37話 レベル反転バグ発動
「あの、ひとつお願いがあるのですが」
「願い?」
「はい。村の聖剣――エクスカリバーをもう一度この目で見させてもらえませんか?」
「何のために?」
「斬刻旅団――いえ、魔王軍に対抗するために必要なことなんです」
村長は少し考えた後、頷いた。
「…分かりました。こんなタイミングにわざわざ村へ戻ってきたのです。ユーク、あなたには何か大きな事情がありそうだ。それに…見違えるほど逞しくもなった。付いてきなさい」
「はい」
その後、村長に導かれ、修二たちは村の中心にある小さな祠へと向かった。
そこにはあの日と変わらず、輝く聖剣が祀られていた。
「村長。もっと近くでエクスカリバーを見たいのですが、近寄ってもいいでしょうか?」
「もちろんです」
「少し触れても?」
「あなたも分かってると思いますが、エクスカリバーはヴァレス村を護っている聖剣です。渡すことはできませんが…触れるくらいでしたら、問題ないでしょう。どうぞ」
「ありがとうございます」
修二は礼を述べてから、ゆっくりと聖剣に手を伸ばし、触れた。
その瞬間、体中に電流が走ったような感覚があった。
(よし。これで残る条件はあと一つ…)
その後、修二は祠を離れ、仲間たちのもとへと戻った。
「みんな。少し付き合ってもらってもいいか? 井戸に行きたいんだ」
「井戸?」
ミリアが首をかしげる。
「なんで今そんなところへ行く必要があるの、ユークさん! 早く斬刻旅団を追いかけないと!」
「ああ。けど、どうしても必要なんだ。説明は後でするよ」
「でも…!」
「ユークがこう言ってるんだ。何か理由があるんだろう。ニャアン、ここはリーダーに従おう」
「う、うん…」
まだ少し納得できない様子のニャアンの手を引いて、アマテが修二に声をかける。
「井戸はどこにあるんだ?」
「こっちだ」
修二は一ヶ月前の記憶を頼りに、村の端にある古い井戸へと向かった。
目的の場所はすぐに見つかった。
(ここから落ちなきゃいけないのか…)
修二は井戸を覗き込んだ。
底はかなり深そうだ。
「これ、大丈夫なんでしょうか…?」
ミリアが心配そうに尋ねる。
「ロープで降りるから問題ない」
「アタシが手伝うよ」
アマテが頑丈なロープを井戸に結びつけてくれる。
「…っと。準備できたぜ、ユーク」
「ありがとう、アマテ」
修二がロープを握ると、ニャアンが心配そうに声をかけた。
「ねぇ、ユークさん。なんで井戸なんかに降りる必要があるの?」
「説明は後でする。今は信じてくれ」
修二はそう言うと、井戸の縁に足をかけた。
底は暗くて見えないが、かすかに水音が聞こえる。
(よし、行くぞ)
修二はゆっくりとロープを伝って降り始めた。
5メートル、10メートル、15メートル…。
ついに足が水面に触れた瞬間――。
「うわあああ!」
突然、修二の体が井戸の底へと引きずり込まれた。
慌ててロープを掴もうとするが、手が滑ってしまう。
ドボン!
冷たい水の中に全身が沈んだ。
「ユークさん!」
上からニャアンの声が聞こえるが、修二は水中でもがいていた。
そのとき、体中に電流のような感覚が走る。
――レベル反転バグ 発動――
頭の中に機械的な声が響いた。
――全条件達成 レベル上限解除――
修二の体が光に包まれる。
そして…。
「ぷはっ!」
修二は勢いよく水面から顔を出した。
体が軽い。
いや、軽すぎる。
「ステータスオープン」
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名前:ユーク
職業:神聖勇者
レベル:99
HP:2000/2000
MP:1000/1000
力:255
敏捷:255
知力:255
スキル:エックスリンク、飛翔剣技
装備:透明の短剣、シルバーライト・アーマー、竜殺しの大剣・ドラゴンベイン
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「やったぞ!」
修二は思わず叫んだ。
全てのステータスが桁違いに上昇している。
そのとき、井戸の底に何かが光っているのに気づく。
潜って調べてみると、小さな宝箱があった。
(これは…)
宝箱を開けると、中から美しく光る剣が現れた。
【聖剣エクスカリバー(真)を入手しました】
修二が剣を手に取ると、井戸の底から光の柱が立ち上がった。
その光に包まれて、修二の体がふわりと浮き上がる。
「あ、あれ…?」
気がつくと、修二は井戸の上に立っていた。
全身から金色の光を放ちながら。
「ユークさん! すっごく光ってる!」
ニャアンが目を輝かせて駆け寄ってくる。
「ユーク、その剣は…」
アマテが驚愕の表情で聖剣を見つめた。
「おそらく…聖剣の真の姿です。村の祠にあったのは、きっとレプリカだったんでしょう」
ミリアが冷静に分析する。
「みんな、ありがとう。これで戦う準備が整った」
修二は仲間たちを見回した。
「まずはリーシャたちを助けに行こう。ヴォルガ火山で助けを待ってるはずだ」
「そうだね! 急ごう!」
その時、村の方角から煙が上がっているのが見えた。
「あれは…」
「村が燃えてる!」
四人は急いで村へと駆け戻った。
しかし、そこで目にしたのは信じられない光景だった。




