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三度目勇者の異世界紀行  作者: 陽山純樹
第一話

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底知れぬ力

 ザナオンとヘレナ、二人と顔を合わせた日はそれ以降、鍛錬をやめて宿に一度戻ってから、バルドに呼ばれて作戦に関して打ち合わせを行った。

 そして翌日……魔物の討伐作戦まではバルドのいる町で待機するわけだが……退屈することはなかった。なぜなら、朝からヘレナと鍛錬をすることになったためだ。


「はあっ!」


 気合いと共に一閃した彼女の剣を俺は受け流し、反撃で彼女の剣を弾き飛ばした。それでまた勝利した俺に対し、ヘレナは小さく息をつきつつ、剣を拾う。


「六連敗か……」

「そこまで挑めること自体、驚愕ものだけどな」


 声は鍛錬を眺めるザナオンから。彼も体が鈍らないように剣を振っているのだが、休憩を挟んでいる。


「というかトキヤもよく連戦できるな。実は元の世界に帰っても修練していたのか?」

「やっているわけないだろ……相棒であるこの剣のおかげだよ」


 そう言いつつ俺は自身が握る剣を掲げる。


「実質、俺が強いのではなくこの剣が強いってだけの話さ」

「そこまで卑下する必要はないぞ。どれだけ強い剣でもそれをどう使うかが重要だからな。その中でトキヤは魔王を倒した……偉業を成し遂げたんだから、誇っていい」

「それはどうも」


 会話をする間にもヘレナは剣を軽く素振りをする。次の決闘を始める気、満々の様子。


「あー、ヘレナ。ここまでにしよう」

「……わかった」


 まだまだ戦い足りないという様子だが、とりあえずここで中断。ちなみに朝から決闘をやっており、さっきので九戦目だ。

 剣の力で継戦能力が高くなっているからできる所業なだけで、ザナオンでもこれは無理だろう……というか、神族ということで多量の魔力を抱えているにしろ、連続でここまで決闘をこなしたら疲労は相当なもののはず。けれどヘレナのパフォーマンスは落ちていない。


 魔力制御も時間制限ありだが、その制限内ではきっちり維持できている……凄まじい集中力である。ルシールがこの才覚を見逃すわけにはいかないとして、ザナオンに預けたのも納得がいく。

 戦えば戦うほど、彼女の底知れなさを理解する……確かにこれは、完全体となったヘレナの姿を見たいという気がしてくる。


 鍛錬場の隅の方に一本の木があり、俺達はその下で休憩をする。そろそろ昼時だし、食事をしたいところだな。


「このまま大通りに戻ってメシでも食うか」

「お、いいな」

「いいよ」


 ザナオンとヘレナも同意。彼女を見ると、先ほどまでの好戦的な様子から一転、少し落ち着いていた。


「ちなみに昼からも戦うのか?」

「希望的にはそうしたいけど……」

「作戦も間近だからな。俺としても鍛錬になるから午前中は全力でやったけど、さすがに今日はところはやめておくか……負傷して参加できませんでした、というのはいくらなんでも悲しすぎるからな」


 まあ最悪、怪我してもメルが癒やしてくれるだろうけど……彼女は彼女で準備をしているわけだし、負担はかけたくない。

 というわけで、決闘形式の鍛錬はこれで終了……ちなみに昨日と一戦と合わせて合計十回のうち、俺の勝ちが八回である。


 つまり二度ヘレナが勝利したわけだが――


「……さすがに昨日の今日でヘレナは勝てないか」


 ザナオンが言う。それに対し俺は、


「二回負けたが」

「いやいや、足が滑ったり不意の事故が原因だ。ヘレナとしては直接打ち合って勝ったわけじゃないから、不本意だろ」


 ザナオンの言葉にヘレナはうんうんと何度も頷く……当面、彼女の目標は俺を倒すこと、になるかもしれない。

 ――ちなみに、昨日の提案については俺の口から彼女に話してはいない。話すタイミングもザナオンに一任しており、昨日の今日だしまだ伝えてはいない様子。


 無理強いするわけにもいかないので、後はヘレナの決断に任せよう……ちなみにメルにはザナオンに提案したことは話した。彼女は「それがトキヤの判断なら」と、反対はしなかった。

 よって俺の方は座して待つことに……とはいえ、まだ出会ってすぐだし互いのこともほとんど知らない状況だ。俺としては彼女について知りたいこともあったので、食事の最中にでも話してみるか。


「よし、じゃあ昨日と同じ酒場にでも行くか? それとも、店でも探すか?」

「俺は昨日と一緒でいいぞ」

「私も同じでいい」


 二人とも食事について頓着はない様子……というわけで昨日と同じ店に入って、食事をとる。

 で、その食事風景は二人ともなんというか、とりあえず生きるために栄養を摂取するみたいな感じである。ザナオンは昔からこんな感じなので見慣れているが、ヘレナの方も同じらしい。


 神族だからといって食に無頓着というわけではない。例えば共に魔王に挑んだルシールなんかは旅を通して結構なグルメになっていた。新しい町に辿り着いたらまず、名物料理がないかなどを探していたくらいだ。

 ふむ、まずはそれを切り口に話をしてみるか……俺は食事風景を眺めつつ、口を開いた。


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