27話 アストラル王国に到着する
それから二日後。
一行はようやくアストラル王国の国境に到着した。
ここには大きな検問所があり、多くの旅人や商人が行き来していた。
「ユークさん、見て! あそこに何か掲示されてるよ!」
ニャアンが指さす方向を見ると、大きな掲示板に武闘大会の告知が貼られていた。
〝王国武闘大会 今年もいよいよ開催! 勇者パーティVSチャレンジャー 栄光は誰の手に!〟
修二はポスターをじっと見つめた。
「勇者パーティ…」
「ああ、トウヤたちのことか」
アマテが腕を組みながら言った。
「知ってるのか?」
「最近話題のパーティだよ。そのリーダーがトウヤ。奴は国王から〝勇者〟としてお墨付きをもらってるんだ」
「へえ! 国王様から勇者様として認められたなんて、きっとすごい人なんだね!」
「なんでもスタンピードしたモンスターの大群から王都を救ったらしくてね。以来、王国のお抱え勇者として活躍してるみたいだよ」
(なるほどな)
この異世界での勇者はどうやらそういう存在らしい。
「勇者様も参加するってことは、あとで会えるかもね! 楽しみっ!」
「一体どんな人なのでしょうか」
「アタシも興味ある。まあ、実際会ってみたら大したことない奴だってことも多いから、あまり期待はできないけどね」
なにはともあれ。
三人とも勇者パーティの存在が気になるようだ。
それは修二も同じだった。
◇◇◇
それから検問所での手続きを済ませ、一行はアストラル王国の領内へと足を踏み入れた。
道は次第に整備され、人々の往来も増えていく。
王都に近づくにつれ、街道沿いには立派な宿場町が立ち並び始める。
「すごい…! さすが王国だね!」
ニャアンが目を丸くして周囲を見回す。
「かなり栄えてますね」
ミリアも感心した様子だ。
「俺たち、なんだか場違いじゃないか?」
修二は少し不安になった。
洗練された街並みに圧倒され、少し弱気な発言をしてしまう。
「大丈夫だって。アタシらはオーリアで一番有名な冒険者パーティなんだから。胸を張りなよ」
アマテが修二の背中を叩く。
その時。
「おい、君たち!」
突然、銀色の鎧を着た男たちが彼らの前に立ちはだかった。
その胸には王国の紋章が輝いている。
「王国騎士団です…」
ミリアが緊張した面持ちで小さく口にする。
「我々は王国騎士団第三部隊だ。君たちが噂のメガトンロプス討伐のパーティか?」
「そうだけど。それがなんだっていうんだい?」
アマテが大剣を担ぎながら前に出て答える。
「いや…。王都へ向かっている途中と聞いていたので出迎えに来た。国王陛下が君たちに会いたがっている」
四人は驚きの表情を浮かべた。
「王様が…俺たちに?」
招待状が届いただけでも驚きだというのに、直接会いたがっているというのはまったく予想していないことだった。
「国王陛下は君たちを歓迎するとのことだ」
騎士団の隊長だと名乗る男の目には、明らかな敬意の色が浮かんでいた。
「これは予想外だね」
アマテが小声で言う。
「どうするの、ユークさん?」
ニャアンの言葉に頷きつつ、修二は隊長に尋ねる。
「俺たちはどうすればいいですか?」
「我々が王都まで護衛する。馬車も用意してあるからな」
彼らが案内された馬車は、王国の紋章が施された豪華なものだった。
「すっごい~! 見て見て!」
ニャアンが興奮した様子で馬車に飛び乗る。
王都への道が修二たちの前に開かれた瞬間だった。
※※※
王都は、修二の想像を遥かに超える壮大さだった。
高さ30メートルはある城壁に囲まれた街は、石畳の通りが整然と配置され、美しい建物が立ち並んでいた。
中央には巨大な城が聳え立ち、その尖塔は雲に届くかのようだった。
「これが…王都なんですね…」
ミリアが息を呑む。
「まるで映画のセットみたいだぜ」
修二は思わず現実世界の言葉を口走った。
「映画? 何それ?」
ニャアンが首をかしげる。
「あ、いや…俺の故郷の言葉だよ。とにかく、すごいってことさ」
馬車は街の中央を通り、王城へと向かった。
沿道には多くの人々が集まり、彼らを見ようと殺到していた。
「噂のオーリアのパーティだって!」
「銀髪の子が聖女見習いで、紫髪の子が魔法使いみたい!」
「あの赤髪の女剣士、すげえかっこいいな!」
「こんなパーティをまとめるリーダーってどんだけすごいんだ!」
歓声が上がる中、四人は少し気恥ずかしい思いをした。
「まるで見世物だな」
アマテが苦笑いを浮かべる。
その後、王城に到着すると、彼らは玉座の間へと案内された。
そこには、威厳に満ちた中年の男性が玉座に座っていた。
その横には若い騎士たちが控えている。
「はるばるガイアの地からよくやって来てくれた。我が王国に来訪されたこと歓迎する」
国王の声は澄み渡り、広間に響き渡った。
「陛下、本日はお招きいただき感謝いたします」
修二は慎重に一礼した。
「勇敢な冒険者たちよ、そなたたちの功績は既に我が王国にも届いている。特に、その半透明になる不思議な力は興味深い」
国王は修二を見据えた。
「そこまでご存知でしたか。たいしたことではありません。この鎧の効果です」
修二は謙虚に答え、鎧を国王に見せる。
「ほう…素晴らしい防具だ。数日後に始まる武闘大会も楽しみというもの。そなたたちには特別枠として参加してもらいたいと思っているのだが、どうかね?」
「もちろんです。そのために自分たちはやってまいりました」
修二の返事を聞いて、国王は納得したように頷く。
「優勝者には王国最高の名誉と共に莫大な報酬が与えられる。もちろん、我が国の勇者パーティが一番の有力候補ではあるが…」
国王の言葉に、横に控えていた一人の若い騎士が一歩前に出た。
「陛下、この者たちが例のオーリアのパーティですか?」
その若者は10代後半といった風貌で、金色の髪と青い瞳が印象的だった。
華やかな甲冑に身を包み、腰には宝石で飾られた剣が下がっている。
「そうだ。トウヤよ、そなたと同じく優れた戦士たちだ」
修二は息を呑んだ。
(こいつが勇者トウヤか)
「へぇ…。こんなおっさんがねぇ」
トウヤは修二を上から下まで値踏みするように見た。
その目には明らかな侮蔑の色が浮かんでいる。
「メガトンロプスを倒したとか、言ってるらしいですね。どうせ誇張された噂でしょう。本当に倒したのなら、証拠を見せてほしいものですね」
トウヤの挑発的な問いに、修二は冷静に応じた。
「心臓なら持ってますけど」
「…ほう。なら見せてもらおうか」
修二はアイテム袋から黒く脈打つ心臓を取り出した。
その瞬間、場の空気が凍りついた。
「っ! これは…本物…?」
トウヤは明らかに動揺していた。
しかし、すぐに高慢な表情を取り戻す。
「たまたま勝てたのでしょう。弱っていたところを一撃したとかね。武闘大会では本当の実力を見せてもらいますよ」
そう言い残し、トウヤは踵を返して立ち去った。
「失礼」と、国王は苦笑いを浮かべた。
「トウヤは若く、血の気が多い。だが、優れた勇者であるのは間違いない。彼との対決は見ものとなるだろう」
「楽しみにしています」




