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三度目勇者の異世界紀行  作者: 陽山純樹
第一話

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首謀者

 森を抜けた先にあったのは、何もないむき出しの地面が見える空間。そこに、これまでと比べても大きな魔石の塊が存在していた。

 魔物は周囲にいるが、首謀者の姿は……魔法使い二人が魔石を破壊しようと魔力を高める中、俺もまた魔石を注視する。


 その時、


「……途中までは、良かったはずなんだがな」


 男の声がした。それに対し魔法使い達は同時に魔石へと魔法を――放った。

 刹那、轟音が響き魔石が砕ける……これで魔物の発生がゼロになるかどうかはわからないが、そのペースは大きく落ちるだろう。


 よって、後は……魔石を破壊したことで土煙が上がり……俺はその中に気配を捉える。


「さっき声を発した人物がいるな」

「魔石の裏側にいたってことか」


 ザナオンが剣を構える。俺はなおも包囲する魔物に注意しつつ、視線をたちこめる土煙へ向ける。

 そして、奥から姿を現したのは――


「見覚えのある人間が複数いるな。貴様は、勇者トキヤか」


 そう発言するのは、黒衣をまとう金髪の男性。抜き身の剣を握り警戒する様子を見せつつ、服装からは魔族のように見えるのだが……この場にいる俺達は全員、何者なのかを察した。

 それは……ヘレナが神族であることを気付ける面々しかいないためであり――


「……嘘」


 ヘレナが、小さく呟いた。


「どうして……あなたは……」

「知り合いか?」


 俺が問い掛けるとヘレナは首を左右に振る。


「見たこともない……けど……」

「俺は見たことがあるな。確か、ルシールの弟子だったか?」


 ――目の前にいる存在は、魔族の力を持ってはいる。しかしその本質は、神族であることだ。


 周囲の魔力は魔物によって澱んでおり、数時間程度なら問題はないが、魔物に襲われなくてもここにいればいずれ体に侵食してくる……それは神族も同じであるはずで、魔力量が多くとも影響は避けられない……むしろ多量に魔力を抱えているが故に、影響が大きい場合もある。


 だが、目の前の神族は涼しい顔……これは魔族の力を有しているためだ。その力によって、澱んだ魔力の中でも生存できる。


「……まさか神族がいるとは思わなかったが」


 俺は先の事件――オルミアで起こったことを思い返し、


「あるいは、魔族に加担する存在が、そこかしこにいるという話か?」


 神族は何も答えなかった……人間に加え神族すらいるというのに、逃げる素振りも怯んだ様子も見せない。

 隙を見せないために動揺を隠している可能性もあるが……にらみ合い、いつ何時戦いが起きてもおかしくない状況。そうした中で動き出したのは、


「どうして、こんなことをしているの?」


 ヘレナだった。同族として疑問を抱くのは当然の話だ。


「なぜ、魔族の力を……」

「理由を尋ねて答えると思っているのか?」


 そう問い返した神族に対しヘレナは押し黙る。だが、


「しかし、一つだけ答えてやろうか……大いなる目的のためだ」

「つまり、魔族の手によって操られているなどというわけではない、と」


 俺が言う。神族はこちらに対し小さな笑みを浮かべる――何かを含む、怪しい表情だ。


「どうだかな。既に浸食されていて、傀儡となっているのかもしれんぞ?」

「……ヘレナ、尋ねたい気持ちはわかるが何も意味はない。どんな質問をしても、こちらを惑わせるような言葉しか吐かないさ」


 言うと俺は剣を構える……臨戦態勢に入った直後、相手もまた魔力を高めた。

 しかもそれは、神族と魔族という二つの力が融合したものであり……俺は目の前の敵が、ここで迎え撃つために準備をしていたのだろうと悟った。


 その証拠に周囲にいる魔物達が包囲を始める。それは最初からここへ誘い込むつもりだったかのような布陣を整えており――


「……ザナオン、どうする?」


 俺が問い掛けるとザナオンは笑う。


「そんなもの、選択肢は一つしかないだろう?」


 逆に問い返されて、俺は笑った……確かに、取れる選択はあるが、どれが最適なのかは考える必要もない。

 よって俺達は魔力を高める。そんな様子を見て神族は笑みを浮かべ、


「最終決戦というわけだな……さて、勇者トキヤはどれほどの力を有しているのか、見せてもらおうか」

「……俺を前にしても恐れを知らないというのは、よほど自信があるのか?」


 俺はふとそんなことを問い掛けた。


「十年前の戦争において、俺は魔族から魔族殺しだの、魔を破壊する者だの物騒な異名がつけられていたが」

「魔族が貴様を相手にするならそうかもしれないな……だが今の私は、魔と神の力を融合した存在」

「力を得たから増長しているって話か。例え神族であっても、魔族の力を得ると気が大きくなるのは同じみたいだな」

「確かめてみるか? 私の実力を」


 剣の切っ先が俺へ向けられる。それに対し横にいるヘレナが前傾姿勢となり今にも突撃を仕掛けそうな雰囲気を見せる。


「ヘレナ、気持ちはわかるが落ち着け」

「……ええ、大丈夫」


 神族をにらみながら応じるヘレナ。そんな様子を見て俺はザナオンへ一瞬視線を向ける。

 彼はその意図を理解したのか小さく頷く……どうするかは決定した。


 では、動くとしよう……決断と共に俺は、神族へ対抗するように剣の切っ先を向けた。


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