表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
三度目勇者の異世界紀行  作者: 陽山純樹
第一話

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

59/93

ストイック

「師匠と弟子、だからなのか知らないが、ずいぶんと食事に対するスタイルが似ているな」


 俺が発言すると、二人とも手を止めてこちらを向いた。


「ザナオンは昔からそんな感じだったが、ヘレナも一緒か」

「……確かに俺はあんま関心なかったなあ」


 と、残っていたパンを一気に口に放り込んだザナオンは、それを飲み込んだ後、


「ルシールとか魔王への旅路の中で、ずいぶんと食事を楽しむようになったな」

「半ば趣味と化していたな……それが高じて十年前の戦争で顔を合わせた時は、ずいぶんと料理好きになっていた」

「自分で調理するまでこだわるようになったか……と、似ていると言ったが別にここは指導したわけじゃないぞ。元々ヘレナはこんな感じだ」


 そう言いながらザナオンはヘレナを見る。


「別に神族だからこだわりがない、というわけじゃないだろうけど」

「……こだわる必要ある?」


 眉をひそめて問うヘレナ。ふむ、この態度はおそらく――


「別に食事が好きになれというわけじゃないさ」


 俺は彼女に対し口を開く。


「そうだな……美術とか、音楽とか、ヘレナは何か興味のあることとかないのか?」

「ない。私が求めるのは最強という称号だけ」


 ス、ストイックだなあ……まあなんとなく言動から予想できたけど。

 反応を見てザナオンは苦笑している。態度からして以前からこんな感じなんだろう。


 きっと「他にも目を向けてはどうか?」などと言っても「それ最強になるために意味がある?」とか返答されて終わりだ。俺としては別にそれを否定することはないし、かといって雰囲気から料理が好きでも音楽が好きでも、他者の何かを否定するという意思は見えない。

 他者の言動に文句を言うみたいな性格ではない様子……というか、たぶん彼女は自分自身が最強を目指していること自体、異質だと考えているのだろう。だからこそ、自分の見解自体が人とズレていることを察して無闇に人の意見を否定したりはしない。


 神族は幼い頃から教育を受けて人格者であるケースが非常に多いので、彼女もまた他者を重んじる良い性格なのだろう……ただ最強を目指すという一点においては、例外という感じだが。

 最強を目指すならハングリー精神とかあった方がいいけど……剣を極めたい理由とかは具体的にあるのだろうか? と少し疑問に思ったがさすがに出会ってまだ一日なので突っ込んだ質問は避けた方がいいか。


 むしろ最強を目指す以上、戦いのこととかについて言及した方が話はしやすいかも……というわけで、


「……昨日のうちにバルドから、俺の役割について詳しい話をした」


 こちらが作戦について話し出すと、ザナオン達は――特にヘレナは反応し、俺を注視した。


「俺の役割は最前線で魔物を討伐すること……その一方でメルは魔族が到来する可能性を考慮して後方支援という形になる」

「魔族か……現時点でいると確定しているわけじゃないんだよな?」

「あくまで可能性の話……けれど魔物が軍勢となっている場所に踏み込むんだ。何があってもおかしくはない以上、備えておかなければ危険だ」


 俺の言葉にザナオンとヘレナは同時に頷いた。


「で、結果としては俺は一人でどうするのか相談したんだが……遊撃という形になった」

「遊撃?」

「俺は緊急的に参戦したわけで、騎士や兵士と連携を取るのは難しい。かつ、十年前の戦争で騎士などを率いた経験とかあるけど、それは一緒に戦った経験がある面々相手だったから、初めて顔を合わせる騎士とかにやるのは荷が重い。さらに言えば、俺についてこれる騎士や兵士がいるかというと……」

「いないだろうな」

「うん、だろうね」


 ザナオンとヘレナは相次いで肯定。


「結果、トキヤさんは遊撃ってこと?」

「そう、好きに動いて状況に合わせて立ち回れということだ……他に方法がないにしても、状況次第では俺が戦線を維持する役回りとかになるかもしれない」

「……それだけ、期待されていると」

「頑張るけど、俺が崩れたら戦線崩壊するような作戦は勘弁してくれ、と言っておいたからまあ最悪のケースだと思ってくれ……それで、なんだが」


 俺は二人の顔を一度見てから提案する。


「ザナオン達がどういう動きをするか確認させてほしい。で、役回り次第で俺と組まないか?」

「それはつまり、トキヤさんと遊撃的に動くってこと?」

「そうだ」


 返事をしつつ「あくまで提案」と言い添え、


「俺は二人がどういう立ち回りをするか聞いていない状態で提案しているから、都合が悪ければ断ってくれて良いよ。俺が単独で動くより、俺と互角に戦える存在と手を組んだ方が、魔物討伐の効率も上がるだろうという考え話を向けただけだから」


 その言葉に――ヘレナの体に力が入るのがわかった。俺と互角、というところに反応したっぽい。

 彼女は決闘で負け越しているわけだし、自覚はないかもしれないが……あれだけ俺と打ち合える存在は決して多くない。むしろ今回の作戦では彼女だけかもしれない。


 さて、二人はどうするか……沈黙していると、やがてザナオンが声を上げた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ