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三度目勇者の異世界紀行  作者: 陽山純樹
第二話

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生き証人

「気になるのか……と、問われればそれは当然。研究者を辞めた、と知った時点でどうしてと俺は考えたからな」


 マヌエラに対し、俺はそう口を開いた。


「最初は人の考えは変わる……そう思っていたが、話を聞く分には豹変している。何かしら理由がある……と考えるのが筋だろう」

「そうだな」

「マヌエラは、身の危険を感じればどんな手で使って生き延びようとする。マヌエラの近況を聞いた時点で、資産家と結婚をすることで命を守ろうとしたなんて可能性も考えたが、少なくとも必要に迫られてという感じではない」


 そう述べた後、俺はマヌエラと視線を合わせた。


「だからまあ、理由があって研究者を辞めたが、少なくともそれは命の危険がある、という話ではない……少なくとも、誰かに喋らない限りは」

「まあ、そういう解釈で良いだろう」

「むしろ、喋れば危ないというのは……研究に関係しているのか? それとも、研究途中で何かを見つけたのか?」


 問いかけるとマヌエラは一度俺から視線をそらした。


「……私の研究成果自体は、国の図書館へ赴けば誰でも閲覧できるレベルのものだ。例えば禁忌の研究などというものをやっていたわけではないし、やれと命じられていたわけでもない」

「つまり、マヌエラ自身の研究が原因というわけではないという話か」

「まあそうだな……言っておくが、これ以上は語るつもりはないぞ」

「ああ、わかっているさ」


 そう返答した後、俺は頭をかきつつ、


「何があったのかは気になるけど……話をしない限り、突然何の前触れもなくこの屋敷から消える、みたいな事態にはならないんだな?」

「ああ、ないと言っておこう」

「それが聞ければ十分だ」


 俺は言うと彼女に背を向けた。


「明日動くことにする……メルとヘレナには明日屋敷へ来るよう伝えておくよ」

「頼む」


 そして俺は屋敷から出た。






 宿へ戻った後、俺はメル達と合流。メルはマヌエラについて調査してくれと依頼した人物と再度聞き取りを行った。その結果を、昼食時に確認する。


「で、情報はあったか?」

「まず、マヌエラが直前まで研究していた内容ですが――」


 俺と、ヘレナはメルの説明を聞き入ることに……ただ、研究内容の詳細については、正直俺も詳しいことはわからなかった。


「……と、いったのが概略なのですが……トキヤ、わかっていないという顔をしていますね」

「依頼主が語った内容を俺に伝えてくれているんだろうけど……専門用語が多くて……」


 俺は横にいるヘレナに目を向ける。


「そっちはどうだ?」

「おおよそ理解できた」


 え、本当? 疑わしい目を向けるとヘレナはこちらを見返し、


「これでも勉強はそれなりにやっていたからね。魔法理論とかは頭に入ってる」

「……なるほど、頭の良さは大差でヘレナの勝ちか」

「最強に至るのにそう必要な話でもないでしょ」

「いやいや、魔法や魔力に関して理論がわかっているだけでも相当大きいぞ。自分が何をすべきなのか課題が明確になったりするからな」

「だとしても、魔力制御がうまくいっていないし」


 ……もしかすると、彼女にとっての勉強は魔力制御などを解消するための手段なのかもしれない。


「まあまあ、これから役に立つかもしれないから」

「そうだといいけど……で、内容からすると、そう変なものでもないんじゃない? タイプで言うと、魔法理論なんかの基礎研究っぽいけど」

「そうですね。話を聞く分には、正直研究で何かがあって辞めた、という風には思えませんが」

「なら、他に何かやっていることはあったか?」


 俺はメルに問い掛ける。


「彼女は研究者として働いていた時、色々と仕事が回ってくると愚痴をこぼしていたらしいし」

「それについても聞きました。簡単に言うと、辞める直前まで歴史の編纂みたいなことをしていたようです」

「歴史の編纂?」


 聞き返した俺に対し、メルは小さく頷いた。


「はい、後世に戦争に関することを伝えるために、フリューレ王国は戦争について記録するべきだと判断しました」

「それは当然の話だな。でもその中でマヌエラが仕事を?」

「歴史の編纂はもちろん多数の人々が関わっていました。その中でマヌエラは前線に立って生き残った人物……つまり戦争の生き証人という立場で、戦争について記せと指示を受けていたと」

「なるほど、現場の声だって必要だもんな」

「マヌエラが研究者として持っていた客観的な視点などを考慮し、歴史編纂に加わったようです」

「……マヌエラからしたら退屈極まりない仕事だろうな。まあだからといって、それが嫌で研究者を辞めたというわけじゃないだろ?」

「というより、辞める寸前に仕事は終わらせていました」

「ならそれは原因じゃなさそうだな……」


 そう言いつつ、俺の脳裏にはある考えが浮かんでいた。


「むしろ、その仕事を終わらせたから辞めた……という可能性だってあるかもしれないぞ。だって国から指示を受けた仕事はこなしたんだろ?」

「確かに、国からの仕事がなくなったから辞めた、というのは一応筋が通っていますけど」


 メルとしては首を傾げる話、という思いらしい。まあそうだよな、と俺は考えつつ、メルとヘレナへ向け一つ提案をした。


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