31話 勇者パーティとの決闘 ①
決勝で『紫電の剣士』を難なく撃破した修二たち。
エクストリームマッチを控え、部屋には緊張感が漂っていた。
「いよいよだな」
窓辺に立ち、夕暮れの王都を眺めながらア修二は呟く。
「あの人たちとついに戦うんだね…!」
ニャアンがベッドの上で正座しながら興奮した様子で言った。
「あんな傲慢な奴、ぶちのめしてやるよ」
アマテが新調したブルーファングを磨きながら闘志を燃やす。
彼女の剣からは青い光が静かに脈打っていた。
「作戦を確認しておきましょう」
ミリアが冷静に言う。
テーブルには彼女が書いたメモが広げられていた。
「まずは相手のパーティ構成だが…」
修二がメンバーたちの前に立ち、メモを見て話し始める。
「勇者パーティは四人構成。リーダーのトウヤ、蒼髪の魔法使いルナ、それからあと二人は?」
「重装の戦士と弓使いです」
ミリアが資料を確認しながら答えた。
「弓使いは見てないけど、重装の戦士の方は噂で聞いたことがある。なんでも装甲はゴーレムよりも硬いらしいね」
アマテが不安そうに言う。
「そうなのっ? だ、大丈夫かなぁ…」
ニャアンが心配そうに口にする。
その大きな瞳には不安の色が浮かんでいた。
「問題ないさ」
修二は自信を持って言った。
「俺たちにはこいつがあるから」
そう言って、彼はシルバーライト・アーマーを指差した。
鎧は夕陽を浴びて輝いている。
「透明化で相手の死角から攻撃…。たしかに効果的かもね」
アマテが考え込みながら言った。
「でも、あいつらも俺たちの戦い方を研究してるはずだ。透明化だけで勝てるとは思えない」
「その通りです。なので…」
ミリアがメモを指さす。
「私たちはこのような作戦で臨みましょう」
その後、四人は夜まで作戦会議を続けた。
各自の役割を決め、様々なパターンを想定しての対応策を練る。
そして――。
◇◇◇
王国武闘大会エクストリームマッチの朝が訪れた。
コロシアムは史上最高の人出だと言われるほどの観客で埋め尽くされている。
あらゆる席が埋まり、立ち見客も出るほどだ。
貴賓席には国王をはじめとする貴族たちが着飾って座っていた。
その横では、商人や富豪たちが高額な席料を払って観戦している。
「会場の熱気がすごいですね」
ミリアが参加者用の通路から覗きながら言った。
「王国公認の勇者様たちとの対決だもんね」
ニャアンも興奮気味だ。
「緊張してる?」
アマテが修二の肩を叩く。
「いや、むしろ楽しみだよ」
修二の顔には穏やかな笑みが浮かんでいた。
彼の心の中では、現実世界の京香の姿が浮かんでいた。
(京香…俺、負けないからさ)
中年の体にも、この異世界にもすっかり慣れ、最近の修二は《エックスリンク》のスキルを使用しなくなっていた。
現実世界のポストばかり眺めていると、自分の置かれている状況があまりにも理不尽で、納得できなくなってくるからだ。
だから、距離を取るようになっていた。
(でも…。それは京香のことを忘れるってことじゃない)
修二の心の中にはいつでも恋人の姿があった。
「おーっと、来たぞ!」
アマテの声で我に返ると、向かいの通路から勇者パーティが現れた。
最前列にはトウヤ。
金色の髪が朝日に照らされ、まるで後光が差しているように見える。
金と銀で彩られた鎧に身を包んでいた。
その後ろには、すでに修二が見知っている蒼髪の魔法使いルナ。
そして、巨大な斧を担いだ重装戦士と、背が高く無表情な弓使いが続いていた。
トウヤが鋭い視線を修二に向ける。
「決勝は見事だったよ。『紫電の剣士』を一瞬で倒すとはね」
その言葉には皮肉が滲んでいた。
「だが、今日は簡単に行くと思わないことだな、おっさん。絶望を味わう準備はできているか? ハハハ!」
「こちらこそ、そう言いたいかな」
修二は平静を装いながら返した。
「フン。今のうちだけさ、そんな生意気な口叩けるのも。滅多に真の実力は見せないんだけど、今日は特別だ。全力で相手してやるよ」
修二の言葉に表情を硬くしたトウヤだったが、すぐに高慢な笑みを取り戻す。
「では闘技場で会おう」
そう言い残し、勇者パーティは自分たちの待機場所へと向かった。
「あいつ、めっちゃムカつく~!」
ニャアンが頬を膨らませる。
「そのイライラを力に変えろ」
修二が言うと、彼女は力強く頷いた。
そして、いよいよ彼らの出番が訪れた。
「さあ、皆さん! 待ちに待ったエクストリームマッチの時間です!」
司会者の声が場内に響き渡る。
「我ら王国が誇る勇者パーティ! 対するはオーリアからやってきた連勝中の冒険者一行! 一体どちらが勝利するのか!?」
歓声が轟く中、修二たちは闘技場へと足を踏み入れた。
その場に立つと、視界いっぱいに観客席が広がっている。
あまりの人の多さに、ニャアンが思わずひるんだ。
「大丈夫、いつも通りやればいい」
修二が彼女の背中をそっと押す。
「うんっ! がんばろー! ユークさん!」
向かい側からはトウヤたち勇者パーティが登場。
場内の歓声は一層大きくなった。
「我ら王国の公認勇者――トウヤ様たちの登場です!」
アナウンスと同時に、特別な音楽が流れ始める。
観客はほぼ全員が立ち上がり、トウヤに声援を送っていた。
(さすが、アストラルの英雄だな)
修二は冷静に状況を観察する。
中央に審判が立ち、両チームを呼び寄せた。
「エクストリームマッチのルールもこれまでの試合と同様です。どちらかのパーティが全滅するか、降参するまで。もちろん、殺人は禁止となります」
審判はトウヤと修二の顔を交互に見た。
「リーダーは承認を」
「了解した」
トウヤが傲然と答える。
「分かりました」
修二も頷いた。
「位置について!」
両チームは闘技場の反対側に戻る。
それぞれ陣形を組み、相手の様子を窺っていた。
「両者、準備はよろしいですか?」
審判の声が響く。
修二とトウヤの視線が空中で交錯した。
「それでは…王国武闘大会、エクストリームマッチ…始め!」




