山からの気配
俺達は進路を北へ向けつつ、街道を進んでいく。俺達が入った王国の名はメロードといい、海に面する湾岸諸国とロードガーデンとをつなぐ道が存在する国家だ。
太い交易路が国に存在するため、商業的にも発展している国である……その一方で、この国は十年前の戦争で大きな被害を出した。今はその復興も大きく進み、最初に訪れた宿場町も破壊の形跡が町の端に残っていたが、多くは再建されている。
俺達はまずギルドなどで情報を集める。結果として魔物の姿は戦争前より多いらしかった。とはいえ国に入った直後では、魔族がいるという情報はない。
ただ、俺としてはこのメロード王国が怪しいとなんとなく思っていた……フリューレ王国に多くの魔族を潜伏していたわけだが、その場合は他の天王の国を越える必要がある。
しかし、神族や竜族の国に入り込んでフリューレ王国へ向かう……というのは、少し考えにくい。魔族側は能力的に弱い人間の国家であるフリューレ王国に狙いを定め動いていたわけで、その準備のために兵站とは言わずとも、物資を通すルートは必要なはず。
その中でこのメロード王国は候補の一つに上がる。南北に長い国家でありつつ、天王の国とは長い山脈で国境を境にしている。なおかつ軍事的には周辺諸国の手を借りつつ対応しているレベル。ならば、魔族が動く道筋を作ることだって十分可能なはずだ――
「……そう思いつつ進んでいたわけだが」
俺は一つ呟く。時刻は夕刻で、宿屋一階に存在する食堂で俺達はテーブルを囲んで食事をしている状況。
「今日一日、この町で情報収集した結果を報告しよう。メル」
「はい」
スープを口にしつつ、彼女は話し始める。
「私達はメロード王国を北へ北へと進んできたわけですが、ここに来て魔族に関する情報が耳に入りました。東側に存在する山脈……そこに魔物がいるという情報に加え、どうやら魔族が率いているようだと」
「俺も今日、天王の使者から情報を得た。メルが手にした内容とほぼ同じで、こちらは少し詳しい情報が届けられた」
そう言いつつ俺は懐から数枚の資料を取り出し、メルへ渡した。
「どうだ?」
「……魔族に関する特徴も載っていますね。私が取得した情報はこれほどの細かくはありませんが、魔物の出現位置などは一致しています」
「なら、決まりだな……とっとと討伐するという対処を行おうとしたわけだが……フィリス」
「うん」
彼女は頷き、説明を始める。
「メルが情報を得たから私も魔族の気配を探った。距離があったけど、魔物が多数いることがわかったから、そこを中心に調べて……当該の魔族がいることはわかった。そして」
フィリスは一拍おいて、さらに続ける。
「さらに山方向に気配を探ると……魔族の気配があった。私は最初、複数の魔族が行動しているのかな、と考えたんだけど……魔物の動きがその魔族へ向けられているようにも思えたんだよね」
「断定したことは言えないんだな?」
「今のところは」
「……俺とメルが得た情報は、あくまで魔物を多数従えている魔族に関する情報だ。その魔族はメロード王国も察していて、今騎士団などが動いて周辺の町へ兵力を派遣し防衛準備を整えている」
「討伐はしないんだ?」
問いかけはヘレナから。俺は彼女に小さく頷き、
「できない、が正解かな。周辺の軍事力に頼ることが多いメロード王国は自前で強力な戦力はあまり持っていない。現在勇者なども雇っているみたいだし、戦う準備は進めているみたいだけどな」
「魔族がいることを国が察知したのは十日ほど前で、今は早急に態勢を整えているところですね……そして魔族側も、気付いているからこそ魔物を増やしている様子」
「山中へ討伐へ向かう、というのはかなり難易度が高いからな。山岳地帯をきっちり制圧しておけば、仕掛けてこないと考えているんだろう」
俺の見解にメルやヘレナは首肯。うん、ここまではいいのだが――
「で、問題は魔族の目的だ。流れ的にフリューレ王国へ攻撃しようとしていた魔族か、あるいはメロード王国内で潜伏していたか……そこは不明にしろ、国に気付かれているなら逃げてもおかしくないはずだ」
「天王の国家から救援が来ればどうしようもありませんしね」
「そうだ……けど、魔族は魔物を増やし国側ににらみをきかせている。これはつまり、何か目的があるって話だ」
「それが……もう一体の魔族?」
ヘレナが疑問を告げる。俺は「かもしれない」と答え、
「メル、フィリスが感知した魔族に関する情報はあるか?」
「調べた限りありませんでした。トキヤは?」
「天王側からも情報はない……つまり、現地にいる俺達だからこそ、気づけた魔族なのかもしれない……さて、ここからが問題だ。魔物を増やし魔族は何をしようとしている?」
俺の問い掛けに仲間達は沈黙したが……やがて、メルが俺へ向け話し始めた。




