表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
三度目勇者の異世界紀行  作者: 陽山純樹
第二話

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

93/93

一触即発

 俺は目前に存在する光景を、岩の陰から隠れて観察することに。視線の先にあったのは、対峙する二つの存在……人間ではないが、人の姿をしている。その気配は……魔族のものだ。

 片方は銀色の髪を持つ男。見た目としては二十代後半といった感じで、美形な顔つきに威厳なんかも感じられる。そんな男性魔族は対峙する相手を見据え、氷のように冷たい視線を投げている。


 一方の魔族は女性。こちらはショートヘアの赤い髪を持った、どこか活発そうな印象を与える存在。年齢は見た目だけを言えば十代後半くらい……ヘレナとそう変わらないように見えた。

 で、双方とも黒衣ではあるのだが、女性魔族の方はあんまり似合っていない……そういえば魔族は黒衣が多いな、と心の中で呟いたりする。


 そんな両者は、気配からして一触即発の状況……人間が意見を対立して喧嘩するように、魔族だって当然ながら様々な主義主張はあるし、絶対的な君臨者である魔王の下で派閥争いなどもある……これもその一つか、などと思ったがなぜこんな場所で……そもそもこの魔族達は、フリューレ王国内で何をしている?


「――これが最後の警告だ」


 やがて男性魔族が話を始めた。


「おとなしく仕事をすれば、これまでの口答えは帳消しにしてやろう」

「……それはつまり、指示に黙々と従う人形になれって話でしょ?」

「そうだ」


 男性魔族が淡々と答える。一方の女性魔族は……声だけ言えばやや低め。ちょっと少年っぽいなと思ってしまうくらいだ。


「やらなければならないことは多い。お前に命が下ったのも、様々な仕事をする必要があるためだ。お前は今回の作戦について疑問を持っているようだが、そんな存在がいるだけで不和を引き起こす。黙って俺の指示に従え」

「……それは、陛下の指示?」

「その通りだ」


 冷淡な声で男性が応じる。そんな口調に女性魔族は露骨に険しい顔をした。その表情から窺えるのは怒りだろうか。


「お前は陛下の命令に従わないのか?」

「……それは……」

「もう一度言う。これが最後の警告だ。あと数日で準備を済ませる必要がある。さっさと仕事に戻れ」


 ……ふむ、と俺は考える。どうやら男性魔族はフリューレ王国に対し何かをしようと動いているらしい。


「状況は悪くなっている。勇者トキヤなどという、理不尽かつ愚か極まりない存在が再召喚されたことで、計画に狂いが生じ始めた。魔物の対応に苦慮していたフリューレ王国が息を吹き返そうとしている……ここで一度、ある程度大きな傷を与えんなければ、悲願達成がさらに遠のく。わかるな?」


 男性魔族がさらに語る……女性魔族は何も答えず、否定も肯定もしない。


「再度言うが、これは陛下の命令だ。俺達は陛下の指示に従い、全ての準備を進めている。お前一人が反発すればそれだけで、陛下の悲願が遠のくわけだ」

「……本当に?」


 疑問を女性魔族が告げる。すると、


「何を言っている?」

「これは本当に、陛下の命令なの?」


 さらなる疑問に対し、男性魔族は不快感を抱いたのか目を細め、女性魔族をにらむ。


「……どういう意味だ? 陛下の命令に疑問を抱くのか?」

「違う……私は……」


 何かを言おうとする女性魔族。直後、男性魔族は


「――そうか」


 何か考えついた様子を見せ、


「お前の本能が警告しているのか。何も知らないというのに……さすがは天性の才覚だな」

「……え?」

「その力に期待してここまで連れてきたが……違和感を覚えているのであれば、仕方がない」


 その瞬間だった。男性魔族が動く――目にも留まらぬ早さで、女性魔族へ肉薄した。

 その手にはいつの間にか剣が握られており……女性魔族が咄嗟に手を動かす。刹那、男性魔族が放った斬撃に対し光が生まれ、閃光と轟音が生じた。


 俺は物陰に隠れ様子を窺いつつ、状況を考察……そして、どうするか考えた時、光が消える。

 魔族は互いに距離を開けていた。男性魔族の斬撃を、女性魔族はどうやら回避できたらしく、無傷……そんな様子の彼女に対し、男性魔族は不快感を露わにした。


「殺すには惜しい……いっそのこと、魔法で感情や理性を消して利用でもするか?」


 完全に殺気立っている男性魔族……もしこの場に俺が現れたのであれば、矛先がこちらに向くだろうけど……俺は女性魔族を見る。

 彼女は両手を男性魔族へ向けている。先ほどの光を踏まえれば、魔法を用いて戦うのだろう……そして技量も高い。


 才能があるからこそ、それを利用しようと考え男性魔族はこんな所まで彼女を連れてきたというわけだが……ふーむ、これはどうするべきか。

 放置すれば、目前で行われる戦いで決着がついたとしても、いずれフリューレ王国に害をなすだろう。とすれば、ここで倒しておくべき……だが、男性魔族の口ぶりから彼らだけで行動しているとは思えない。どこかに拠点がある。


 それを聞き出したいところだが……男性魔族がさらに攻撃を仕掛けようとする。それを見て俺は、


「そうだな、まずは――」


 どうするか決断。直後、男性魔族が魔力を発しながら動き出した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ