神族への問いかけ
「……この世界で旅した経験から言うと」
俺はパチパチというたき火の音を耳にしつつ、口を開く。
「神族が魔族と手を組む事例はゼロじゃなかった……まあ、人間なんかと比べれば数は少ない種族だけど、それでも国を成すほどにはいる以上、異端の考えを持つ存在とか、反骨心とか跳ねっ返りがいてもおかしくはない」
「ただしそれは、魔王が存命だった時の話だろ」
俺の言葉に対しザナオンが話し始めた。
「魔王が復活した……という話ではあるが、今回の神族が活動していたのは復活の噂が広まる前からだろう。いくらなんでも魔王がいない時に魔族と手を組もうなんて、リスクが大きすぎると思うが」
「だからこそ、と考えることもできる」
彼の意見に俺はそう反論した。
「魔王が他種族と交流することをどう考えていたのかは不明だが、魔王が滅び魔族が個々にやりたい放題やっているとしたら……」
「自分の勢力を高めるために、色々な種族を引き入れる……というわけか」
「あくまで仮定の話だけど」
「あり得ない話じゃないというのが、今の情勢の複雑さを物語っているよな……」
ザナオンは頭をかく。
「俺達はどうすべきかな?」
「神族のことを、か? 当の神族は滅んでしまった以上、フリューレ王国へ報告し、終わりだろう」
「いやいや、そうじゃない。神族が敵に回っている……という事実を目の当たりにして、俺達はどう動くべきなのかって話だ」
彼の言葉に俺は沈黙する……より具体的に言えば、ヘレナのこともあるから関わるべきなのか悩んでいるのか。
「トキヤの言う通り、今回の討伐でいた神族については報告して、それを国が神族側に通達するだろう……が、それで納得いかない存在がここにいるだろ」
俺達はヘレナに視線を集中する。果たして彼女はどう考えているのか。
「ヘレナ、今の率直な考えを聞かせてくれよ」
「……私は」
声と共に森を眺める。一方で俺達は彼女が話し出すまで沈黙を守り――
「……ねえ、他にも神族が魔族と手を組んでいる可能性は、あると思う?」
「そこについては、正直今の情報ではわからない」
問い掛けに俺が応じる。
「さっきも言ったが、異端の存在として他種族と手を組む存在はいるだろう……ただ、気になったのは交戦前に語っていたこと。大いなる目的のためとか言っていたが、もしそれが真実であれば……複数の神族が魔族と手を組み、何か裏でやっているなんて可能性も否定はできない」
「今の段階では、あくまで可能性よね?」
「そうだな。正直、解明するのは難しいと思う。そもそも戦った神族がこっちを惑わすために嘘をついただけかもしれないし……ただ」
と、俺は口添えするように語る。
「魔族について調べていけば、確証を得られる可能性はあると思う……俺達は魔王に関して調査をしているが、今回みたいな動きについても気になっている。メルの故郷であるオルミアでも魔族と手を組むエルフがいた。今回の事件と関連があるとすれば……」
「荒唐無稽ではあるが、それもまたあり得ない話じゃないな」
ザナオンが続く。そこで次に声を発したのはメル。
「現時点では断片的な情報しか得られていないため、結論は出せません。ただ、私とトキヤの旅によって、何かが見えてくる可能性はあります」
「……今回の事件が魔族の主導で動いているのであれば、魔王のことを調べる俺達はいずれ、騒動に深く関わることになるかもしれないな」
「もう関わっているんじゃないか?」
と、ザナオンが横やりを入れた。
「オルミアに続いて神族も倒した。もし巨大な陰謀が渦巻いているとしたら、トキヤは徹底的にマークされるだろ」
「それは間違いないな……ま、とにかく調査は続行だ。でも、今回フリューレ王国に手を貸したんだ。報酬をもらいつつ、情報も得たいな」
「今回の討伐で恩を売ったから、国に情報を求めると」
「そうだ……ザナオン達はどうするんだ?」
「俺は当面、この近辺に存在する魔物討伐に尽力するだろう。ツォンデルの魔物討伐はできたが、完璧ではないし周辺にはまだまだ魔物がいる」
「平和になるまで、戦い続けると」
「そういうことだ……で、ヘレナ。そっちはどうする?」
「どうする、って……」
「俺はヘレナの師匠だが、当面剣を指導しつつ魔物を討伐する……それはつまり、魔族や神族については調べず、フリューレ王国と手を組んで人のために戦うという話だ」
その言葉に、ヘレナはザナオンを見返しながら話を聞く。
「ルシールならおそらく、神族のことは自分達で調査するから修行に専念しろ、と言うだろう。だが、今の顔つきからして調べたいという欲求もあるだろう。そこは、自分で決めればいい。俺は修行のためにここに居続けろと言うつもりはないし、後はヘレナがどうしたいのか、だ」
――ヘレナも、ザナオンが何を言いたいかわかっている様子。であれば、後は彼女の決断に任せる。
そして、時間としては一分ほど。誰もがヘレナの言葉を待つ中……やがて、彼女は話し始めた。




