの刻むリズムが唐突に変化した。


「……へ? わひゃっ!?」


「ちょ、ちょっとぉ!?」


 尻を撫でられた夢矢とヒカリは背を弓なりに反らした。

 たまらず2人は動きを止めてしまう。撫でられた尻を押さえて耳まで真っ赤になっていた。


「こ、攻撃してこないんじゃなかったの!?」


 当たり前だが女性であるヒカリは眉尻をうんと吊り上げた。

 しかしスードラは謝罪するどころか鼻歌交じりに尾を揺らす。


「これは攻撃じゃなくて単なる趣味さ。うん、柔らかい肉の内側は引き締まっていて垂れない良いお尻だね」


「そういうのを精神的攻撃っていうですー!? 私たちの世界ならセクハラで逮捕されてる行為なんですー!?」


 通りすがりざまに白昼堂々のセクハラだった。

 これには頭に湯気だたせたヒカリが口を尖らせながら抗議した。


「だってさ……キミたちの攻撃が単調でつまらないんだもん。もっと楽しませてくれないとあくびがでちゃうよ」


 そう言ってスードラは大口をぽっかり開く。

 伸びをすると白い脇が風に当たり、尾が張り詰める。目の端に涙が浮かぶ。


「このっ、人のお尻触っておきながらなにその言い草!?」


「あのさ、手加減してくれてるっぽいけどそろそろこっちの実力もわかってくれないとさ?」


「……え? 手加減、ってどういうこと?」


 ヒカリどころかミナトでさえなにをいっているのか一瞬耳を疑った。

 こちらが手加減をしている。そんなことあるはずがないのだから。

 夢矢もヒカリも前髪が汗で額に貼りつくくらい良くやっている。テレノアだって女王となるべく手を抜くことなんて考えられない。

 なのに海を冠した龍は首を傾け尾を揺らすのだ。


「だから、いい加減本気になってくれないかな?」


「――ッ!?」


 もっとも彼の近くで相対する夢矢がたじろぐ。

 スードラの浮かべる表情の一部に朱色が灯っている。

 笑顔なれど、そうではない。額の宝玉が煌々とした紅を発す。


「はじめから僕はキミたちに僕を奪えっていってるんだよ?」


「だ、だから僕たちは髪や服を狙って――うっ!?」


 まるで蛇に睨まれた蛙だ。

 夢矢は近づいてくるスードラから逃げるようにして後ずさっる。

 声は震え、先ほどまでの気概はなく、気圧されていしまっていた。


「そうじゃないんだ。僕らがやってるのはそんなままごとみたいなものじゃないのさ。もっとゴアで不快で、でもそんなところに魅力を感じてしまうような悍ましいもの」


 するとスードラはとん、と石畳を蹴って飛翔した。

 つま先を立て空中に佇む。羽ばたきもなにもなくただ虚空で静止する。

 そうやって彼は、3人どころかミナトごと広く見下げた。


「血でも、皮膚でも、腕でも、脚でも、眼球でもいい。それら好きな僕の一部を奪ってご覧って僕はキミたちにいっているんだ」


 風がざわつきひどく寒々しい冷が混ざる。

 背筋まで凍てつくかのようだった。

 それほどまでに人を見下げる彼の視線は酷く冷たかった。


「なのになんだいキミたちときたら。龍を相手に武器さえもたず対等な勝負をしてるつもりでいる。僕は本気で勝負しているというのにキミたちはいつまで経ってもお遊びのまま。てんで熱を入れてくれない」


 話にならない。スードラは笑みを閉ざす。

 青き瞳は、まるで目の前の玩具で遊び飽きたかのよう。路傍の石を眺めるような辛辣さを孕んで人を見下す。

 彼にとって手を抜くことは決闘の条件だった。その身に宿す力は現時点の露出でもすでに人を余裕で上回る。つまり当たり前なのだ。


――ああ、そうか。


 冷然なる視線を見上げることでミナトもようやく、気づく。

 この期に及んでなお見くびっていたのは、こちらのほう。

 相手が命を差しだしているというのに、こちらはなにも賭けていない。どころか龍という存在を見くびってなおハンデをつけていた。


「それとそこのキミさ、戦いに向いてないよ。動きは単調だし小細工も全部月並み。そっちの彼女のほうがよっぽど見こみあるかな」


 真剣ではなかったとスードラは思うだろう。

 否、それは断じて違う。前線で戦っていた3人は間違いなく真剣だった。

 そのなかでも夢矢は率先して先陣を請け負って挑んでいる。

 少女2人に頼らず己の力を誇示しようと誰よりも果敢に立ち向かっていた。


「……っ。ねえ、いいかな?」


 彼は、閉ざしていた口から消え入りそうな声を漏らす。

 華奢な背へ濃密な蒼がまとわりつく。身にまとうフレックスが感情に呼応し色を鮮明とする。

 全力であったがゆえにスードラからの申し出は、より強烈に刺さってしまう。


「僕もう武器を使うけど良いよね。さすがにここまでいわれて返さないのも申し訳ないから」


 ヒカリとテレノアが心配そうに彼の背を見守る。

 そんななかミナトは、かすれかけの声で「……夢矢」彼の名を呼んだ。


「だって――悔しいじゃないか! あそこまで必死にやったのにあんなことまでいわれて! 挙げ句本気をだしてないなんて!」


 か細き怒りだった。震える拳も静かな闘志を意味していた。

 それでいてあふれる寸前である。声には確固たる意思が現れている。

 なんといわれようとも男なのだ。如何に相手が強大な相手であれど、1人の雄として舐められたくない。

 そして己共々友までコケにされて黙っていられるほど、こちらも大人ではないのだ。


「テレノアは魔法を解禁して良いぞ。ヒカリも自分の得意なことだけをやるんだ」


 未だ筋肉痛の鈍痛を覚える肩を回し回し歩みでる。

 ミナトは、怒りに喘ぎかけて震える背をやや強めに、ひっ叩く。


「……ミナトくん?」


「こっからはフォーマンセルの力尽くでいくぞ。まだアイツの全貌(トリック)が見えてこないけど、あるていどなら読めてきた。だからぶっつけ本番で試してやる」


「――っ! う、うんっ!」


 並び立つと夢矢の表情がぱぁと明るくなった。

 しかしすぐさま引き締め直し、上空の敵をキツく睨む。

 高みのスードラがゆっくりと音もなく地上に降りてくる。


「キミのことをずっと待っていたんだよ。この中ではキミが1番僕のことをはっきりと 良 く 見 え て い る みたいだからね」


 それでも余裕綽々と値踏みの眼差しを止めることはなかった。

 人1人如き増えたところで覆るものとさえ思っていない。

 そしてそれは人間の闘志へ火が着くのに十分な舐め腐りかたでもある。


「ふふっ。僕はマンツーマンでも複数相手でもどっちにも寛容さ。でも多数で強引にされるのはどちらかといえば大好きかもっ」


「あんまりオレら人間を舐めすぎるなよな。実際もうお前がどうしてオレたちに接触してきたのかでさえ知ったこっちゃない。負けた後で一生後悔しろ、海龍」


「あはっ! それは……どうかなぁ?」


 いつしか細路地は夕闇の影に呑まれつつあった。

 龍と人との戦い。最強種族と異世界種族の異端な決闘である。

 行く末は、新緑色の眼差しに見つめられながらより熱く彩られていく。



  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆


挿絵(By みてみん)

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