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三度目勇者の異世界紀行  作者: 陽山純樹
第一話

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唐突な提案

 会話の後、俺達は食事を共にして……それからメルは作戦の準備をすると言って酒場を出て、さらにヘレナも「剣を振ってくる」と外に出た。

 そんな様子を見送った後、俺は一つ気付きザナオンへ声を上げる。


「さっきの鍛錬場に戻るしたら、バルドに確認を取らないといけないんじゃないか?」

「今からバルドの所に向かって話を通しておくよ。事後報告でもまあいいだろ」

「……バルドからザナオンと顔を合わせた時のことを聞かされていたが、まさかこういう事だとは思わなかったぞ」


 そう言いつつ俺は椅子の背もたれに体を預け、


「ずいぶんと世話を焼いているな」

「……ルシールから託されたからな。最初は神族相手に無理だろ、と思っていたんだが、なんとかなるもんだな」


 そう言った後、ザナオンは苦笑する。


「アイツの才能を目の当たりにして……魔力制御が完璧になった姿を見てみたいと思うようになったんだよ」

「だから、相当力を入れていると……」


 そう述べた時、ザナオンが発する雰囲気からあることに気付き、口を開く。


「そっちも、何か悩みがあるみたいだな」

「……トキヤに嘘はつけないな」


 肩をすくめると、ザナオンは一度ため息をついた。


「ヘレナは限界知らずだ。魔力制御のやり方を変えただけでも戦士としての実力は相当上がっている。神族特有の魔力制御が足かせになっていて、ここまでかなり大変だったが……」

「足かせか……」

「ルシールによると、この魔力制御法というのは神族個々で適したやり方が違うらしい。大抵の場合は呼吸するのと同じように習得している制御法を自分流に変えるだけで上手くいくんだが、ヘレナは違った。彼女はそもそも、魔力の質だって普通の神族とは違うらしい」

「俺みたいに?」

「トキヤほど異質なのはこの世界にいないさ。ユニーク度合いから言えばヘレナは種族でたった一人レベルの異質さ。大してトキヤは世界に一人レベルの異質さだ……そもそも、トキヤはこの世界の人間じゃないが」


 肩をすくめながらザナオンは俺に語っていく。


「他にも色々な問題があって、ルシールでさえさじを投げた……俺の弟子になる前の時点でも戦士としては相当強かったし、何よりヘレナ自身に意欲がある。やる気があるんなら俺も頑張ろうって話、なんだが……」


 ザナオンは再びため息を吐く。その様子を見れば何に悩んでいるのか理解できる。すなわち――


「指導の限界が見えているか」

「そうだ。飲み込みが早くて指導できることはほとんど教え終わってしまった。そもそもヘレナは戦士になるべく若いながらかなり知識を詰め込んでいる」

「彼女、年齢は?」

「今年で十八だ」


 若いなあ……神族は長命だし姿も変わらないが、彼女の場合は見た目通りの年齢らしい。


「そして習得した知識をすぐに実践できるだけの才覚……俺も戦士として実績があると自負しているが、それでも教えることがもうないレベルだ」

「だから俺と戦わせたりとか、色々やっていると」

「そうだ。ヘレナは現状に満足していないし、トキヤとの戦いで問題点を洗い出し、それを是正するために剣を振り始めるだろう……向上心は良いが、俺の方は出せる手札がなくなってしまっていてなあ」

「……そうか」


 俺は一考した後、彼へ切り出してみる。


「ザナオン」

「ああ」

「もしよければ……彼女のことを俺とメルに任せてもらえないか?」


 その提案に、ザナオンは目を少し開けて驚いた。


「唐突な提案だな……それは、魔王討伐の旅にヘレナを、ということか?」

「ああ……俺の旅は魔王に関する調査だが、さすがに俺とメルだけでは手が足らない。だから仲間探しをしているんだが」

「その仲間にヘレナが認められたと……ヘレナを名指しする以上、後進の育成なんかも兼ねているのか?」

「というより、ベテランとか今の時点で名が売れている人物は仲間にならないと思う面もあるよ。調査とはいえ、どこかの国から依頼を請けているわけでもない……拘束期間に対し報酬が釣り合っていないだろうし」

「ふむ、なるほどな……ヘレナは俺の弟子になった経緯から考えても、報酬を優先しているわけではないし、より実戦経験を積むために、という理由であればヘレナ自身も納得はしそうだな」


 幾度か頷いて俺の提案を受け入れた様子のザナオン。


「ただ、さすがにルシールに確認しないとまずいな」

「そこはわかっているよ……提案はしてくれるのか?」

「俺自身も指導の限界を感じているのは事実だし、ここからヘレナをさらに強くするには、トキヤと共に旅をした方が良さそうではある……俺としてはルシールが承諾し、ヘレナ自身が納得するならいい」

「……とりあえず、今回の討伐作戦後に改めて話し合いでいいか?」

「ああ、そうしよう」


 ザナオンが発した同意の言葉と共に……俺達は店から出たのだった。


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