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34話 死の山の調査

「うわぁ~~! 雲、めっちゃ近いよ~!」


 ニャアンが山道を駆け上がりながら大はしゃぎしていた。

 その後ろからミリアとアマテ、修二が続く。


 エルド連邦の死の山。

 元々、火山であるこの山は、大噴火で周辺地域に甚大な被害をもたらしたという歴史を持つ。


 ただ、今はまだ噴火はしていない。


(勇者パーティが武闘大会に優勝後に火山の噴火が始まるってポストがあったけど、どうやら流れが変わったみたいだな)


 イベントを遅らせられたことに手応えを抱きつつも、修二はまだ安心はしていなかった。

 噴火の兆候があるのは間違いないからだ。


「ようやくここまで登って来ましたね」


「はぁ、はぁ…。そうだな…」


「大丈夫ですか、ユークさん?」


「ああ、早く登っちまおう…」


 中年の体にほとんど慣れたとはいえ、体力は10代と40代ではまるで異なる。

 なんとか三人について行く修二。


「アストラル国王にも宣言してきたんだ。こんなとこでへばってられないぜ。きちんと登って調査しないとな、勇者様?」


「もちろん、そのつもりさ…」


 どこか楽しそうに笑うアマテに答えながら、修二は胸元に掲げられた神聖勇者の証であるメダルを無意識に触った。

 

 あの王国武闘大会から一週間。

 修二は勇者としての自覚を抱きつつあった。


(たしかにそうだ。こんなことで挫けてられない)


「ユークさん! がんばれー! もうちょっとだよ~!」

 

 ニャアンに応援されながら、修二は登り続ける。

 その後、四人は中腹の平らな場所に到達した。


「ふぅ…。ここらで一旦休憩しようかね」


「そうですね」


 アマテとミリアが大きな岩に腰を掛ける。

 その視界の先には、アストラル王国の景色が一望できた。


「わぁ~! すっごく綺麗~!」


 ニャアンが目を輝かせる。


(すごい…)

 

 息も切れ切れの修二だったが、絶景を眺めたことで疲れも一気に吹き飛んでしまう。

 ふと京香のことが頭に過った。


(この景色、京香にも見せてあげたかったな)


 三人とは少し離れた岩場の影に隠れて座ると、修二はスキルを発動させた。


 【@isekai_villager_A: 今エルド連邦の死の山を登っている 標高はかなり高い 攻略も終盤に差し掛かってきた気がする #クリファン攻略】


 絶景を眺めたせいだろうか。

 なんとなくそんなポストをする修二。


 普段なら、リアクションはほとんどないのだが――。


(!)


 ふと、リプライが来ていることに気づく。


 【@MirokuinMasato30: 頂上の近くで開発者の痕跡が見つかるかも】


 修二は目を見開いた。


(開発者の痕跡…?)


 どこか得体の知れない感覚を抱きつつ、文章を読み返してみる。

 何度読み返しても、意味はよく分からなかった。


 その時。


「ユークさ~ん!」


 ニャアンの声が聞えたことで、修二は《エックスリンク》の画面をとっさに閉じる。


「そんなとこで何やってるのー?」


「いや、こっちからもいい眺めだったからさ。そろそろ出発するか?」


「そうだね。そろそろ山頂も近いから、がんばって一気に登っちゃおうかー!」


 ニャアンと話しながら、修二は元の場所へと戻る。

 それからすぐ、四人は再び山道を登り始めた。



 

 ◇◇◇




 山頂付近。

 

「ユークさん、あれ見て!」


 突然ニャアンが指さす方向に、大きな穴が見えた。


「なんだ? こりゃ…」


「洞窟の入口みたいですね」


 アマテとミリアが穴に近づいていく。


「なんでこんなところに洞窟があるんだろう?」


 首をかしげるニャアンの横で修二は考えた。

 頭に過るのは、先ほどのリプライだ。


 ひょっとしたら、ここに開発者の痕跡とやらがあるのかもしれない。


「中に入ってみよう」


 修二のその言葉に三人は頷く。

 慎重に洞窟へと足を踏み入れた。


 内部はじめじめとした空気が漂い、壁には奇妙な文様が刻まれている。


「これは…文字…?」


ミリアが壁に触れながら言った。


「読めるの?」


 アマテが尋ねると、ミリアは首を横に振る。


「いえ。これはまったく見たことのないものです」


「あっちにも何か書かれてるよ!」


 ニャアンが奥の通路を指差した。

 そこには――。


 見覚えのある現代日本語で何かが書かれていた。


(こ、これは…!)


 修二は恐る恐る近づき、文字に顔を寄せる。


(クリムゾン・ファンタジア…β版テストプレイ記録…主任プログラマー 佐々木

誠一? な…なんだ、これ…?)


 修二は動揺を隠せなかった。

 そこにはさらにこう続いていた。


 〝この同人ゲームは未完成のまま終えることになる。作り上げたラスボスは私たちの想像を超えて成長し、制御不能になってしまった。いつか誰かがこのメッセージを見つけ、この世界を救ってくれることを願う〟


「ユークさん、これ読めるの?」


 ニャアンが不思議そうに聞いてきた。


「あ、ああ…。これは特殊な古代文字で、偶然読めるんだ」


 修二は言い訳をしながら、さらに壁を調べた。

 すると、小さな台座が見えてきた。


「あれは…」


 四人が近づくと、台座の上に古びたノートブックが置かれていた。


 修二がそれを手に取ると、ノートブックの表紙には『クリムゾン・ファンタジア 設計資料』と書かれていた。


「古代の書物か何かか?」


 アマテが覗き込む。


「…ああ。持ち帰って詳しく調べよう」


 修二は慎重にそう答えると、ノートブックをアイテム袋へとしまった。


「もう少し中を調べてもいいか?」


 三人に確認を取ると、修二はさらに洞窟の奥へと進んだ。

 するとそこには、まるで現代のコンピュータのような装置が置かれていた。


「!」


 修二が近づくと、装置が突然光り始める。

 スクリーンには文字が浮かび上がった。


 【システム診断中――クリムゾン・ファンタジア バージョン0.9β――バグ検出:ラストボス制御不能――緊急シャットダウン失敗――】


「なんて書かれているのでしょう?」


 ミリアが尋ねる。


「えっと…」


 修二は何と説明すべきか迷った。

 

 この装置はゲーム開発に関わるものに違いない。

 ただ、これが何を意味するのか、修二には分からなかった。

 

「とりあえず触らないほうがいい。危険かもしれないから」


 そう言って修二は仲間たちを装置から遠ざけた。

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