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23話 魔王復活の予兆

「この古文書も一緒に見て」


 それはその火山に関する記録を記した書物のようだ。


「焔山の大噴火によってエルド連邦の大半が壊滅したって話だよ。隣国のアストラル王国とフェンリル帝国にも大きな被害が及んだみたい」


「ずいぶん物騒な話だね」


 アマテの言葉にニャアンは頷きながら答える。


「でも。その噴火を止めたのが勇者様って話なの」


 その話を聞いて、修二はハッとする。


 〝聖剣エクスカリバーは我ら村の宝。古くから伝わる勇者の剣です。ヴォルガ火山の噴火を抑える力があるとも言われておりますから〟


(そうだ…。ヴァレスの村長がそんな話をしてたぞ)


「勇者様は闇の支配者を倒して、噴火を鎮めたんだって」


「闇の支配者だって? なんだよそれ」


 少しバカにしたようなアマテの言葉に、今度はミリアが口を開く。

 その表情は真剣だ。


「魔王のことです。多くの書物にはそうやって濁して記録されています。おそらく、人々を不安にさせないために直接的な表記は避けたんでしょう」


「魔王…」


 ついにその言葉を耳にして、修二はグッと気持ちを引き締める。

 ようやく、その存在が明るみに出始めたようだ。


「うん。だから、さっきミリアは不吉な前兆って言ったんだよ。実はエリンダ様にこのことをユークさんたちに伝えておくように言われてたんだ」


「魔王ねぇ…。そんなもの、実際に存在するのかアタシは半信半疑だけどね。どうせ、人々の不安が作り出した妄想ってオチだろうけど」


 二人の話を聞いてもアマテはほとんど信じていないようだ。


「なんにせよ、警戒しておいた方がいい」


「警戒って…なんでだよ、ユーク。アタシらは勇者でも何でもないんだぜ? ギルドから依頼されてクエストをこなすただの冒険者パーティのはずだろ?」


「まあ、たしかにそうなんだけど…」


 アマテの言うことは最もだった。

 だが、修二には魔王を倒さなければならないという個人的な目標がある。


 そのためには、彼女たちの協力が不可欠に違いなかった。


 だが、今そんな話をしても誰もついて来てくれないだろう、と修二は思う。

 もう少し彼女たちとの信頼関係を築く必要があった。


「でも、エリンダ様がこんな地図を俺たちに見せたのには何か理由があると思うんだ」


「まぁね。リーダーのあんたがそう思うんなら、アタシらはそれに従うだけさ」


「うん。ユークさんの言うとおり、エリンダ様には何かお考えがあるんだと思うよ? ひょっとすると、ユークさんが次世代の勇者様になるんじゃないかって、そんなこと考えてるのかも!」


 さすがにそれは話が飛躍しすぎだったが、これ以上この件であれこれ議論しても話がこじれそうだったので、修二は何も言わずに黙っていた。


 そこでミリアが口を開く。


「そういえば…魔法学院でこんな話を耳にしたことがあります。エルド連邦に古代遺跡があるんですけど、そこには焔山の秘密が眠っているという話です」


「え?」


「あくまでも噂ですけど」


 ふと修二の脳裏に、以前調べたポストが甦る。


(メガトンロプスの心臓を持ってそこへ行くと封印された道が開くって…たしかそんなこと書いてあったよな?)


 いつか行かなければならないと思っていた場所が、偶然にも焔山と関係があるという話を聞いて、修二の心は大きく動いた。

 アマテから買い取ったメガトンロプスの心臓がまだ手元にある。


「だったら、そこへ行ってみない?」


 ニャアンが目を輝かせる。


「おいおい。本気で言ってるのか?」


 アマテが眉をひそめた。


「だって、ひょっとしたら、魔王に関する手がかりが見つかるかもしれないじゃん! もし復活の前兆があるなんてことがわかったら、一大事だよ!」


「はぁ…。だから、なんでアタシらがそんなことを調べなきゃならないんだ」


「放っておけないじゃん! そんなことになったら世界の危機だよ!? ギルドのクエストをこなしてる場合じゃなくなるよ!」


 ニャアンの圧に押され、アマテは諦めたように肩をすくめた。


 修二は思案した。

 まだレベルは20そこそこ。


 魔王と対峙するには全然足りない。


 だが、情報収集は必要だ。

 ひとまず、メガトンロプスの心臓を持って古代遺跡へ行き、何が起きるか調べるのは悪くない選択かもしれない。


「ミリア。その遺跡にはどうやって行くんだ?」


「オーリアの北にある砂漠地帯からエルド連邦に入れます。その越えた先に古代遺跡はあったはずです」


「そうか。なら…行ってみるか。みんなはどうかな?」


「ほんとに行くのか?」


 アマテが不満げに言った。


「アマテさん、怖がらなくても大丈夫だよ! ユークさんがついてるんだし!」


 ニャアンが明るく言うと、アマテはムッとした。


「怖いわけないでしょ? アタシが気にしてるのは金だけ。そんなところへ行っても稼げるわけじゃないだろ?」


「わたし…少し不安です」


 ミリアが小さな声で言った。


「いや。みんな無理に行かなくてもいいんだ。最悪、俺一人だけでも――」


「いえ…行きます」


 ミリアは真剣な表情を浮かべた。


「ユークさんの力になりたいんです。それに、魔法使いとしても成長したいから」


 その決意を見て、修二は微笑んだ。


「ありがとう。そう言ってくれて嬉しいよ」


「はぁ。あんたたち三人じゃ心配だ。仕方ないね、アタシもついて行くよ」


「そうこなきゃ、アマテさん!」


「うん。じゃあ、みんなで行こう」


 その後。

 話し合いの結果、準備を整えてから翌日の朝出発することに四人は決めた。




 ◇◇◇




 古代遺跡への道は険しかった。

 強い日差しと乾いた風が四人を襲う。


 それでも、彼らは黙々と前進し続けた。


「あっち!」


 ようやく砂漠地帯に入り、数時間歩いたところで、ニャアンが指差した先に何かが見えた。

 

 砂の中から突き出た石の柱。

 それは古代遺跡の一部に違いない。


(はぁ、はぁ…。やっと着いたか…)


 中年の体を引きずり、疲れの色を隠せない修二だったが、目の前の光景に驚いた表情を浮かべる。


 砂に埋もれながらも、かつての栄華を感じさせる巨大な遺跡。

 石柱や壁には奇妙な文様が刻まれていた。


「すごいです…」


 目を丸くするミリア。

 アマテも圧倒されていた。


 二人ともこれほど壮大な建造物を見るのは初めてらしい。


「入口はどこかな?」


 ニャアンを先頭にして、四人は遺跡の周りを歩き回った。


 やがて、大きな石の扉が見つかった。


「わっ!」


 四人が近づくと重い音を立てながら、石の扉がゆっくりと開いていく。


 ゴゴゴゴ…。

 

 内部は漆黒の闇に包まれていた。


「行くぞ、みんな。気をつけろよ」


 今度は修二が先頭に立ち、仲間たちを守るように進んだ。


 内部は予想以上に広く、壁には奇妙な壁画が描かれていた。

 それは巨大な火山と、そこから現れる黒い影のようなもの。


 そして、それに立ち向かう一人の戦士の姿。


「これは…?」


 ミリアが壁画に近づいた。


「勇者様の物語が…描かれているんでしょうか」


 壁画を辿っていくと、最後に一枚の大きな絵があった。

 戦士が黒い影に剣を突き立て、火山の噴火が収まる様子だ。


 修二たちはさらに奥へと進んだ。

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