森の中へ
「現状の戦力では、森に入り込んで魔物を討伐、というのはかなり厳しいと考えている。かといってフリューレ王国の精鋭部隊なんてものを呼ぶのも難しい」
「現在の戦力でなんとかするしかないと……具体的には?」
「魔物が誘い込んでも来ない以上、本能ではなく指令で動いている可能性が高い。メルも怪しい場所はいくらか候補に上げた。よって、そうした場所を確認して森の状況を精査したい」
「それに合わせて討伐計画を決める……と。魔物の討伐はまだ半ばである以上、調査については短時間で行う必要があるな」
俺はそう返答した後、
「その役目を俺が担うか?」
「……人選については討伐隊の人員を把握している俺の役目だが、最有力の候補であるのは確かだ」
「俺にはまだ余力がある。今なら森に踏み込んで様子を窺うくらいなら、なんとかなるだろう」
「……すまんな、結局トキヤの力に頼ることになる」
「構わないよ。とはいえ、不測の事態などが起きる可能性もあるし、少し話し合うか」
「森の中は危険だからな」
「それもあるが、俺が踏み込んだタイミングで魔物が攻勢に出るかもしれないだろ。森の周辺で異変が起きた時、俺がすぐに知ることができる手段は確保しておきたい」
こちらの言葉にバルドは少し驚いた様子を見せ、
「そっちの意味か?」
「これは俺のためでもあるんだよ。森の中に調査へ入って、戻ってきた時には前線が壊滅していました、では俺も危ないし寝覚めも悪い」
「ははは、確かにそうだな……よし、一度ザナオンなどとも連絡をとり、急いで人選を進めよう――」
バルドが行おうとする調査の人選については、比較的すんなりと決まった。その間も森から散発的に魔物は出ていたのだが、最初の勢いはなく、討伐をさらに進めるのであれば人間側がアクションする必要がある状況であった。
最終的に、森の中へ踏み込むのは五人と決まり、バルドがいる陣地へと集結。俺とヘレナはその中に加わり、バルドから説明を受けることに。
「森の地図に、怪しい場所を記しておいた」
バルドは地図を掲げながら言うと、それを俺の横にいるザナオンへと手渡した。
「この調査のリーダーはザナオンに担ってもらう」
「俺で良いのか? トキヤの方が良いような気もするんだが」
「隊を率いる経験だけを言えば、ザナオンの方が上だ。それにトキヤには下手なことを考えるより手を動かしてもらいたい」
「とことんこき使う気だな」
俺の言葉に周囲にいる者達から笑いが漏れる。
「まあそれでいいよ……ここで踏ん張らないといけないのは、俺も理解できるからな。現状、魔物を全て滅ぼすには情報を含め足らないものが多すぎる……誰かがやらないといけないのなら、貢献するさ」
「……悪いな」
バルドはそう告げた後、気を取り直し話し始める。
「メンバーは五人。急遽集まってもらったわけだが、まあなんとかなるだろう人員を集めた。喧嘩せずに任務を遂行してくれ」
――集ったのは俺とヘレナとザナオン。そして残る二人は別所からやってきた男性魔法使い。年齢は三十手前くらいのベテランで、ザナオンによると十年前の戦争でも様々な戦場で戦った経験のある人物達とのこと。
俺は直接二人と関わったことはないが……数々の戦歴によって、急造のパーティーだが連携はとれるだろう……というか、上手くやれるだろうみたいな感じらしい。
「一つ、質問をしても?」
ふいに二人の内片方の魔法使いが声を上げた。
「編成について文句は言いませんが、彼女について詳細を聞かされていません。確認したいのですが」
ヘレナを言いながら告げる……そこでバルドは、
「ああ、彼女は――」
「神族でしょう? そこは理解できるのですが」
……なるほど、歴戦の戦士か。周囲にいる騎士達も気付いていないであろう彼女の正体を察している。
「どうして神族の女性が?」
「彼女はザナオンの弟子だ」
「弟子……なるほど、そうですか」
神族の女性がなぜザナオンの弟子になっているのか、という点については特に言及しない、というか気になっているにしても顔には出していない。
もう片方の魔法使いは無言で特に質問などはない様子。俺達も声を上げることはなかったので、バルドはまとめのために話し始めた。
「それじゃあ、早速調査に入る……もし森の周囲で異変が生じたら、すぐに連絡が届くよう手はずは整えている。また、トキヤ達が逆に危機的状況になったら、援護に入れるよう準備もしてある……とにかく、今回の目的は情報収集だ。魔物はまだ多くが生存し、森の中の詳細はわからない……この状況を打破するために、手を貸してくれ」
俺達は頷き――動き出した。森へ進みながら俺は魔力を探る。相変わらず澱み、魔物が待ち受ける森……そこへ向け、力強い足取りで俺達は歩き続けた。




