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三度目勇者の異世界紀行  作者: 陽山純樹
第二話

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勇者の決断

「まず、メルの依頼主についてだ……マヌエラに対し執着し、なおかつ彼女と親交のある人間が町にやってきたことで、情報が得られると期待して話を持ちかけたんだろう。もしかすると、勇者トキヤの力なら……とか、考えているかもしれない」

「でしょうね」


 メルは同意する。その表情はどこか困った様子を見せていた。


「依頼を持ちかけられて、私はトキヤに相談すると言ったわけですが、この好機を逃してなるものか……みたいな気配もありましたし」

「……ここで俺達が個人的な話だから、と断れば何をしでかすかわからない……って感じかな?」

「否定はしません」

「まあわかったよ……下手に依頼主がこれ以上動けば、マヌエラに実害が出るかもしれない。彼女はもう研究者ではなく資産家の妻だ。社交界にも顔を出しているだろうし、彼女に対し何か調べている……みたいな人間がいることで、影響が出る可能性はある」

「かもしれません」

「メル、ひとまず依頼は受けると返事をしてくれ。で、俺達が調べるから動かないでくれと頼めるか?」

「それは問題なくできるかと」

「わかった……それと、その依頼主が今まで調べた情報について、確認をとってほしい。その情報と、俺が持っている情報を照らし合わせつつ……マヌエラに害がないように対処をする」

「調べるの?」


 ヘレナが問う。メルもそれに少しばかり反応し、俺の出方を窺っている様子。


「うーん、そうだな……まずはマヌエラにそれとなく探りを入れて、話した方がいいのか判断するよ」

「依頼について?」

「そうだ。マヌエラの性格上、誰かが調べていると語ってもそう不快には思わないだろう……というか、理知的な彼女は、十中八九知り合いが気になっているだろう、ということは理解しているはずだし、多少なりとも調べるだろうということも推測はしているはず」


 俺はそう言うと肩をすくめた。


「どういう経緯であれ、突如熱中していた研究を止めたなんて、おかしいことは客観的に見ればすぐ理解できるからな。で、俺としては一応確認したいこともあるから調べる。といっても、彼女が研究者を辞めるまで何をしているかを簡単に調べるくらいかな」

「表層レベルってこと?」

「そんなところ……マヌエラに探りを入れる間に調べないでほしい、みたいなことを聞けば即座に引き下がるよ。その場合は、依頼があったことを話してそれらしい理由を作ってもらうことになるかな」

「こういう仕事が回ってきたから、対策を立てた方がいい、みたいなことを助言する?」

「そうだな……それで確認したいことについてだけど……もし俺が思っている経緯で彼女が研究者を辞めていたとすれば、まあそういう決断も仕方がない……のかな、と思ったりもする」

「一体何を……?」


 ヘレナは眉をひそめる。マヌエラについてよりも、俺の話に興味を持った様子。

 勇者として魔王と戦い、何か魔王について知っているのでは……と、勘ぐるのも変ではない。実際、俺は戦争の裏側について知っているわけだし。


「これについては話せない……まあ、国家機密の類いだと思ってくれ」

「どうしてトキヤさんは知ってるの?」

「十年前の戦争で国と関わりがあったからな……国王とも交流があった。そうした経験から、色々と見聞きしたって話だ。あ、もちろん喋るつもりはないぞ。口を固くしておかないと、色々と面倒なことになるからな」

「……戦いの中で、偶然知ったとかそういう話?」

「そんなところ」


 ――ちなみにこの会話の間に、メルの方も眉をひそめた。彼女の態度は「え、そんなの知りませんが」みたいな感じである。

 戦争の真実は仲間にも伝えていないからなあ……こればっかりは話せないしどうしようもない。


「とりあえず、方針はこんなところでいいか? まとめると、俺はマヌエラに探りを入れる。現在彼女は薬を作るため資材を集めているが、中には金で買えない物もある。それを手に入れる約束をしたし、話せる機会は多いだろうから、そうした際に探りを入れて、調べるか引き下がるか判断する」

「わかりました」


 メルは賛同。ヘレナも「いいよ」と応じ、話し合いはひとまず終了した。


「トキヤ、ちなみにですけど」


 やがて料理が運ばれてくるタイミングで、メルが俺に話を向ける。


「先ほど語っていた国家機密というのは……」

「んー、悪いけど詳細も話せないかなあ。俺としてはただ、国家機密としか言えない」

「露見した場合、どうなりますか?」

「それも話せない」

「……仲間の誰かに話とかしました?」

「いや、まったく」


 その言葉でメルは「なるほど」と呟き、


「その頑なな返答は、マヌエラが知人に詳細を話さないのに似ていますね」

「あくまで現段階の推測だからな。俺の考えとは違う可能性もある……というかその方が高い。俺が調べるのは……まあ、念のための確認、くらいのものと思ってもらえればいいし、この話をすることで何かが変わるわけでもない」


 そう述べると俺は食べ始める。メルはこちらの様子を見て、それ以上尋ねることなかった。


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