期待に満ちた瞳
「ヘレナ、お前はどうしたい?」
ザナオンがヘレナへ尋ねる。ふいに話を振られ、彼女は驚いた様子を見せた。
「え? 私?」
「トキヤの言う通り、俺達にも役割はある……が、今回の作戦でトキヤを自由に動かし、戦わせた方が討伐の成功率が上がるだろうと俺も思う……指示された役割は、俺と傭兵仲間でもどうにかなる。ヘレナは神族であることを公にしていないため、俺の弟子と言っても作戦において作戦を指揮する側は戦力の勘定にあまり含んでいなかった……つまり、ヘレナ単独なら自由にできるだろう」
ザナオンの言葉にヘレナは彼を見返しながら耳を傾ける。
「だからどう動くはヘレナの判断でいい。その要望を俺が言えば、通るだろう」
「……私は」
考え込むヘレナ。内心で師匠であるザナオンの提案を吟味し始める。
――俺が手を組まないかと提案したのは、彼女の技量を見たいという点に加え、今後仲間になるとしたら……そういう想定で、共に戦えるかを推し量るためだ。
ただそれ以外にも、今回の作戦で誰かと組んだ方がいいという判断で、俺の動きに対応できそうな最有力候補が彼女という面もある。
総合的な判断から提案したわけだが……さて、ヘレナはどう応じるのか。
考え込みつつ、彼女は俺のことをチラチラと見やる。共に戦ってその腕前を見てみたいという願望があるようだが、その一方で師匠の方は大丈夫かと考えている様子。
俺は黙ってザナオンを見る。彼はそこで小さく肩をすくめる。どちらでもいい……という雰囲気だな。
さて、こういう反応を見せる師匠にヘレナはどう答えるか――
「……本当に、いいの?」
「ああ、俺はどんな決断をしても従うつもりだ……というかトキヤが言い出したことだからな」
そう理由を語る……俺が眉をひそめると、
「当のトキヤがわからない、みたいな顔をするのは何なんだよ」
「俺としては考えがあるけど、俺が言い出したから正しい、という風にはならないんじゃないか?」
「そうか? 俺としては色々考えた上での決断だと思うんだが」
そう言いつつ、ザナオンは解説を始める。
「今回、トキヤが遊撃という形で戦うわけだが、メルが後方支援に回る形になったため単独で動くことになる。いくら魔王を倒した勇者とはいえ、単独で動くのはリスクがあるから誰かと手を組みたいところ」
そこまで語るザナオンに対し俺は頷く。
「ああ、それは正解だ」
「なら相方を見つけないといけないが……まずバルドについては無理で、最有力候補は俺ということになるわけだが……トキヤとしては、俺には役割がありそうだし難しいかなー、と胸中で考えているに違いない……しかし、ヘレナは別だ。というより、本音としてはヘレナと組んで動きたいんじゃないか?」
「私と……?」
「トキヤと連戦できるほどの能力を持ち、なおかつそのポテンシャルも高い……そういう風にトキヤは感じ取った。これはつまり、ヘレナの実力を鍛錬を通して認めた、という話にならないか?」
――言われ、ヘレナはゴクリと唾を飲む。俺に認められた、という点について緊張している様子。
戦士として、俺に一定の敬意を持っているという雰囲気もあるな……さて、ザナオンの話を聞いて彼女はどう答えるか――
「……仮に、私と手を組んだとして」
と、ヘレナは口を開く。
「足手まといにならない?」
「……あくまで決闘で剣を受けた上での考えになるけど」
今度は俺が口を開いた。
「全力戦闘については時間制限があるにしても、通常の戦い方では俺の動きについていけると思う」
本当か、という視線がヘレナから向けられる。彼女としては負け続けているし、対等ではない以上、厳しいと考えているのかもしれないが――
「ここについては俺を信じてくれると嬉しい」
「……そう」
こちらの発言に対し、やがてヘレナも踏ん切りが付いた様子。
「なら、トキヤさんと一緒に戦う……良い経験になりそう」
「さすがに指導するような暇はなさそうだから、戦いの中で技でも盗んでくれ」
「盗んでいいの?」
「好きにしてくれたらいいよ。別に剣術を秘匿しているわけじゃないからな……ただ、俺の力の源は剣だ。俺が本来持っている力、というのは異質な魔力だけだから、どこまで参考になるかはわからないけど」
そう言ったが……なんだかヘレナの瞳は期待に満ちていた。
戦いのことになると、目を輝かせる感じか……これ、一歩間違えると戦闘狂みたいな感じになってしまうかもしれない。
それを防ぐためには、適切な指導が必要なはずだが……ザナオン自身、色々と限界を感じているのを踏まえると、放置すれば危険なことになるかもしれない。
ただ、だからといって俺達の仲間になることが最善になるかはわからないけど……ここについては今回の作戦で多少なりとも見極められるかな? そんなことを考えつつ、俺はザナオンとヘレナへ向け、作戦に関し話し合いを続けたのだった。




