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三度目勇者の異世界紀行  作者: 陽山純樹
第二話

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彼女の今

 屋敷に入ると、廊下に入ってすぐの客室に通された。六人掛けのテーブルが置かれた一室で、俺達三人はマヌエラと向かい合うようにして座る。


「私としてはここを訪ねた経緯が気になるが、先に私の身の上話をした方がいいだろう」


 そう述べると、マヌエラは俺達へ語り始めた。


「といっても、さして語るようなことはない。私はある日を境に研究を止め、実家にでも帰ろうかと思った。しかし、この屋敷主人に招かれ、あれよあれよという間に結婚して子供も生まれた……年齢的にこんな未来など想像すらしていなかったが、まあ幸せに暮らしているさ」

「子供は今どうしているんだ?」

「レメイト内の学校に通っている。夕刻前に使用人が迎えに行く……普通の家庭とは異なり、子供につきっきりというわけではないが……まあ、私としてはこの方が性に合っているのかもしれん」


 そう述べるマヌエラは……確かに、今の生活が満ち足りているものなのだと想像できるような態度だった。

 研究者を辞めた理由はわからないし、後悔などがあったのかも不明で未練だってあるかもしれないが……今が幸せであるのは間違いなさそうだ。


 俺は研究者を辞めた経緯について尋ねようかと思ったが……なんとなく再開してすぐ、という雰囲気ではないかと思ったので、ひとまず別の話題を口にする。


「今は資産家夫人として社交界とかに入っているのか?」

「まあそうだな……トキヤは意外に思うかもしれないが、そこそこ人気があるぞ。十年前の戦争において、最前線にいた魔法使い……それだけで、話のネタは尽きない」

「まさか戦争の経験がそういうところで役に立つとはな……」

「主人も私に接触したのは興味本位だったらしいし……ま、あの経験がこういう人生を生むのだから、面白い」


 そう述べた後、マヌエラは俺達を一瞥。


「それで、ここに来た理由は? まさか近況を訪ねにレメイトを……私に会いに来たわけではないだろう?」


 そう言うと彼女はヘレナに目を向ける。


「彼女は神族だな……魔王復活に際し動いているようだが」

「マヌエラも気づくか」

「あの戦争で揉まれたからな……トキヤが希望の剣を持っている以上、私の能力を頼ってきたのだろう? 研究者は辞めたが、やれることであれば手を貸そう」

「……そうマヌエラが言うのなら。とはいえ、そうだな……まずは事情説明からだな」


 ――俺は、召喚された経緯からこれまでの旅路について説明する。マヌエラはそれに対し口を挟むことなく聞き続け、


「……そういうわけで、ヘレナが全力戦闘できる手はずを整えるために、マヌエラが飲んでいた薬を思い出したんだ」

「なるほどな……ふむ、事情は理解した。こんな生活を送っているが、研究したことは忘れていない。ヘレナの魔力を分析できれば、薬を作成することはできる……と、言いたいところだが」


 マヌエラは腕を組み俺達へ語る。


「相手が人間ではなく神族だから、効果があるのかは未知数だ。ここは検証しなければわからない……が、問題は材料もないしヘレナを分析できる資材があるわけでもない」

「どうすればいい?」

「私は資産家夫人ではあるが、さすがに金は動かせないからな。本格的にやるとなったら結構な設備が必要だが……」

「手はあると思いますよ」


 と、ここでメルが口を開いた。


「マヌエラ、トキヤの名声などを利用すれば、レメイト内で薬を作成できる場所を借り受けることはできるのでは?」

「魔王復活の調査であるなら、確かに手を貸そうという研究機関があってもおかしくないが……」

「あるいは、首都の方に連絡をつけてもらい、レメイトを動かすか」


 俺が言うと、マヌエラは突然苦笑し始める。


「話が壮大になってきたな……」

「実際、そのくらいやらないと薬は作れないんだろ?」

「……ふむ、まずは主人に相談してみるか」

「何か見返りを求められたら、俺にできることはやるよ」


 と、こちらが言うとマヌエラは少し驚いた様子を見せた。


「いいのか? そんなことを言ってしまって」

「社交界に出てくれ、はさすがに全力で断るけど……まあ、俺の口からしか語れない魔王討伐エピソード、くらいなら話せるよ。後は、魔物討伐とか……そんな仕事があるのかどうかわからないけど」

「……いや、もしかしたらあるかもしれん」


 マヌエラが言うと、俺は彼女と目を合わせる。


「ん? 何かあるのか?」

「レメイト周辺に、度々魔物が発生している。ここは騎士団もいるから追い払えてはいるのだが、出現頻度がどんどん上がってきている……ということで、主人もレメイトの名士ということでどうしようかと色々対策会議に参加している」

「ならそれを解決できれば……」

「報酬にはなるな……ふむ、とはいえやはり一度主人と話をしてみよう。トキヤ、いいか?」

「ああ」


 俺は返事をしてからメルとヘレナを確認。メルは小さく頷き、一方でヘレナはちょっと申し訳なさそうだった。

 自分のことで、話が大きくなっているからだろう……俺はヘレナに「気にするな」と一言添えた後、


「マヌエラ、ひとまず交渉次第でどうするか考える……で、いいか?」

「ああ、任せておけ」


 マヌエラは自信を伴い答える……その表情もまた、十年前と何ら変わりのないものだった。


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