スタート地点
朝、起きた時点で既にヘレナとフィリスはおらず、支度を済ませるとメルがやってきた。
「行きましょうか」
「……この格好でいいのか?」
ちなみに双方旅装姿である
「貸衣装屋を見つけましたので、まずはそこへ行きましょう」
「……貸衣装?」
「はい」
俺はメルの案内により外へ出て、当該の店へ。そこは観光都市であるためか、見た目的にも映えるような衣服が多数あった。
「トキヤは自分の感覚で服を選んでください」
「俺のセンスで……?」
「その方が嬉しいです」
メルが言う。まあ彼女が言うなら……ということで、地味な配色の衣服を選定。着替えて下の服はザックにしまい外に待っていると、
「お待たせしました」
メルが外に出てくる。白いワンピース姿となっており……俺としては、ずいぶんと新鮮に映る。
「一度荷物を置きに宿へ戻りましょう」
「わかった」
「それで、どうですか?」
袖などを気にしながら問い掛けるメル。まあ感想を問われたので、正直に答えるとしよう。
「うん、すごく綺麗だよ」
――あまりに直球の言葉だったからか、メルは面食らったような顔をした。
「……トキヤの口からそのような言葉が出るとは」
「どういう意味だよ……まあ確かに、こういう感じで褒めたことなかったけどさ」
そうは言いつつ、俺は頭をかく。
「それにほら、毎日のように君は綺麗だね、とか言われたら引かない?」
「……想像してみると、それはそれで面倒そうですね」
「だろ?」
俺の言葉にメルは笑い、俺もまた笑う。
「……それじゃあ一度宿に戻るとして、プランはどうするんだ?」
「色々と見て回りましょう。とはいえ、無駄な買い物はしませんよ。旅にかさばるような物は要求したりしませんのでご心配なく」
……逆に、旅に支障がなければよいということだろうか。俺はなんとなく指輪とかネックレスとか、アクセサリー系の小物を頭に浮かべたのだが……ま、とりあえず町を見て回ってからだな。
その後、俺達は宿に服を置いて改めて町中を歩くことに。昨日、買い出しのために大通りを歩いたのだが、目的が違うと町の見方も変わり、目に入らなかった店にも注目するようになる。
だが、メルの方は大通りに立ち並ぶ店には入らない……少しすると道を逸れた。一本道を入ると、人の数も少なくなったが、さすが観光都市と言うべきか、観光客らしき人がそこかしこにいる。
「どこに向かうんだ?」
「まずは私個人が見たいと思っていたものを……良いですか?」
「構わないよ」
「まずは美術館に」
「美術館?」
そう言われて、ふと俺はメルの趣味について思い出した。
「そっか、絵画収集とか趣味だったな」
「憶えていてくれたのですね」
「そこは仲間なのに今やっと思い出したのか、と言及するところじゃないのか」
「言いませんよ、そもそも私もあまり話題にあげませんでしたからね」
「オルミアの家には絵画がたくさんあるんだっけ?」
「たくさんと呼べるほどではありませんが、私が個人的に好きだと思った物はあります」
「旅の最中に目当ての物を見つけたら……と言ってもかさばるし、値段だって高い物もあるし道中で買うには不向きか」
「さすがに衝動買いするほどのものではありませんし、お気になさらず……ちなみにトキヤは美術についてはどうですか?」
「俺に審美眼はないし、美術館とは無縁の世界で生きてきたな」
メルは笑う。予想通り、といった感じだ。
「私も高価な絵とそうでない絵の区別はできませんよ。私はあくまで、好きな物を好きなように収集しているだけですし」
「そんな中で今回美術館か……」
「今、最先端の絵画はどんなものなのか、見ておこうと思いまして」
ちょっとだけ気合いが入っているように見える……ま、彼女が楽しそうならオッケーかな。
「ただ、トキヤ、これはあくまでデートなわけですし、つまらなければ即刻プランを変更しますので」
「そんな薄情な人間じゃないよ……ただ、そうだな。メルがどうして絵画収集が趣味なのか、という点から訊いてもいいか? 仲間から話を聞けば、俺としても興味が出てくると思うし」
「そうですか? といっても、そんな大それた理由はないのですが……」
そう言いつつもメルは俺に語り始める……その最中、俺は二十年前の旅路について思い出す。
仲間として共に旅をした間柄だが、こうして趣味を語り合うことはほとんどなかった……まあ、話題がなかったのもある。俺は異世界の人間でこの世界のことをほとんど知らなかった。だからこそ、メルとしても雑談をどうすればいいかわからなかったはずだ。
けど今、三度目の召喚によって俺はようやく、この世界の人間と同じような見方ができるように思える……ある意味、この世界の人間になるスタート地点に俺は、ようやく立ったのかもしれない。
では、元の世界に戻るのか、それとも――メルの話を聞きながら、美術館に辿り着くまで脳裏では思考を続けることとなった。




