35話 ゲーム開発者の秘密を知る
洞窟を出た四人は、再び山頂を目指した。
そして、彼らがついに到達した山頂からは死の山の内部、つまり火口が見えた。
「すごく熱いっ…」
ニャアンが額の汗を拭う。
火口からは赤い光と共に熱気が立ち上っていた。
「たしかにこれは噴火の兆候があります」
ミリアが冷静に分析する。
「間違いないね。近いうちに噴火するんじゃないか?」
「えぇー!? 大変じゃん!」
アマテの言葉にニャアンが慌てふためく。
「けど、今すぐ噴火するってわけでもなさそうだし。もっとよく調べる必要があるな」
修二が言うと、ミリアが火口の縁を覗き始めた。
「ユークさん、あちらに何かあります」
彼女が指差す方向には小さな祭壇があった。
祭壇の周りは異様な雰囲気が漂っている。
(なんだ?)
修二が近づくと、祭壇には生贄のような図が描かれていた。
その中央にマークが――。
「こりゃ…斬刻旅団のマークだね」
「うそっ!?」
「噴火と儀式…。やっぱり、斬刻旅団と関わりがあったんですね」
「ああ。これで斬刻旅団が何か良からぬことを企んでいる可能性が高まった。近くに奴らの姿はないようだが…。ひとまず、噴火させるわけにはいかない。なんとしても止める必要がある」
「止めるって、一体どうやって?」
アマテの言葉に修二は考え込んだ。
何か糸口があるはずだ。
そう思った修二は、アイテム袋の中から先ほど入手したノートブックを取り出す。
(何か手がかりがあるといいけど…)
ページをめくると、そこには同人RPG『クリムゾン・ファンタジア』の詳細な設計図と共にラスボスについての記述があった。
【ラストボス:魔王ゼノブリス 能力:火山を操って生贄の力で強化されている 弱点:聖なる剣でダメージを与えたあと、最後の鍵を使用すると封印が可能】
(最後の鍵!)
これまで使い道が分からなかった最後の鍵の使用法が判明し、修二の中に希望が宿る。
さらにページをめくると、衝撃的な事実が書かれていた。
【魔王ゼノブリスはプログラムのバグにより自我を持ち、ゲームの世界を支配しようとしている。もはや開発者でさえも制御できない存在となった】
「なるほど…」
これで開発者たちがなぜ同人ゲームの完成を放棄したのか理解できた。
彼らは制御できない存在を作ってしまったのだ。
「ユークさん、何か分かった?」
「いや…。ただ、どこかで繋がり始めている気がする」
「?」
修二はそう言いながら立ち上がった。
「とりあえず、みんな一度王都に戻ろう。斬刻旅団の関与が分かったことだし、このことを国王に報告しておきたい」
その後、重要な発見をした四人は山を下り始めた。
途中、休憩の間を利用して修二は再び《エックスリンク》のスキルを使った。
【@isekai_villager_A: 死の山で重大な発見をした 魔王の封印方法として最後の鍵のことが書かれててた これは大きな前進だと思う #クリファン攻略】
ポストを投稿すると、例のアカウントから再びリプライが来た。
【@MirokuinMasato30: その通り ただそれだけじゃ倒せない 聖剣エクスカリバーとレベル反転バグを使って上限を突破しておかないと】
「え?」
修二は首をかしげた。
レベル反転バグを使って上限を突破しておかないと、魔王は倒せないというのは初めて知る事実だったからだ。
(やっぱり、そのバグをクリアしておく必要があるのか)
修二は一度自分のステータスを確認する。
「ステータスオープン」
=====
名前:ユーク
職業:神聖勇者
レベル:38
HP:720/720
MP:250/250
力:55
敏捷:51
知力:37
スキル:エックスリンク
装備:透明の短剣、シルバーライト・アーマー
=====
レベルはすでに40近くまでなっている。
今ならヴァレス村に戻ってもいい頃合いかもしれない。
「ユークさん、そろそろ出発しよー? 日が暮れると危険だから」
「ああ、分かった」
三人の元へ戻ると、修二は思いきって切り出すことにする。
「みんな、ちょっといいかな?」
「ン? どーしたんだい?」
「王都に戻ったらさ。生まれ故郷の朝霧の村ヴァレスへ行きたいんだ」
「ですが、その村はユークさんを追放したんじゃ…」
「そうなんだけど…でも。どうしても行く必要ができたんだ」
修二は決意の表情を浮かべた。
「今行って本当に大丈夫? ちゃんと村の中へ入れてもらえるのか?」
アマテが心配そうに尋ねる。
「分からない。けど、以前の俺はレベル1で何もできなかったけど、今は勇者としても認められたし、村の人たちも自分の話を聞いてくれるんじゃないかって思うんだ。それに家族に会いたいという気持ちもある」
修二の言葉に、三人は理解を示した。
「そこまで言うならアタシたちは何も言わないよ」
「うん! じゃあ王都に戻って王様に報告したら、今度はヴァレス村へ向かおう~!」
「はい」
「ありがとう、みんな」
◇◇◇
アストラル王国の王都に戻り、調査の報告を終えた修二たち。
準備を整えた彼らは、その数日後、ガイア共和国へと向けて出発した。
「ねえねえ、ユークさん。改めてユークさんの家族について教えてほしいな~」
キャンプファイアを囲みながら、ニャアンが興味津々に尋ねる。
修二は少し考えた。
リーシャとエリナは修二にとっては他人同然だ。
しかも、ほんの一瞬だけしか会っていない。
ただ、この異世界にいる中年男ユークにとっては、かけがえのない家族のはずであった。
「…妻のリーシャは優しくて、料理が上手い人だ。娘のエリナはまだ小さいけど、元気いっぱいでね」
そう語る修二の表情は柔らかかった。
「奥さんと娘さんか」
アマテが少し寂しそうな表情を浮かべる。
「でもよ、ユーク。あんたには、キョウカっていう大事な人がいるんじゃないのか?」
「え?」
修二は驚いて顔を上げた。
「寝言で何度も言ってるのをアタシは聞いたんだ。〝キョウカ〟〝キョウカ〟ってね」
「あ、ああ…」
「キョウカさん? えっと…キョウカさんってのは、ユークさんのお姉さんか何かなの?」
ニャアンが無邪気に尋ねる。
「いや…違う。京香は俺の大切な人なんだ」
「大切な人ですか? それは奥さんと娘さんよりも?」
「そういう話じゃないんだ。ごめん、今は上手く言えないけど」
修二はそう言って、空を見上げた。
その真剣な表情を見て、三人は何も言えなくなってしまう。
「まあその感じだと、愛人ってわけでもなさそうだし。深くは詮索しないでおくさ」
「ありがとう、アマテ」
「なんにしても! 奥さんと娘さんは大事にしないとダメだよ~! ユークさん!」
「うん。分かってる」
ニャアンの言葉に修二はしっかりと頷いた。




