向かうべき場所
旅を始めてすぐ、俺達はまず向かうべき場所を決めた。
「フリューレ王国だな」
「はい、私も同意します」
――以前の仲間だったルークと話をした際、魔物討伐で傭兵や勇者がいると聞いた。そこで魔族が暗躍している可能性も……よってフリューレ王国へ赴き、内情を調べる。
天王がいる国家であり、王様とも交流があるので、場合によっては王宮へ赴くこともできる……そうするかどうかはフリューレ王国に入ってから考える、ということにした。
よってまずは国境を越える……オルミアから国境まではまだ距離があるため、情報を集めつつジェノン王国から出るべく街道を進んでいく。
また、俺が再召喚された情報についても、ちゃんと拡散されているか確認を行う――結論から言うと、ジェノン王国以外にも勇者トキヤが召喚された、という事実は広まりつつあるらしい。
「名声は確かなものなので、道中でトラブルはないと思います」
街道を歩んでいると、メルはそう考察した。
「むしろトキヤを敵に回せば、支持を失う危険性もありますし、少なくとも政治的な要素で脅かしてくるような存在はいないと思います」
「そういう存在がいないだけでも旅は楽だな……ただメル、因縁をつけてくる相手はいると思うぞ」
「そうでしょうか?」
小首を傾げるメル。彼女としては俺の名声が高いことを理由に、旅に問題はないと考えているみたいだが……俺の見解は違う。
とはいえ、政治的に色々動こうとかいう人間が出てくるよりはマシだけど……そう考えつつ、俺はメルと共に旅を続けた。
そして俺の予想が当たったのは、ジェノン王国の国境へ出る手前……大きな町を訪れた時のことだった。
「勇者トキヤ、だな」
オルミアでファグに問われたような声音で俺を呼ぶ声。昼過ぎに町へ辿り着き、メルが宿を探すということで俺は一人で酒場で遅めの昼食をとっている時だった。
相手は長身の男性。背に大剣を携えた黒髪の戦士であり、少なくとも俺はこの人物に記憶はない。
「……どこかで会ったことはあるか?」
逆に問い掛けると男性は首を振る。
「いや、初対面だ……しかし、十年前の戦争でその姿は見覚えがある」
見た目的に、二十代後半といったところだろうか? その年齢なら、十年前に戦争に参加して戦っていてもおかしくはない。
「そちらが何をやろうとしているのかは理解できる。その上でもしよければ、頼みたいことがある」
雰囲気的に俺に因縁とかがあるわけじゃなさそうだな……こちらはなおも無言でいると、戦士はさらに告げる。
「もしよければ、剣を交えてもらえないだろうか」
「……どういう理由か確認してもいいか?」
「自分の実力を確かめたい。年齢的にも、そろそろ岐路に立たされている。だからこそ、今の力がどこまで通用するのか……」
ふむ……俺としては「調子に乗るな、俺の方が強い」的な感じで来るのかなと思っていたのだが、名声があるとこんな感じになるのか。
ただまあ、控えめに言っているが結局は決闘してくれということなので、どうしたものか。
これ、安易に受けてしまうと面倒なことになりかねない。後から俺が俺が、と他の戦士が来る可能性も否定できない。
というか、俺と戦士の会話を聞いている他の人が明らかにこちらに視線を向けているし、何より耳を澄ませている節がある……うん、ここで「わかった」とあっさり同意すると、後から似たような人が大挙して押し寄せる可能性がある。
正直、ここで「忙しい」と断ってしまっても問題ないのだが……それはそれで因縁つけられるとかありそうでやだなあ……上手く断れればいいんだけど。
メルに相談してみようかなあ……というか彼女が傍にいたら上手にいなしてくれたと思うんだけど……いや、俺が一人だったから声を掛けた、という可能性が高そうだ。
さて、どう対処すべきか。回答を保留して待っていればいずれメルがここに来る。そうなったら対処は楽だろうし、良いと思うんだけど……。
こうやって色々考える間にも戦士は俺の答えを待っている……うーん、言葉の端々からは俺に敵対感情を持っているわけじゃなさそうだし、話は聞いてくれそう。
ここはそうだなあ……俺は色々と考えた後、
「……まず、安易にわかったと答えると同じような思考を持った人が今度は俺がと押しかけてくる可能性があって、それは避けたいから安易に返事できない……それはわかってもらえるか?」
「……そう、だな」
声音的にそこまで考えていなかったみたいな感じである。ふむ、そういう反応なら、
「戦士として活動し、限界が見えている……だからこそ、今一度自分の実力を確かめたいというのは理解できる。まあ、その答えが俺との決闘というのは正解なのかわからないが」
そう述べた後、俺は彼に言った。
「まずは、そうだな……軽く話でも聞くことにしようか――」




