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三度目勇者の異世界紀行  作者: 陽山純樹
第一話

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23/93

夜襲

 殺気を感じ取った瞬間、俺の思考は戦闘モードに切り替わる。

 一体、どういうことなのか……その気配は魔族のものではない。間違いなくエルフであるのだが……頭の中に疑問が膨らむ。


「エイベルを闇討ちする? どうしてこのタイミングで……?」


 と、疑問を抱く間におぼろげながら話の流れが見えてくる。これもしかして、色々と工作をして俺を犯人に仕立て上げようとか、そういうやつか?

 あり得ない話ではないと思いつつ、同時に俺がいるタイミングでそんなことをやろうとするのは、それ以外なさそうだと感じつつ……とりあえず、止めなければまずそうだ。


 俺は相手に気取られないよう気配を消し、なおかつ足音なども消しつつ動向を窺う。魔法などは使わない。もし遮音の魔法でも使おうものなら、人間以上に魔力を保有するエルフならば気付くだろう。相手がエイベルを闇討ちしようなんて魂胆ならば実力者であるのは間違いないし、余計察知される。

 よって、ギリギリまで魔法は使わない……俺は気配を探り、エルフの数を確認。気配は全部で三つ。もしかして面と向かって話をしたファグがいるのかと思ったが、それらしい気配はない。


 そしてエルフ達は敷地内に入ると迷わず奥へと向かっていく……目標はエイベルの寝室かな? 一応、何度か入ったことのある屋敷でエイベルの部屋の位置なんかもわかっている。変わっていなければ屋敷二階のはず。

 エルフ達……刺客達は徐々に目標と思しき部屋の下へと近づいていく。一方で俺はその行方を注視しつつ、距離を開けた場所で顔つきを確認する。


 月明かりしかないので、容易に確認することはできないが……ふむ、さすがに覆面とかしているみたいなので、顔つきまではわからないな。ここは手っ取り早く生け捕りにして対処するのがいいか。

 ただ相手はエルフ。奇襲で仕掛けるとはいえ魔物以上に厄介。しかも殺してはいけないとくれば、対処は難しいようにも思える。


 さらに言えば、相手の実力もわからない……不確定要素ばかりだが、先制攻撃だけは可能だ。状況的に、エルフ達全員を倒すことは難しいかもしれないが……俺がいてエルフ達の誰かを気絶させることができれば、他は逃げていくだろう。それが勝利条件……可能であれば全員を倒したいところだ。


 さて、問題はこれがファグ一派の動きなのかどうか……たぶんそんな雰囲気があるけど、断定的なことは言えないな。話をわかりやすくするために、ここで彼らを捕らえて情報を得たい――


 考える間にいよいよエルフ達が屋敷へ仕掛けようとする。魔法を使って――というかたぶん、魔力が漏れにくい魔力強化で部屋に入り込むつもりなのだろう。

 部屋に入られたらまずいので、ここで仕掛ける必要がありそうだ――俺は目視で相手の配置を確認した後、両足に魔力をまとわせる。


 一瞬の出来事かつ、強化しながら足を動かし――俺は刺客達へ一気に肉薄することに成功する。

 刺客達は俺の行動に対しどうやら反応した……が、完全に虚を衝かれた形であり、対処はできなかった。


 俺は剣を抜き放ち先制の一撃を刺客へ見舞う。さすがに複数同時に薙ぎ払うといった攻撃はできなかったが、エルフ一人の体に斬撃が入り――吹き飛ばすことに成功。剣は魔力を利用して保護しているため、実質峰打ちと変わらない。出血などはしないが、それでも気絶するくらいの威力にはなっているはず。


 次いで俺はすかさず別のエルフを目標に定める。残る二人はまさか勇者トキヤがこんなところにいるとは――と、驚愕しているようで明らかに動揺しているのが視線から伝わってきた。

 こうなってしまっては逃げ一択だとは思うのだが、刺客の一人は得物である短剣を俺に向けてきた。一人やられてしまったが、複数で同時に仕掛ければ、という目論見だろう。


 エルフ達は短剣に魔力をまとわせ、同時に接近してくる……俺としては非常に好都合な状況。分散された方が、面倒なことになっていた。

 相手は魔王を倒した勇者相手でも侮ってはいないと思うが、それでも自身達の力をもってすれば……という考えか、あるいは状況的にこうせざるを得ないから仕掛けるのか。どちらにせよ、撤退を決断しなかった時点で、勝負はついた。


 魔力を込めた短剣が、俺に差し向けられる。だがこちらはその軌道を読み切って回避すると、即座に反撃に転じた。刺客達の動きは明らかに鈍い……というより、接近戦慣れしていないのがわかる。

 エイベルの寝込みを襲うのであればこれで十分かもしれないが、十年前の戦争で生き抜いた勇者と戦うにはあまりに分が悪すぎる……反撃は横薙ぎ。それは相手の胸元に入る軌道を描き――襲い掛かってきた両方に、剣戟を決めることができた。


 刹那、刺客達の体が傾き、倒れ伏す。そこで周囲を探ってみるが……他に気配はない。エイベルを襲撃しようとしたエルフは、これで全員らしい。

 そこで上から物音。見上げると、小さなバルコニーに出て俺を見下ろすエイベルの姿。


「やあエイベル、かなり面倒なことになっているぞ」


 その言葉にエイベルは沈黙していたが……やがて「そのようだな」と短く答え、この事態を収拾しようと動き始めた。


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