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三度目勇者の異世界紀行  作者: 陽山純樹
第一話

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不安要素

 ――そして、とうとう作戦当日がやってくる。


 町から出陣する際、討伐隊を町の人々が総出で見送りを行った。バルドの存在が多くの人に期待を抱かせているようで、誰もが作戦成功を祈り表情は明るかった。


「期待されるのはこの歳になっても嬉しいが、どこまでやれるのかという不安はあるな」


 と、バルドは俺へ語る……遊撃という形で作戦に参加する俺は、ひとまずバルドの隣で歩を進めることとなった。

 そして俺の隣にはヘレナ……ザナオンの姿は既にない。あちらは別の町から出る討伐隊と共に戦地へ向かうことになる。


「最近は腰も痛くなってだなあ……」

「その年齢で腰が痛い程度なら、十分過ぎるんじゃないか?」


 と、俺はバルドへコメントする。


「俺なんか元の世界で毎日頭も肩も腰も痛かったぞ。ストレスも溜まる一方だったし」

「……そんな修羅場なのか?」

「修羅場……まあ確かに、そんな風に言えなくもなかったけど」

「魔王を倒した勇者すら嘆くほどだ。死すらあり得るヤバイ仕事なのだろうな」


 どんな仕事を想像しているんだろう……気になったが、俺としては怖くて聞けなかった。


「……確認だが、バルド。そっちは基本後方支援役ということでいいんだな?」

「魔法による援護ぐらいはするだろうが、基本的には後方で指揮を執る形になる以上、支援くらいしかできんだろう」

「そこについて不満はないよ。魔物を包囲する形で戦うとはいえ、ちゃんと統制が機能していないとバラバラになるだけだ」

「うむ……トキヤには期待しているぞ」

「……ま、やれるだけ頑張るよ」


 俺は周囲に目を向ける。既にメルの姿はない。彼女は事前に状況を確かめるべく先行している。横には淡々と歩くヘレナがいて、表情から緊張などは見受けられない。


「なあバルド、確認だがバルドやザナオン以外に魔王討伐に加わっていた仲間とかはいないのか?」

「討伐隊のリストにはいなかった。しかしトキヤのような急遽加入した人員はリスト外であるから、知り合いがいる可能性はゼロではない」

「俺の扱いは問題ないのか?」

「リストに記載はされていないが既に報告はしているから大丈夫だろ」


 なんだかアバウトだけど……まあ、合同作戦ということで色々手を回してはいるんだろうけど、バルドでフォローしきるのも限界があるのかもしれない。


「もし戦場で顔を合わせることになったら、一緒に戦うのもありか?」

「それでもいいが……いる可能性は正直低いと思うがな」

「どうして?」

「ザナオンや俺のことは討伐作戦準備が始まった時点である程度情報は回しているからな。国側に報告した形だった結果、トキヤは俺のことを知らず町まで来たわけだが……知り合いなら基本、どこかのタイミングで会いに来るだろ」

「……それもそうだな」

「捕捉すると、フリューレ王国内にはいるぞ」

「それは……魔物の討伐とかに関係している?」

「正解だ」


 フリューレ王国としては出現し続ける魔物に手を焼き、バルドまで引っ張り出している始末だ。国は当然ながら猫の手も借りたいだろうし、俺と共に戦った人間なんて、とうの昔に助力をお願いしているだろう。


「今回の戦いで討伐を果たさないと、かなり面倒なことになりそうだな」

「完全討伐は正直難しいと俺は考えている……が、少なくともツォンデル周辺にある村や町に影響がない程度には数を減らさないとまずいな」

「……例えば半分倒してもまだ足りないか」

「数を踏まえると、半分消えても軍勢という規模は維持しているな」

「急造の討伐部隊であるのはわかるけど、改めて考えると不安要素が大きいな」

「違いない」


 バルドも頷く。さらにここから魔族がいる可能性も……頭を抱えそうになる状況だな。

 ただ、観測できている魔物のレベルは、騎士や兵士が連携すれば倒せるくらいのものらしく、俺やヘレナであれば容易に数を減らしていけるはず――


「初動が勝負だな」

「ああ、俺もそう思う」

「初動?」


 聞き返したのはヘレナ。俺は彼女を見返し、


「最初の突撃でどこまで数を減らせるか……ツォンデルという場所を包囲して攻撃を仕掛けるのはいいが、連携能力なども低い。長期戦になれば危険であることを踏まえると、一番勢いがある初動でどれだけ数を減らせるか……それが後々にも響いてくるだろうな」


 そう言いつつ、俺はヘレナと目を合わせ、


「とはいえ、全力戦闘をする必要はない。魔族がいる可能性を考慮すると、切り札はギリギリまで温存しておきたいな」

「なら、普段の出力で魔物を手早く倒すってことか」

「そうだ。ちなみに魔物との交戦経験は? 詳細を教えてくれるか?」


 ヘレナは俺の問いに経験を語る……うん、ザナオンは半年でそれなりに場数を踏ませているようだ。


「なら、そうだな……ザナオンから聞いているかもしれないが、俺の方から魔物との戦いについていくらか助言しようか」


 こちらの提案にヘレナは頷く。ならばと、俺は彼女へ向け解説を始めた。


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