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三度目勇者の異世界紀行  作者: 陽山純樹
第一話

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深刻な状況

 ツォンデルへ辿り着いた直後、騎士達が陣地を作り始める。その間に俺は真正面を観察。なだらかな下り坂の先に森が広がっているのだが――


「……まだ距離があるけど、魔物の気配はしっかりとしているな」

「それだけ数が多いってことね」


 横にいるヘレナが呟く。俺はそれに首肯しつつ、


「魔物の数がどれだけいるかは予想もつかない……森の中に入っても具体的な数を探り当てるのは難しそうだ……こういう戦いは精神的にもキツいから、かなり難しい戦いになるだろう」

「精神的に?」


 聞き返したヘレナに、俺は視線を送りつつ、


「終わりが見えない戦いを要求されるからな。魔物の数が見えているなら戦うペース配分なども調整できるから、やりやすい。一方で今回は魔物の軍勢の全体像が見えないため、どう戦うのがいいのかわからない」

「……いつまでも終わらない戦いに、消耗していくってことか」

「ヘレナはこの戦い、どう思う?」

「単なる魔物なら、倒せると思う。けど……」


 目を細め、ヘレナは俺へ告げる。


「嫌な予感がする」

「予感?」

「厄介な魔物がいるのか、それとも魔族がいるのかわからないけど……森の奥に、何か危険な雰囲気があるというか……そんな予感がする」


 ――神族がこういう場合、結構正鵠を射ていることが多かったりする。魔力探知能力が高いため、何か感じ取っているのかそれとも第六感的なものかは不明だけど。


「おーい」


 その時、バルドから声を掛けられた。


「メルから連絡があった。周囲の状況について観測できる手はずは整えたと。それと共に、あることに気付いたと」

「それは?」

「森の中心部に強い魔力がある。ただし、それが凶悪な魔物か魔族なのかは不明だ」


 ヘレナと同じ見解だな……うん、ただ魔物が森の中に居座っているとは、違うようだ。

 こちらが沈黙しているとバルドはさらに続ける。


「俺としては、魔族あるいは魔族によって生み出された存在……軍勢の総大将が森の中央にいるんだと推測するぜ」

「俺も似たような見解だな……森の中は完全に魔物の支配領域だ。これ、下手すると現在進行形で魔物が増えているんじゃないか?」

「森を見れば一目瞭然だが、相当魔力が溜まっている。魔物の数が増えたことで濃度も高いだろう……トキヤの言う通り、魔物が今も生まれている可能性は十分あるな」


 思った以上に深刻な状況……腕を組み森を見据え、


「バルド、事前情報よりも面倒なことになっていないか?」

「ああ、そうだな……トキヤが俺のいる町を訪れた時点では、こんな状況にはなっていなかった。どうやらこの数日で、ツォンデルに異変が生じたらしい」

「人間が討伐しに来るということで迎え撃つ準備をしたか?」

「魔物が人間の動きを察知できるとは思えないんだがなあ。仮にそれができるということは、少なくとも人間の活動状況を把握できる存在が必要だ」

「……魔族がいる可能性がさらに上がったかな」


 そう言いつつ、俺はさらに言及する。


「魔族以外……例えば魔族と手を組んだ人間とか、そういう可能性はあるのか?」

「ゼロではないし、十年前の戦争でも似たケースはあったが……現時点では何も情報がないため、コメントはできんな」

 バルドは答えたが……何か考えがあるようで、

「だが、あり得ない話ではない……この推測に問題があるとすれば、森の中に存在する魔力は相当澱んでいる。魔族以外の存在が長時間入れるレベルではないだろう」

「あるとすれば神族やエルフくらいの魔力量を持つ存在か……」


 さすがに神族がエルフが――と言及するのは一笑に付すくらいの話ではあるのだが、言及してから口が止まる。

 なぜか――メルの故郷で、魔族と手を組んだエルフをこの手で倒した事実があるためだ。


「……ま、答えはこの作戦が果たせれば自ずとわかるさ」


 バルドはそう言うと、俺とヘレナへ最後に告げた。


「攻撃開始は一時間後。ツォンデルを囲む他の部隊にもそう伝えてあるため、これは一切変更がきかない……それまで、しっかり備えておいてくれ」


 言い残してバルドは陣地へ向かった。その一方で俺とヘレナは森を見据える。


「……どう思う?」


 ふいにヘレナが俺に問い掛けた。その疑問は先ほどバルドとやっていた会話の続きらしい。


「魔族以外の存在が魔物を率いている……問題は澱んだ魔力の中にいて無事なのかということだが……例えば魔族から力を少し付与された、とかならあり得なくはない」

「そう」


 短く答えつつ、ヘレナは鋭い視線を森へ向ける……疑問を呈したが、彼女は基本魔族が総大将だろうと考えている様子だ。

 俺の方も可能性について言及したが、さすがに魔族だろうと思う……仮にそうならジェノン王国内で密かに動いていた魔族との関連性も疑われる。


 もし関係があるのなら、なおさらここで倒さなければ……そう心の内で呟きつつ、俺とヘレナはどこまで森に視線を向け警戒を続けた。


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