魔石破壊
「ザナオン! 確認だ!」
再び森の中を疾駆し魔物を倒す中、俺は後方にいるザナオンへ呼び掛けた。
「さっき魔石を破壊したが……結果、魔力が減った以上俺達は魔物の発生源の一つを潰したと思う」
「ああ、俺も同意見だ」
「森へ入っている理由は調査だが……今後も破壊できそうなら実行に移すのか?」
「調査からは逸脱するが、できそうならさっさとやった方がいいだろう」
ザナオンはそう答えつつ、自身の見解をさらに述べる。
「メルが調査した怪しい場所は全部で五つ……さっき破壊したため残り四つか」
「他の場所も破壊できれば、一気に魔物討伐が楽になるな」
「まあその内の一つにはおそらく、首謀者のような存在がいるんだろうが……例えば魔族と出会ったら、即座に退却だ。そうした敵と可能な限り遭遇しないよう祈りつつ、可能な限り魔族の発生源を破壊していこうじゃないか――」
二ヶ所目は森の中にぽっかりと木々がなくなった小さな空間。そこに場違いな形で無造作に置かれていた魔石に、魔法使いの光弾が突き刺さり破壊に成功。押し寄せる魔物をすり抜けるように三ヶ所目を目指す。
その次は一際大きい大木の根元。魔法で魔石を破壊した直後、魔石の力によって生み出されていた魔物が一斉に襲い掛かってきたが、俺達はそれに対処しつつ逃げることに成功した。
そして四ヶ所目の森中にあった魔石を潰し……非常に順調かつ、残る一ヶ所、森の中に存在する岩場のみとなった。
「ずいぶんとスムーズに事が進んだな」
俺は迫る魔物を蹴散らしながら語る。調査に入る前から状況は一変し、魔物の発生源と思しき場所すら潰せたことを考えると、討伐を果たすことだって不可能ではなくなった。
「……これは俺の推測だが」
と、ザナオンはふいに語り始める。
「魔物の発生場所を魔石が置いてあったことを踏まえると、十中八九何者かがツォンデルで魔物を生み出していたんだろう」
俺は頷く――特徴的なのは魔物の種類がバラバラであること。もし魔族が生み出していたのであれば、画一的な種類の魔物か、姿形は違ってもその魔力については同質であるのが普通だ。
けれどここにいる魔物は魔力も姿形もバラバラ……よって、魔石を利用して自然発生するよう仕向けていた存在がいる、というわけだ。
「それを踏まえると、森から魔物をあまり出さなかったのは、魔石を破壊されたくなかった、と考えることができる」
「どういうこと?」
疑問はヘレナから。それに対しザナオンは、
「あくまで俺の推測だが……敵の動きはおそらくこうだ。まず、人間の討伐隊が来たため、それを迎撃するべく魔物を発した。しかし思った以上に手強い……どころか、ツォンデルにいる魔物の強さではどうやら厳しい」
そう語るザナオン……この間にも魔物を倒しつつ五ヶ所目の魔石があると思しき場所へ向かい続けている。
「しかし森へ踏み込むことはしない……よって、魔物を外に出さないよう指示を出して、籠城のような状況に持ち込んだ。討伐隊はそれで動かなくなり、どうしようかと考え始めた。敵としては膠着状態が続けば有利になると考えたことだろう」
「魔物は生成され続けるからな」
俺の言葉にザナオンは「そうだ」と答え、
「しかし調査に入った……それを速やかに撃滅すれば均衡を維持できるため早速攻撃したが、森の中にいる魔物では対処できないほど強く、対応に困っている……魔物の動きからわかるが、敵はどうやら指揮慣れしていないな」
「……ああ、それは俺も思った」
――森に入ってからの戦闘は、俺達を囲みながら攻撃を仕掛けてくるという戦術が主体だったのだが、そのやり方は非常に単調であり、包囲されても楽々突破できるくらいのものであった。
ここから考えると、魔物を率いて戦うというのを慣れていない……という風に解釈ができる。
「俺達の対応については後手に回り、魔石を破壊されている有様……俺達は五ヶ所目に今から到着するわけだが、その場所に魔物を率いる存在がいるのであれば、この討伐作戦の中で一番の激闘になるかもしれないな」
「そのまま戦うのか?」
「状況に応じて判断しよう」
不安はあるが……魔法使い二人もヘレナもここで退却する気はない様子。
うん、俺としてもこのまま引き下がるつもりはない……首謀者がどういった存在か、という疑問を知る絶好の好機でもあるため、今はただ前を進む。
「さて、そろそろ辿り着くぞ」
ザナオンが言う。彼の言う通り、進む先に開けた場所がある。そして木々の隙間から、魔石らしき物が見えていた。
まだ俺達の視点では首謀者らしき存在はいない……あるいは、状況を察して逃げたか。そうであった場合は、首謀者の姿を捉えられなくて残念だが魔石を破壊して討伐を行う……それで作戦は終了だ。
もし逃げたのであれば、おそらくメルが観測するはず。その情報を基に追い掛けてもいい……そこまで考えた時、俺達はとうとう魔石のある場所に到達した。




