底知れぬ力
ザナオンとヘレナ、二人と顔を合わせた日はそれ以降、鍛錬をやめて宿に一度戻ってから、バルドに呼ばれて作戦に関して打ち合わせを行った。
そして翌日……魔物の討伐作戦まではバルドのいる町で待機するわけだが……退屈することはなかった。なぜなら、朝からヘレナと鍛錬をすることになったためだ。
「はあっ!」
気合いと共に一閃した彼女の剣を俺は受け流し、反撃で彼女の剣を弾き飛ばした。それでまた勝利した俺に対し、ヘレナは小さく息をつきつつ、剣を拾う。
「六連敗か……」
「そこまで挑めること自体、驚愕ものだけどな」
声は鍛錬を眺めるザナオンから。彼も体が鈍らないように剣を振っているのだが、休憩を挟んでいる。
「というかトキヤもよく連戦できるな。実は元の世界に帰っても修練していたのか?」
「やっているわけないだろ……相棒であるこの剣のおかげだよ」
そう言いつつ俺は自身が握る剣を掲げる。
「実質、俺が強いのではなくこの剣が強いってだけの話さ」
「そこまで卑下する必要はないぞ。どれだけ強い剣でもそれをどう使うかが重要だからな。その中でトキヤは魔王を倒した……偉業を成し遂げたんだから、誇っていい」
「それはどうも」
会話をする間にもヘレナは剣を軽く素振りをする。次の決闘を始める気、満々の様子。
「あー、ヘレナ。ここまでにしよう」
「……わかった」
まだまだ戦い足りないという様子だが、とりあえずここで中断。ちなみに朝から決闘をやっており、さっきので九戦目だ。
剣の力で継戦能力が高くなっているからできる所業なだけで、ザナオンでもこれは無理だろう……というか、神族ということで多量の魔力を抱えているにしろ、連続でここまで決闘をこなしたら疲労は相当なもののはず。けれどヘレナのパフォーマンスは落ちていない。
魔力制御も時間制限ありだが、その制限内ではきっちり維持できている……凄まじい集中力である。ルシールがこの才覚を見逃すわけにはいかないとして、ザナオンに預けたのも納得がいく。
戦えば戦うほど、彼女の底知れなさを理解する……確かにこれは、完全体となったヘレナの姿を見たいという気がしてくる。
鍛錬場の隅の方に一本の木があり、俺達はその下で休憩をする。そろそろ昼時だし、食事をしたいところだな。
「このまま大通りに戻ってメシでも食うか」
「お、いいな」
「いいよ」
ザナオンとヘレナも同意。彼女を見ると、先ほどまでの好戦的な様子から一転、少し落ち着いていた。
「ちなみに昼からも戦うのか?」
「希望的にはそうしたいけど……」
「作戦も間近だからな。俺としても鍛錬になるから午前中は全力でやったけど、さすがに今日はところはやめておくか……負傷して参加できませんでした、というのはいくらなんでも悲しすぎるからな」
まあ最悪、怪我してもメルが癒やしてくれるだろうけど……彼女は彼女で準備をしているわけだし、負担はかけたくない。
というわけで、決闘形式の鍛錬はこれで終了……ちなみに昨日と一戦と合わせて合計十回のうち、俺の勝ちが八回である。
つまり二度ヘレナが勝利したわけだが――
「……さすがに昨日の今日でヘレナは勝てないか」
ザナオンが言う。それに対し俺は、
「二回負けたが」
「いやいや、足が滑ったり不意の事故が原因だ。ヘレナとしては直接打ち合って勝ったわけじゃないから、不本意だろ」
ザナオンの言葉にヘレナはうんうんと何度も頷く……当面、彼女の目標は俺を倒すこと、になるかもしれない。
――ちなみに、昨日の提案については俺の口から彼女に話してはいない。話すタイミングもザナオンに一任しており、昨日の今日だしまだ伝えてはいない様子。
無理強いするわけにもいかないので、後はヘレナの決断に任せよう……ちなみにメルにはザナオンに提案したことは話した。彼女は「それがトキヤの判断なら」と、反対はしなかった。
よって俺の方は座して待つことに……とはいえ、まだ出会ってすぐだし互いのこともほとんど知らない状況だ。俺としては彼女について知りたいこともあったので、食事の最中にでも話してみるか。
「よし、じゃあ昨日と同じ酒場にでも行くか? それとも、店でも探すか?」
「俺は昨日と一緒でいいぞ」
「私も同じでいい」
二人とも食事について頓着はない様子……というわけで昨日と同じ店に入って、食事をとる。
で、その食事風景は二人ともなんというか、とりあえず生きるために栄養を摂取するみたいな感じである。ザナオンは昔からこんな感じなので見慣れているが、ヘレナの方も同じらしい。
神族だからといって食に無頓着というわけではない。例えば共に魔王に挑んだルシールなんかは旅を通して結構なグルメになっていた。新しい町に辿り着いたらまず、名物料理がないかなどを探していたくらいだ。
ふむ、まずはそれを切り口に話をしてみるか……俺は食事風景を眺めつつ、口を開いた。




