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30話 VS砂の一族

 武闘大会の準決勝、当日。

 王都は祝祭ムードに包まれていた。


 朝早くから街は活気にあふれ、人々はコロシアムへと向かう。

 

  至る所で店が出され、子どもたちは興奮した表情で走り回っていた。


「すごい熱気だね!」


 ニャアンが目を輝かせる。


「この王国で最大のイベントらしいからね」


 アマテが答えた。


 四人はコロシアムへと向かった。

 参加者用の入口で係員に案内され、準備室へと通される。


「第一試合が終わるまでここでお待ちください」


 係員の説明を聞き、四人は準備を始めた。

 修二はシルバーライト・アーマーをしっかりと装着し、透明の短剣を確認する。


 アマテはブルーファングを研ぎ、ミリアは銀の杖に魔力を込める。

  ニャアンは聖なるブレスレットを腕に巻きつけた。


「準備は万全だな」


 修二が満足げに言った時、部屋のドアが開いた。


「もう準備は良いようだね」

 

 入ってきたのは、大会の運営担当を名乗る男だった。


「今日の対戦カードを教えてあげよう。第一試合は『紫電の剣士』対『炎舞闘技団』。第二試合が君たちと『砂の一族』だ」


 修二は先日ゴルドから聞いた情報を思い出す。


「砂を操る魔法使いたちのパーティだ。注意したほうがいい」


 男は忠告するように言った。


「どうも。参考になります」


 修二が礼を言うと、彼はニヤリと笑った。


「国王陛下が君たちに大いに期待されているよ。がっかりさせないでくれたまえ」


 そう言い残して、運営担当の男は部屋を出て行った。


(『砂の一族』か…)


 修二は考え込んだ。


「砂を操るなら、どんな戦法が有効だろう?」


「水の魔法がいいですね。砂は水を含むと重くなりますから」


 ミリアが提案する。


「なるほど…。ミリアは水系の魔法って使えたっけ?」


「はい。中級程度の魔法でよろしければ」


「よし。なら、作戦を立てよう」


 修二はみんなを集め、戦略を練り始めた。


 そうしているうちに、第一試合が始まったことを告げる太鼓の音が響いた。


(始まったか)


 修二たちは準備室の小さなモニターで試合を見守る。


 『紫電の剣士』と『炎舞闘技団』の戦いは熾烈を極めた。

 紫色の電撃と赤い炎が闘技場で激しくぶつかり合う。


「すごい戦いだよぉ…」


 ニャアンが息を呑む。


 結局、『紫電の剣士』が僅差で勝利を収めた。


「次は俺たちの番だな」


 修二が立ち上がる。


「みんな、作戦通りにいこう」


 四人は闘技場への入口に向かった。


 大きな扉が開き、まばゆい光と共に轟くような歓声が彼らを迎えた。

 何万もの観客が詰めかけたコロシアムは、熱気で溢れていた。


「さあ! 準決勝・第二試合の始まりです!」


 司会者の声が場内に響く。


「オーリアの冒険者ギルドからやって来た噂のパーティ! 魔法使いのミリア! 戦士のアマテ! 聖女見習いのニャアン! そして、リーダーのユーク!」


 名前が呼ばれるたびに歓声が上がる。


「対するは、砂漠町のギルドから参上した砂の使い手たち! 『砂の一族』!」


 反対側から五人の覆面姿の戦士が登場した。

 全員が砂色のローブを纏い、手には湾曲した短剣を持っている。


「両者、中央に!」


 審判の号令で両チームが中央に進み出る。


「ルールは簡単。どちらかパーティが全員戦闘不能になるか、降参するまでとなります。なお、殺人は禁止です」


 両チームが頷くと、審判は高く手を上げた。


「それでは…王国武闘大会、準決勝第二試合…始め!」


 審判の手が下ろされた瞬間、『砂の一族』が一斉に動き出した。


「来るぞ!」


 修二が叫ぶと同時に、闘技場の砂が巻き上がり始めた。


「砂嵐の幕よ、立ち上がれ! サンドベール!」


 彼らの呪文と共に、視界を覆う砂嵐が発生した。


「くっ、見えない…!」


 アマテが目を細める。


(ここまでは予想通りだ。頼むぞ、ミリア)


 修二の思いに応えるように、ミリアが杖を高く掲げた。


「潤いの雨よ、降り注げ! アクアレイン!」


 彼女の呪文と共に、闘技場の上空に濃い雲が現れ、一気に雨が降り出した。


「なっ…!」


 『砂の一族』の驚きの声が聞こえる。

  雨に濡れた砂は重くなり、砂嵐は急速に収まっていった。


「次はニャアン! 行け!」


「は~い!」


 ニャアンのブレスレットが強く輝く。


「癒しの風よ! リカバリングブリーズ!」


 清涼な風が吹き、砂の粒子を一掃した。

 視界が晴れ、砂の一族の姿がはっきりと見えるようになる。


「アマテ!」


「任せろ!」


 アマテはブルーファングを構え、一気に『砂の一族』へと突進した。

 青い光を放つ剣が、砂の一族を次々と薙ぎ払う。


「くッ…! こんなことが…!」


 一人、また一人と砂の一族が倒れていく。

 最後の一人が必死に砂を集めようとするが、雨で重くなった砂はほとんど動かない。


 そこへ修二が接近した。

 シルバーライト・アーマーにより半透明になった修二の姿に、彼は驚きの表情を浮かべる。


「終わりだ」


 修二は透明の短剣を彼の喉元に突きつけた。


「降参だ…」


 男はそう言って膝をついた。


「勝者! オーリアの冒険者パーティ!」


 審判の声と共に、場内は大歓声に包まれた。

 

 主賓席の方を見上げると、国王が満足げに拍手をしている。

 その隣に座るトウヤは、明らかに不機嫌な表情だった。


「第一関門、突破だね!」


 ニャアンが飛び跳ねて喜ぶ。


「ああ。でも本番はこれからだよ」


 修二はトウヤの方を見つめながら言った。


(明日の決勝戦で、勇者パーティと対決する…)


 頭の中で戦略を練りながら、修二は決勝戦への道を進むのだった。

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