勇者の確信
「今回の一件ですが、私が資料室を確認し、早急にフリューレ王国へ報告を行います。私とトキヤの連名であれば、フリューレ王国もすぐに動くでしょう」
「首都へ向かい、直接報告するか?」
「その方がいいでしょう……レメイトへ報告した場合、時間も掛かるでしょうし……何より、万が一魔族と内通している者がいるとしたら……面倒なことになります」
正直、そんな可能性は考えたくもないが……今回のことは時間との勝負でもある。早急に動いてもらうため、最善択を選ぶべきだ。
「メルの意見に賛成だ。資料を確認し、魔族の居所が判明次第、連絡する……その後、資料室にある物は改めて検証してもらおう」
「そうですね」
「で、夜通しやるとしてメルは大丈夫か?」
「問題ありません。そこは心配なさらず。使い魔による見張りを配置しますので、トキヤ達はゆっくり休んでください」
そう言うとメルは魔法を使用。生み出されたのは全身鎧で身を固めた騎士……彼女の言うとおり使い魔であり、見た目通りの防御力を持っているが中身は空の言わば動く鎧というやつだ。
ただメルが生成した以上、その能力は高い……俺は使い魔を見ながら頷き、
「なら、頼むよ」
「はい」
メルはすぐさま立ち上がり、砦の中へ入っていった。
既に魔物については処置済みなので、砦の中には何もいない……がらんどうで真っ暗な砦、というのはなんだか怖い気もするし、俺としてはあんまり一人で入りたくないなあ、などと思うのだが、彼女は何のためらいもなく入っていった。
それを見送った後にフィリスへ目を移すと、彼女も俺と同じようにメルのことを見送っていた。そこで俺は、
「メルのことも知っているのか?」
「うん、でも私は戦争について直接見聞きしたわけではないから、あなたのことくらいしか顔はわからなかったけど」
……見た目的にヘレナと同年代くらいだろうか? まあ年齢について尋ねるのは今はやめておこうか。
「メルが調査をするというのなら、俺の出番はない。必要な情報を取り出して、報告してくれるはずだ」
「情報を得たらどうするの?」
「全速力で首都へ向かう。そこで一度報告を行い、魔族を倒す……相手に気づかれないよう速やかに動かないといけないし、ここからはフリューレ王国の手腕が問われるな」
俺が直接赴いて倒して回るのは、さすがに難しいだろう……魔物の発生などで疲弊しているフリューレ王国ではあるが、ここは踏ん張ってもらわないといけない。
「討伐を果たした後、どうするかは改めて相談だな……砦にある資料を精査すれば、何かヒントがつかめるかもしれないし」
と、ここで俺はフィリスへ目を向け、
「懸念としては、似たようなことを他の国でもやっていないかだけど」
「私が知る範囲で、動いているのはフリューレ王国内だけだと思う……でも、これ以外にも色々動いているみたいだし、もしかすると別の作戦が進行しているかも」
「ならそういった魔族を倒して回るのも、手ではあるか」
俺はそう呟きつつ、フィリスへ続けた。
「さて、そっちはさすがに疲れただろ? 先に休んでいてくれ。俺は念のため周囲の気配を探って魔物がいないかを確認した後、休むことにする」
「わかった……あなたはここで寝るの?」
「そうだな。山中にいる魔物に即対応できるように……君はどうする? 砦の中にある自分の部屋にでも戻るか?」
ちなみにメルは野営があることを見越して毛布などを持参してきた。よって、ここで横になることも可能だである。
「いや、ここで寝るよ、部屋って言っても個室与えられただけで毛布一枚もないし」
「……ずいぶんとまあ、待遇は悪かったみたいだな」
「力目当てでここに連れてきた以上、扱いが雑なのはなんとなく想像できない?」
「なんとなくは……でも力が強いなら、逆に扱いに気をつけないと自分に被害が及ぶとか考えなかったのか?」
「あくまで才覚はある、という形でそれを利用してやろうみたいなスタンスだったから」
……不憫ではあるなあ。
「そうか。どうするかはそちらに任せるから」
「うん……ねえ、一ついい?」
「ああ、どうした?」
「もし私の推測とか考えが間違っていて、陛下が本当に復活していたとしたら……その時は――」
「その時になったら、考えたらいいさ」
俺の言葉にフィリスは少し驚いたような顔を見せる。
「魔王の味方になるのなら、それでもいい。ただ、戦場に立ったら容赦はできない。命のやりとりになるな」
「……頃合いを見て私を始末するとか、そういう方向性じゃないの?」
「それ、直接訊かれてはいそうですって答えないだろ」
そうツッコミを入れつつ俺は、
「でもまあ、君自身が攻撃してこない限り君の選択に任せる……と、言いたいところだが君の話を聞いて俺は一つ確信した。おそらく、戦場で戦うようなことにはならないさ」
「どういうこと?」
聞き返したフィリスに、俺は断言した。
「魔王は復活していない。これは推測ではなく、確信だ。もっとも、今はまだ根拠を語れないけど――」




