破滅の力
ファグと相対し、彼の魔力が膨れ上がった瞬間、俺は二つのことを理解した。
一つはファグが持っている魔力……それが表に出てきた瞬間、本来持っているエルフの力以外のものが混ざっていることを把握。
これは魔族から力をもらっている……おそらく以前から力を得ていて、それを猟師小屋を隠すような隠蔽の魔法で誤魔化してきたのだろう……近くにいたメルすら気付かないレベルとなれば、ここにおいて隠蔽は完璧だったと言えるだろう。
魔族の力を得た存在、というのは二十年前の旅路でも幾度となく見かけた。共通点としては自意識が過剰になり、さらに気も大きくなる……増長した結果、オルミアを支配するなどということを考えついたのだろうか?
魔族と手を組んだのはファグ達の意思だったとしても、実は魔族が力を与えてファグ達を制御していた、などという可能性もあるのだろうか? 色々と疑問はあるが、魔族の力を得ているという事実は確定であり、戦いにおいて考慮すべき点ではある。
そしてもう一つ気付いたこととしては、後方にいる魔族。どうやら小屋の中で仕込みをしている様子――
次の瞬間、猟師小屋が突如爆ぜた。轟音が響き月夜に土煙が上る。どうやら屋根を吹っ飛ばしたようで……途端、うなり声が聞こえてきた。
それはどうやら魔物。魔族が魔物を生成し、この場を混乱させようとしている――
「させるか!」
と、ここで林から声が聞こえてきた。同時、多数の光が月夜を駆け抜け、小屋へと着弾する。
再び轟音が響いた。林の中で展開しているエルフの援護魔法――さらに多数の魔法が猟師小屋のある場所へと注がれる。魔物が咆哮を上げるが、魔法が多数飛来する中でその声が弱くなり始め……やがて、途切れた。
「単純な力押しは通用しないな」
ファグが声を上げる。俺の真正面にいる彼は飛来する魔法を手で払いのけていたし、俺へ注目し視線を外さない。
「魔物を生み出しても即滅ぼされるわけだ」
なおも断続的に魔法が飛来する……これにより猟師小屋は見るも無惨な状況となり崩壊していくが、それでも魔族の気配は揺らぎもしない。エルフの魔法を容易く防いでいるらしい。
……この間にいまだ姿が見えていない魔族も気配でその力量を大まかに捉えることができた。エルフの魔法をはね除けるだけの実力を持っているのは間違いないが――
ここまで考えた時、とうとうファグが仕掛けた。右手を振るとその手に剣が生み出され、俺に突撃を開始した。
まさか、俺に剣で挑むのか――こちらは迎え撃つ構え。そして俺とファグの剣が激突し、一時拮抗する。
「魔力強化により、十年前と変わらぬ力を出せるようだな」
ファグが言う。こちらは「どうも」と応じ、
「そっちは武闘派だと聞いているが、俺と剣術勝負をするつもりか?」
「それでもいいが……相手が相手だ。鍔迫り合いはほどほどにするさ」
言うと同時にファグはあっさりと後退する。一方でシェルデというエルフも剣を握っており、両者とも接近戦ができる様子。
ふむ、先ほどの突撃は俺に警告をしたようだ……つまり、俺が攻め立ててもこちらは対抗できる自信がある、とアピールした。実際、一時的にでも拮抗した事実がある以上、俺としては確かに攻めにくさはある。
とはいえ、俺としては……剣を構え直す。じっと動かない俺にファグはどうやら笑みを浮かべたようで、
「はは、勇者と言えど警戒するか」
「……魔族から力をもらっているな?」
「そこにも気付くか。正解だ……当初は不安もあった。エルフの魔力に魔族の力が馴染むのかと。しかし、実際その身に受けてみれば……果てしない可能性が広がっていることに気付いた」
ファグはさらに力を高める。両腕に魔力を集め、剣を強化し左手をかざせば魔法を発動できる態勢をとる。
「過去、魔族と手を結び力を得たエルフがいた。しかしこれは絶対的な禁忌とされていたが、今ならばその理由が理解できる。この力によって、全てを破壊することができるからだ」
「大きすぎる力は破滅を呼び込むだけだぞ……そうやって魔族の力を得たものの末路を俺は知っている」
「俺はそうならないさ……それを今から証明してやろう!」
叫び、ファグは再び突撃を開始する――目標は俺。魔族とエルフ……合わさった二つの力で、俺を一気に打ち崩す気だった。
「貴様さえ滅ぼせば、勝ったも同然だ!」
「――まあ、確かにそうかもしれないな」
魔力による圧を感じながら俺は冷静に言葉を紡ぐ。
周囲にいるエルフ達に抗える可能性は低い……いや、数によって押し込めば勝てるかもしれないが犠牲は免れない。
そして、メルは結界を構築しており俺に直接的な援護はできない……傍から見れば窮地と言えるかもしれない。だが、
「……なら、こちらも本気でやらせてもらうか」
言葉と同時、剣に力を宿る。そして振りかぶり――ファグが放った斬撃に対抗するように、一閃した。




