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32話 勇者パーティとの決闘 ②

 審判の合図と同時に、両パーティが動き出した。


「行くぞ」


 修二の指示で、四人はあらかじめ決めていた陣形を組んだ。

 前衛にアマテ、中衛に修二とニャアン、後衛にミリアという形だ。


 対するトウヤたちは、予想外の動きを見せた。

 重装戦士の男と弓使いの女がトウヤの前に立ち、彼を守る形となる。


 魔法使いのルナは後方で詠唱を始めた。


(完全に守りのシフトだな)


 修二は眉をひそめる。


「わたしが先手を打ちます」


 ミリアが杖を掲げる。


「氷の矢よ、射抜け! アイスアロー!」


 彼女の詠唱と共に、空中に複数の氷の矢が形成され、勇者パーティへと飛んでいった。


 だが――。


「くだらないね」


 トウヤが前に出るや否や、剣を一振りする。

 氷の矢はすべて粉々に砕け散った。


「っ…」


 ミリアが驚きの声を上げる。


「次は俺たちの番だ。ゲイル、頼むよ」


「おう!」


 重装戦士の男が前に出た。

 彼の巨大な斧が大地を叩くと、闘技場全体が揺れ始めた。


「アースクエイク!」


 地面が波打ち、修二たちの足元が不安定になる。


「くっ…!」


 アマテはなんとか踏ん張ったが、ニャアンが転びそうになる。


「こっちだ、ニャアン!」


「う、うんっ!」


 修二が彼女の腕を掴んだ。


 その隙に、弓使いの女が連射を始める。

 矢は閃光を放ちながら、まるで流星群のように降り注ぐ。


「みんな、散らばれ!」


 修二の指示で四人はそれぞれ別方向に逃げるが…。

 矢は追尾効果があるようで、方向を変えて追いかけてくる。


(チッ…)


 修二は精一杯避けるが、肩に一本の矢が刺さった。

 アマテも足に矢を受け、ニャアンは何とか回避するものの息が上がっている。


「いきなり開幕から全力かよ…!」


 アマテが呻く。

 

 そんなタイミングでルナの詠唱が完了した。


「氷と炎の狭間に揺れる雷光よ、敵を貫け! トライエレメントボルト!」


 三色の魔法弾がうねるように飛んでくる。


「伏せるんだ!」


 修二の叫びも遅く、魔法弾は四人の周囲で爆発した。

 衝撃波で修二たちは吹き飛ばされる。


「っ…!」


 砂地に倒れた修二は、すぐに立ち上がろうとするが、トウヤがすでに目の前に立っていた。


「残念だったな。これで終わりだよ」


 トウヤの剣が振り下ろされる。

 修二は反射的に透明の短剣で受け止めるが、力負けして膝をつく。


「ハッ! この程度かよ! 笑わせやがる…この田舎者が!」


 トウヤの瞳には勝利の色が浮かんでいた。

 観客席からも〝勇者様の勝ちだ〟〝さすがはトウヤ様!〟という歓声が上がる。


 しかし——。


「その自信…吹き飛ばしてやるよ」


 修二の唇が微かに動いた。


「今だ!」


 その合図をきっかけに何かが起こる。

 アマテが忽然と姿を消したのだ。


「なっ…!?」


 トウヤが周囲を見回す。

 そして、彼の背後に青い光が走った。


「うわっ!」


 不意打ちを受け、トウヤが前のめりに倒れる。

 空中に浮かぶブルーファングだけが見えた。


 トウヤの仲間たちも混乱している。


 実は――これこそが修二たちの秘策だった。

 パーティで練った作戦は、修二のシルバーライト・アーマーを一時的にアマテに貸し、彼女を透明化させるというものだったのだ。


「反則だぞ!」


 トウヤが怒りの声を上げる。


「反則? これはただの防具の効果だよ。こんなもの使うのは当然のことだろ」


 修二は冷静に返した。


「そっちは四人がかりでいきなり襲いかかってきたじゃないか。それは反則じゃないのか?」


「黙れ!」


 激昂したトウヤは再び剣を構えた。


「いくら見えなくても、動きさえ読めれば…!」


 彼は地面の動きを観察し、アマテの位置を予測する。

 そして、剣を大きく振り回した。


「当たったぞ!」


 剣先が何かに触れた手応え。

 しかし——。


「残念、外れ」


 アマテの声がトウヤの背後から聞こえた。

 彼が切り付けたのは、ニャアンが放った幻影だった。


「ユークさん、今だよ!」


 ニャアンの声に応え、修二は体勢を立て直した。

 ミリアも杖を掲げ、新たな詠唱を始める。


「水よ、騎士の形となれ! ウォーターナイト!」


 闘技場の砂から水分が集まり、騎士の姿をした水の精霊が現れた。


「あれは…高位召喚魔法…!」


 ルナが驚きの声を上げる。


 水の騎士は重装戦士の男に突撃し、彼を押し込んでいく。

 弓使いの女は透明化したアマテを探そうと矢を乱射するが、まったく当たらない。


「くっ!」


 トウヤは冷静さを失いつつあった。


 その隙にニャアンが光のブレスレットを取り出した。

 これは、普段は防具としての機能しかないが、実は緊急時に道具としても使える代物だった。


「これでどうだ!」


 ニャアンはブレスレットから放たれる光線をトウヤに向けて放った。

 まばゆい光がコロシアム中を照らす。


「うわああっ!」


 光を直視したトウヤは一時的に視界を奪われた。

 そこへ修二が接近し、トウヤの剣を弾き飛ばす。


 そして――。


「これで終わりだ!」

 

 最後に胸元に透明の短剣を突きつけた。


 ミリアの水の騎士が重装戦士の男と弓矢の女を押さえ込み、透明化したアマテはブルーファングでルナを封じ込めた。


 場内が静まり返る。


「勝負あり! 勝者、オーリアの冒険者パーティ!」


 審判の宣言と共に、コロシアムは歓声と驚きの声で沸き立った。


「嘘だろ…。勇者様たちが負けた…?」

「あんな田舎連中に敗れるなんて…」

「いや、すごいぞ! あのおっさん!」

「見事な戦術だったな! 見ごたえあったよ!」


 観客の間でも様々な声が飛び交う。


 トウヤは膝をつき、信じられないという表情を浮かべていた。


「負けた…この俺が…?」


 彼の声は震えていた。


「悪いけど、今回は俺たちの勝ちのようだな」


 修二は短剣を収め、トウヤに手を差し伸べた。


「でも、そっちが強いのは認めるよ。こっちは武器と防具に頼ってたし、これがなかったら勝てなかったかもしれない」


  トウヤは一瞬、修二の手を見つめた後、ゆっくりと立ち上がった。

 だが、修二の手は取らなかった。


「覚えておけ、おっさん。次は負けないからな」


 そう言い残し、トウヤは仲間たちを連れて闘技場を後にした。


「ユークさん! 勝っちゃったよ~! 公認勇者のパーティに!」


 ニャアンが飛びついてきた。


「ああ」


 修二は微笑む。

 アマテも近づいてきて肩を叩いた。


「作戦通りいったな。あんたの言うとおりだった」


「いや。みんなの協力があったからこそさ」


 ミリアも嬉しそうに微笑んでいる。


「皆さん、素晴らしい戦いぶりでした」


 国王の声が響き渡った。

 貴賓席から立ち上がった国王は、修二たちに向かって拍手を送っている。


「勇者パーティに勝利の皆さんはこれより玉座の間へお越しください。表彰式を執り行います」


 四人は観客の歓声に包まれながら、コロシアムを後にした。

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